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第163話 ザキールの戦闘勘




 ずっとザキールに押されっぱなしの俺達はリリスのアイ・テレポートとソルを真似たグラッジの抜刀術で大ダメージを与え、一気に劣勢から盛り返すことができた。この事実は俺達パーティーの力を示す証となるだろう。


 全員の顔に闘志が漲っているように見えるし、俺自身、体の痛みを忘れるぐらいに力が漲っている。このままサーシャとゼロが俺達のいる場所に駆け付ければ鬼に金棒だ。


 実際ザキールは駆けてくるサーシャ達を見て舌打ちして焦っている。俺は煽りではなく本心でザキールに降参を促した。


「いくら単体で強い魔人でも俺達5人と戦うのは厳しいだろ? 降参したらどうだ? お前を捕縛しても殺すつもりはないぞ。牢屋には入ってもらうがな」


 わなわなと手を震わせたザキールは横目で俺を睨み、怒鳴る。


「ふざけるな! 貴様ら人間なんぞに白旗をあげるもんか!」


 ザキールは何か打開策を探しているのか、周りをキョロキョロと見回していた。しかし、打開策どころかパープルズと門番兄弟は既に魔獣を倒し終えてこっちに合流しそうな状態で益々ザキールにとって劣勢になっていた。


「チクショウ! チクショォォォッッ!」


 ザキールが降参するにせよ、戦うにせよ、俺達に敗北は無さそうだ。そう安心しかけた次の瞬間、ザキールはサーシャの方を見て不気味に笑みを浮かべる。


「そうか、今ならあの2人を……クックックッ」


 ザキールは不穏な笑い声をあげると羽を広げてサーシャのいる方へ飛んでしまった。まずい……近接戦闘向きではないサーシャとゼロが離れた位置にいるうちにザキールは各個撃破するつもりだ。


 空を飛ぶザキールに対して急いでサンド・ホイールを放出したものの奴は右腕だけで難なく防ぎ切り、離れていってしまった。やはり近づかなければ火力不足で止められなさそうだ。俺は全力でサーシャ達に逃げるよう叫んだ。


「ザキールから離れろぉぉ! 奴は1人ずつ殺していく気だ!」


 ザキールの狙いを知った2人は慌ててパープルズのいる方へ逃げだした。しかし、合流するよりも早くザキールがサーシャ達の真上へ着いてしまう。


 ザキールは右腕を真下に向けてニヤリと微笑むと禍々しい魔力を放出する。


「消し飛べ! レッドメテオ・キャノン!」


 ザキールはかつてビエードが放った隕石のような魔術メテオ・キャノンとよく似た魔術を撃ちだした。しかし、ビエードよりも遥かに威力が大きいうえにマグマのようなものを纏っている、完全上位互換だ。


「サーシャさぁぁぁん!」


 グラッジの悲痛な響きも虚しくレッドメテオ・キャノンは爆炎と共に地面へ激突する。ゆらゆらと漂う煙が晴れれば倒れた2人が視界に入り込んでしまうかもしれない…………と恐る恐る落下地点を見つめると、そこには腕と頭から血を流しつつも辛うじて立っているサーシャとゼロの姿があった。


 何故だか分からないが大きなクレーターの中心、つまりサーシャとゼロが立っている場所の直系5メード程の地面だけは削られずに残っている。俺はゼロが何か防御技を隠し持っていたのかと思ったが次に呟いたサーシャの言葉で予想が外れていたことを知る。


忌み黒猫のブラック 拒絶リジェクションズ……リベンジ!」


 サーシャの横にはレッドメテオ・キャノンをその身に受けて倒れている黒猫サクの姿があった。サーシャは直前でサクを召喚していたのだ。光の粒となって消えていったサクをすぐさま小型サイズで再召喚したサーシャは杖をザキールに向けて、宣言する。


「今度はこっちの番だよ。サーシャ達の攻撃……受けてもらうよ!」


 サーシャは強く言い切ると杖の先から大きなファイアーボールを放出した。数いるハンターの中でもかなり威力が高めのファイアーボールを生み出しているとは思うが正直ザキールに通用するとは思えない。その証拠にザキールはファイアーボールを見て鼻で笑う。


「こんなチンケな火球でどうにかできると思ってんのか? 軽々弾いてやるぜぇ!」


 ザキールは右腕を振りかぶると難なくファイアーボールを真横へ弾き飛ばした。しかし、その瞬間、ファイアーボールの陰から小さくなったサクが飛び出した。そして、サーシャは微笑を浮かべて呟く。


「リベンジ・リリース」


 サーシャが呟くと同時にサクの体が禍々しい炎に包まれた。そして、レッドメテオ・キャノンの破壊力をそのまま吸収したサクが魔力を額に一点集中すると空中でスピンし、凄まじい勢いの頭突きをザキールの腹部にかました。


「うげぇぇっっ!」


 口から涎と血を吐いたザキールは腹部から炎をあげながら真上へ大きく吹き飛んだ。羽があるから落下こそしないものの明らかに体がふらついている。そんなボロボロのザキールをサーシャが煽る。


「火球でどうにかできるなんて思ってないよ? だから貴方の魔術を吸収してお返ししたの。すっごく痛かったでしょ? それだけ貴方の魔術が強いって事だよ、よかったね」


 この言葉が相当効いたのかザキールは目を尖らせて体を震わせながら叫んだ。


「どうやら今すぐ死にたいらしいな小娘ェェ! 吸収・反射系のスキルを持っているからっていい気になるなよ? そんなものは大抵、再使用に時間がかかるか、1点にしか効かせらないものだ。現にお前らはレッドメテオ・キャノンのダメージを完全には防ぎ切っていない!」


 奴のスキル分析は的確だ、怒っていてもザキールの戦闘勘は冴えわたっている。逆に言えばそれを分かっていても闘志が消えていないのは何か対抗策を持っているのかもしれない。


 ザキールは1度深呼吸をして魔力を練り始めると最初から全然動かしていなかった左手をゆっくりと動かして右手と重ね合わせた。


 たったそれだけの動作でもザキールは険しい顔している。やはりグラドから貰った六心献華ろくしんけんかのダメージが相当左半身に蓄積しているようだ。


 そんなザキールが両手を組んでどんな技を出すつもりなのだろうか? 俺は急いでサーシャの方へ走っているものの俺が着くよりも先にザキールが両手から魔術を解き放った。


「豪炎よ、まるごと飲み込んでしまえ、ファイアーストーム!」


 するとザキールの両手からまるでドラゴンの火炎ブレスを彷彿とさせる極太の熱流が放出された。その規模は凄まじく、サーシャのいる地点から直径20メードに及ぶほど広く、離れた位置にいる俺にまで熱が届く程だった。あれでは黒猫でも防ぎようがない。


 ザキールの宣言通り、豪炎はあっという間にサーシャを飲み込んでしまった。




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