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第164話 ガーランド団の力




 ザキールが放った渾身のファイアーストームは無情にもサーシャ達の姿をかき消すように飲み込んでしまった。だが、救出は今からでも遅くはない、俺はリリスの方を見て「俺をあそこへ飛ばしてくれ!」と叫んだ。


 しかし、リリスはサーシャ達のいる方向を見つめながら目を点にしていた。絶望でもなければ困惑でもない表情で向こうを見つめるリリスにつられて俺も視線を向けるとザキールが放ったファイアーストームの着弾点に薄っすらと青い光が見えた。


 あの青い光は恐らく水属性魔術の発光だ、となると光の主はゼロだ。まさかザキールの超強力な火属性魔術に一時的とはいえ耐えるとは思わなかった、流石はゼロと言うべきか。しかし、あれだけの熱量が相手だと持って数秒だろう。


 一刻も早く下側に降りて援護しなければ。走りながらゼロのいる方を見つめていると何故かファイアーストームが徐々にザキール側へと押し返されていった。


 ゼロの魔力がそこまで凄いのか、それともザキールが火力を維持できないぐらいに弱っているのか、どちらかだろうと考えたが答えは違った。なんと、俺達より近い位置にいたパープルズ達が後方から魔術で援護していたのだ。


 ゼロの氷を放出する魔術に加えて、パープルズのアクア・レインの氷魔術、そして他の面々も風魔術を放ったり術者の体を支えたりと合計8人が結束してファイアーストームに抗っているのだ。


 かつて五英雄が戦った魔人がどれほどの強さだったのかは分からないが今の俺達は少なくとも魔人ザキールには抗う事が出来ている……その事実に胸が熱くなる。ガーランド団の面々は俺にとって誇りであり、最高に頼もしい仲間だ。


 そんな彼らが精一杯踏ん張っている今、俺とグラッジとリリスが終局の一手を打って答えなければ! 俺は空高くにいるザキールにダメージを与える手段を考えてグラッジとリリスに伝えた。


 その作戦を受けてリリスは親指を立てグラッジは「僕が必ず決着をつけてきます」と強く言い切った。彼等ならきっとやり遂げられる――――作戦開始だ。


 まず最初に俺が大きめのサンド・ホイールを錬成して空中にいるザキール目掛けて放出してみせた。魔術の押し合いに夢中になってザキールがサンド・ホイールに気が付かず直撃すればベストだが、やはりそんなに甘い相手ではなかった。


 ザキールは羽を振り回してサンド・ホイールを粉々に砕いてみせた。


 俺の方を見たザキールがしたり顔で言い放つ。


「てめぇの不意打ちなんてお見通しなんだよォォ! ガラルドとグラッジは最後に殺してやる。そこでジッとしてやがれェ!」


 そう言うとザキールは再びファイアーストームの方に集中し始めた。どうしても押し合っているファイアーストームでサーシャ達を葬りたいらしい。だが、ザキールの判断は失敗だ。


 俺は空中で砕かれたサンド・ホイールをザキールの背後でゆっくりと結集させた。その狙いは砂で小さな壁を作り出す為だ。


 アイ・テレポートの特性の1つに、地面・壁・天井など、ある程度平面的な場所を自分の目で見つめなければ瞬間移動できないというものがある。逆に言えば、砂でも氷でも着地点さえ作り出してやれば瞬間移動先となりえるわけだ。


 砂壁生成と同時にリリスはアイ・テレポートの準備を整え、グラッジは虹ノ一閃にじのいっせんに風の剣を差し込み、抜刀の準備を整えた。


「ふぅ……僕の準備は大丈夫です。リリスさんも大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です。それじゃあ決めてきますね、ガラルドさん!」


「おう! とびっきりの1撃を決めてこい!」


 俺は2人の背中を軽く叩いて送り出す。


「行きます、アイ・テレポート!」


 リリスの掛け声と共に2人が消え去り、ザキールの背後に瞬間移動する。ザキールは背後に突然現れた強い風の魔力に驚き振り返ったが、もう遅い。グラッジの全力とグラドの置き土産虹ノ一閃にじのいっせんが緑の光を纏って解き放たれる。


「喰らえ! 鎌穿れんせん!」


「バカな……グアァァッッ!」


 振り返りが間に合わず、左半身に鎌穿れんせんが直撃したザキールは再び断末魔をあげる。それと同時に押し合っていたファイアーストームとゼロ達の魔術が纏まってザキールの体に直撃する。


 空中で真紅と水色が混ざり合った爆炎が巻き起こり、背中を焦がしたザキールがどさりと地面に落下した。


 少し遅れて地面に着地したグラッジは腕で汗を拭うと「爆炎に巻き込まれなくてよかったです」とホッとした顔で呟いた。リリスもグラッジとほぼ同じポイントに着地したから全くダメージはないようだ、本当によかった。


 皆で勝利を喜び合いたいところだが今はザキールをどうするか決めるのが先だ。痙攣して倒れたままのザキールを俺達は全員で取り囲んだ。さて、ザキールには色々と聞きたいことがあるが何から聞けばいいだろうか?


 『魔人とは何か?』『死の山の魔獣集落に魔人は関わっているのか』『魔獣をパープルズにけしかけたのはザキール固有のスキルなのか』『何故俺の事を知っていて父親に会わせようとしたのか』『ローブマン改めフィルとどういった関係なのか』ざっと思いつく限りこのぐらいだろうか。


 俺はとりあえず緊急性の高そうな質問から投げかけることにした。


「俺達に負けたんだから幾つか質問に答えてもらうぞ、ザキール。まず死の山の魔獣についてだ。死の山の至る所にある魔獣集落は一体何なんだ? あれはお前のような魔人が管理しているのか?」


「……魔人はあらゆる魔獣から恐れられて崇められる究極の存在であり、統治者だ。故に魔人が魔獣の生活を管理し、総数を増やして強くしたと言えるな」


 意外にもザキールはすんなりと質問に答えてくれた。とはいえ歴史書にも魔人ディアボロスが多くの魔獣と共に襲撃してきたという事実が書かれている以上、人類側に勘づかれているとザキールは考えたのかもしれない。


 俺は続けてザキールや魔人そのものに関して問いかけた。


「そもそも魔人はどうやって生まれたんだ? 何が最終目的なんだ? どうしてそんなにも強いんだ? さっき30匹近い魔獣を一斉に襲わせてきたのは魔人の能力なのか? それともザキール固有の力なのか?」


「チッ、鬱陶しいほど質問しやがるぜ。だが、それに俺様が答える義務はない。残念だったな、ケケケ!」


 ザキールはこんな状況でもブレずに悪辣あくらつな態度を貫いている。だが、そんな態度を取るザキールにキレたグラッジは氷の槍をザキールの喉元に突き付けて、冷たく言い放つ。


「立場をわきまえろ。他の人が殺さないと約束しても僕がお前を殺さない保証はないぞ?」


 祖父の仇ともなるとグラッジにここまで据わった目をさせるものなのかと鳥肌が立ってきた。グラッジは大事な仲間だが、今だけは魔人よりも恐怖を感じる。


 だが、グラッジに殺させる訳にはいかない。震える体を何とか抑えて俺はグラッジを嗜める。


「やめろグラッジ、殺したところで得られるものはない、むしろ失うぐらいだ。それよりもザキールでも答えてくれるような質問を考えた方がいい」


 俺が止めるとグラッジは素直に氷の槍を引っ込めてくれた、とりあえず一安心だ。とはいえザキールの態度次第では再びグラッジがキレかねないから次の質問は慎重に選びたいところだ。


 俺はしっかりと考えた末に質問を投げた。


「ザキール、この質問なら答えられるだろうから答えてくれ。何故ザキールは俺の事を知っていて父親に会わせようとしたんだ?」





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