ザキールは突如イグノーラ城の上空に姿を現わし、困惑する僕らを前にお決まりの不敵な笑みを浮かべるとここにいる理由を語った。
「俺様がここにいる理由? そんなもの貴様らが死ぬのを見届ける為に決まってるだろうが。既に
ザキールが一体どれ程の魔獣を差し向けたのかは分からないが死の山から離れた以上、無尽蔵に魔獣の数が増える事はなさそうだ。
それに加えて父さんをイグノーラから離れさせることが出来ればイグノーラへ行くように指令されている魔獣は辿り着いた瞬間に目的を失わせることができる。
如何にザキールにバレない様に父さんを避難させようかと考えているとザキールはいきなり体を急降下させ、まるで水面の魚を掴み取る鳥のように一瞬で父さんを上空へと攫ってしまった。守れる距離にいたというのに反応が遅れてしまった……やってしまった。
「くっ……父上を離せ!」
ザキールは空中で父さんの腕の関節を固めると僕達を嘲笑いながら狙いを語る。
「ご立派な王様の事だ、俺様を見た瞬間、状況が悪化する前に自害するつもりだったようだ。懐からナイフを取り出そうとしていたようだぜ? だが、魔獣寄せという最低最高のスキルを持っている貴様を殺させはしないぞ? 貴様には生きて地獄を演出してもらわねぇとな」
ザキールはそう言うと父さんの懐に手を突っ込みナイフを取り出して捨てた。そして、手刀を父さんの後頭部へ打ち込むと、いとも簡単に気絶させてしまう。
これで父さんが自害する可能性が無くなり魔獣寄せを機能させ続けられると考えた訳だ。敵ながら合理的で抜け目のない奴だ。
「さあ、楽しい戦争を始めようぜェェ!」
ザキールが狂ったような声を発すると同時にイグノーラの外にいる魔獣達が一斉に咆哮をあげた。遂に魔獣群とイグノーラの戦争が火ぶたを切ってしまった。
父さんを抱えたまま上へ上へと離れていくザキールを止める為に僕は大声で呼びかける。
「降りてこいザキール! 僕と勝負しろ!」
「あ? 馬鹿かてめぇ? 魔獣だけで全滅させられるのにわざわざ下に降りるはずがないだろ。降りてきて欲しかったらまずは魔獣を全滅させることだな。とは言っても魔獣が全滅したらまた死の山から魔獣を連れてきてやるけどな、ギャハハハ」
ザキールの言葉を受けて、せっかく上がっていた兵士と民衆の士気が下がり始めた。まずい……このままでは終わりのない襲撃を想像させて戦いに身が入らなくなりかねない。
ザキールを倒して魔獣の追加を止めさせることが出来れば1番だけど、いくらでも上空へ逃げられるザキール相手では不可能だと思う。最悪ザキールを倒せなくとも兵士と民衆の士気を取り戻させる方法を考えなければ。
何か活路を開くきっかけがほしいと周りを見渡す。すると僕の視界に全知のモノクルを持っているシルバーさんの姿が映った。
その瞬間、ザキールに全知のモノクルの光を照射すれば
「シルバーさん! 今すぐ全知のモノクルをザキールに当ててください!」
「え? わ、分かったぜ!」
シルバーさんはすぐさま全知のモノクルをザキールに向けた。全知のモノクルから発せられた光は一瞬でザキールの肩へと当たり情報を映し出す。
上空にいるザキールは「今、何をしやがった?」と苛立った声で聞いてきたが僕達は無視して、シルバーさんが情報を読み上げ始めた。
「読み上げるぞ、まずはザキールの魔力と魔量だが……え? 魔力も魔量も1000しかないぞ、そんなわけないだろ!」
魔獣を大量に操り、とんでもない火力の魔術を使っていたザキールがそんなに低い訳がない。きっとガラルドさんのように変動できるタイプなのだろう。今はエネルギーを節約する為に弱体化しているのだとしたら魔人全体がコントロールが出来るのかもしれない。
今は数値を気にしない方が良さそうだ。僕は「スキルの方を読み上げてください」とシルバーさんにお願いして続きを読んでもらった。
「えーと、すまん、後天スキルが1つと先天スキルが2つもあるのに後天スキルの
「先天スキルが2つもあるんですか? 魔人の特異性でしょうか。今は
「分かった。
どうやら意外と手間と制約の多いスキルのようだ。刻み込まなければいけない『魔人族の紋章』というのも複雑な柄をしている。こんなものを魔獣1匹1匹に刻んでいたらかなりの時間を消費する事だろう。
その点を考慮するにザキールはイグノーラ壊滅に向けてかなり前の段階から刻印付きの魔獣をストックさせていたと推測できる。言い方を変えれば限界数があるという事だ。
さっきザキールは『魔獣が全滅したらまた死の山から魔獣を連れてきてやる』と言っていたが、あの言葉はハッタリだと証明された。
僕達は今回ザキールが差し向けた魔獣を全滅させれば勝ちなんだ。これで一気に勝利への希望が湧いてきた。僕達が団結すればきっと勝つことができるはずだ。
僕達が全知のモノクルを見ている間、父さんを抱えているせいで上空から降りてこられないザキールのイライラは相当なものだった。
「貴様らァァ! 何をコソコソしてやがる! それにさっき俺様の肩に当てた光は何だァァ? 今更ジタバタしたって手遅れなんだよォォ! さっさと魔獣の餌になれ、カス共がぁぁ!」
意図した訳ではないけれどザキールから見れば返事をそっちのけでコソコソと自身の事を話されている状態だ。奴の逆鱗に触れたようだ。
死の山の時点で分かっていたことだが、やっぱりザキールは相当短気で煽りにも乗りやすいタイプのようだ。
この時、僕はザキールの分かりやすい性格を利用しつつ兵士と民衆に士気を取り戻させるとっておきの言葉を思いつき、皆に聞こえるように大きな声で呼びかけた。
「ザキール! お前のスキルがどんなものかが分かったぞ。それに襲撃させられる魔獣の限界数もな!」