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第165話 理不尽な取引





「ザキール、この質問なら答えられるだろうから答えてくれ。何故ザキールは俺の事を知っていて父親に会わせようとしたんだ?」


 俺はさっきザキール自身が教えてくれようとしていた内容を聞くことにした。すると俺の狙い通りザキールは答えてくれた。


「まず、貴様の父親はある目的があって貴様と会いたがっているんだ」


「……目的なんて言い方から察するに親子が再会して仲良くお話ししよう……なんてことじゃないんだろ?」


「ああ、その通りだ。その目的を俺様から告げる事は許されていないから答えるつもりはない。だが、逆に言えば俺様が貴様を父親のところへ案内すれば貴様は父親と再会できる事になる。どうだ? これで俺様を殺せなくなっただろう?」


 いちいち腹の立つ言い方をする奴だ、こいつは人を煽る天才かもしれない。だが、わざわざ煽るということは、煽りがダメージになると思っているから言っている訳だから乗らずに冷静な返しをするのが1番だ。俺はザキールの言葉を否定する。


「父親に会って、目的が知れるに越したことはないが、それはあくまで理想だ。その為にザキールを自由にさせたり、敵陣に誘導されるような事態になるぐらいなら俺は父親との再会を喜んで諦めるぞ。俺に挑発は効かない、お前はさっさと聞かれた事だけに答えろ」


「クッ……そこのガキ相手のようにはいかないか」


 ザキールは舌打ちをして俺とグラッジを交互に睨んだ。そして、何かを諦めるように大きな溜息を吐くと俺の父親について答え始める。


「まぁ答えられる範囲で質問に答えてやるよ。俺様が何故ガラルドの事を知っていたか……だったよな? それはな――――俺様とお前が兄弟だからだよ」


「……えっ?」


 こいつは何を言っているんだ? 魔人のザキールと人間の俺が兄弟? さっぱり意味が分からない。ザキールが俺を揶揄っているのかと思った俺は気が付けば大声で問い詰めていた。


「ふざけるな! お前が俺と兄弟な訳ないだろう! 仮に魔人のザキールと兄弟なら俺も魔人として生まれなきゃおかしいだろうが!」


「クックック、随分と大きな声を出すじゃないか。さっきまでの冷静さはどうした? 俺様みたいな化け物と同じ血が通っている事実がそんなに恐ろしいか?」


「うるさい、質問に答えろ!」


「その前に冷静になって考えてみたらどうだ? 俺様とガラルドの血が繋がっているにも関わらず種族が違うのだぞ? 両親のうち片方が人間で、もう片方が魔人なのか? といった具合に疑問が湧いてくるだろう?」


「……で、答えは何なんだ?」


「俺様とガラルドの親はもはや人間でも魔人でもねぇ存在だよ。まぁ父親に関しては魔人よりも魔人らしい化け物じみた人間だがな。どうだ? ますます会いたくなってきただろう? 俺様に牙を剥いたことは一旦忘れてやる。だから俺様と一緒に来い、ガラルド」


 そう言ってザキールはボロボロになった左手を俺に差し出してきた。この手を握れば確実に父親に会えるのだろうが、今はザキールを拘束するのが先決だ。


 だが、正直頭の中がパニックになってしまい、まったく考えが纏まらない。親が俺に対して愛情が無い程度の事実ならとっくに覚悟はしていたが、まさか人類に仇なす存在だとは思わなかった。


 それどころか俺の体には忌々しい血が流れているとも考えられる。呪われた地の生まれというステータスだけでも俺の身には重すぎるのに……。グラドを殺した魔人と兄弟だという事実は心が耐えられそうにない。


 視界がチカチカして、手の震えと発汗が止まらなくなってきた。次の言葉が出てこなくて体をふらつかせているとリリスが俺の手を両手でぎゅっと握って、語気強くザキールに言い切った。


「ザキールさんにガラルドさんを連れて行かせる気はありません。例え血のつながりがあろうともザキールさんは倒すべき敵でしかありません。それに、もしガラルドさんのご両親が邪悪な存在だとしても私達は刃を向けさせていただきます」


「一丁前に言うじゃねぇか、確かリリスとかいったか? 少なくともガラルドの父親は人類の敵、つまり俺様寄りの思考を持つ存在だ。リリスはガラルドの父親に刃を向ける覚悟があったとしても、当のガラルドはどうかな? 今まさに動揺して震えているようなビビり野郎が父親を殺せるとは思えんがな。親殺しってのはそれだけハードなものなんだぜ?」


 刺激して、揺さぶろうとするザキールだったが、今のリリスには全く堪えていないようで冷静に言葉を返す。


「殺すとか殺さないという話ではありません、止める為に戦うと言っているのです。それにガラルドさんにとって顔も見た事が無ければ、全く情報もなかった親が突然魔人に近い存在と伝えられれば震えるのも当然です。例えガラルドさんが戦う覚悟を持てなかったとしても私を含む他の仲間達が必ず貴方達を止めます。それが人類の未来を守ることに繋がりますし、ガラルドさんへの恩返しにもなりますから」


 リリスはザキールを真っすぐ見つめて言い切った。この言葉が堪えたのかザキールは舌打ちしていた。


「チッ、その真っすぐな目が気に食わねぇ。いいか、よーく考えろ? 仮に俺様の誘いを蹴って、俺様をきつく幽閉しようものなら俺様の親父が黙ってないぜ? その時はいくらガラルドが親父の息子とはいっても無事じゃ済まされねぇだろうな。親父にとってガラルドより俺様の方がずっと大事な存在だからな。親父は俺様より遥かに強いから本気を出せば貴様らなんかすぐに全滅だぞ? いいから俺様についてこい。貴様らにとって大事な大事なガラルドが殺されたら嫌だろ?」


 今度は俺の命を餌にリリスを脅し始めた。口が回る奴だとは思ったが、まさかこんな理不尽な2択を用意していたとは……流石はザキールと言うべきか。しかし、リリスは負けじと反論する。


「ガラルドさんがお父さんのところへ連れていかれた後、無事にすむ保証もありませんよね? そちらが人類の敵であると言っている以上、ガラルドさんを攫う事自体に人類殲滅の為のメリットがあるのではないですか? だとしたら尚更ガラルドさんは渡せません。それにさっきから親父、親父と言っていますが、貴方が始めた喧嘩じゃないのですか? 小さな男の子じゃないのですから親の力を借りずに自分の力だけで何とかしてみたらどうですか?」


「ぐっ、言わせておけば……」


 ザキールはリリスを睨み、歯ぎしりをしながら手を震わせている。しかし、今のザキールに出来るのは悪態をつくことだけのようで、その後は何も言い返さず暴れたりもしなかった。


 色々とあったがひとまず決着はついたようだ。頭の中は相変わらずごちゃごちゃとしているが、今はザキールを拘束することに集中しよう。俺とグラッジはザキールを鎖できつく縛り上げた。


 とにかく俺達は早くイグノーラへ向かわねければいけない。かなりの魔獣に襲われているようだし、シルバーと合流して死の山で得た情報を伝えなければいけないからだ。


 隣にはすぐにでも暴れ出しそうなザキールがいるうえに、またグラハム王や兵士長ソルと会う事になると思うと気が重いけど仕方がない。





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