グラドが伝えようとした『
「
爆発する魔術なんてものは恐らく過去から現在までモンストル大陸では存在しないものだ。そもそも爆発というものは鉱山作業で起きてしまう粉塵爆発のように自然的なものしか聞いたことが無く、人でも魔獣でも任意で起こせるものだとは思えない。
原理が気になった俺はグラッジに詳細を尋ねた。
「どうしても人間単体で爆発なんて現象を起こせない気がするんだが、どうやって起こすんだ?」
「ざっと見た感じですと、やっぱり火属性と水属性の兼ね合いが肝心な技のようですね。紙の表側にびっしりと細かく
「そうか、分かった。それじゃあ、次は
「……すいません、
グラッジは何故か俺の問いかけに対して目を逸らし、回答を拒否した。プライベートなことを聞いたのならともかく技を聞いただけなのに拒否するなんて何かあるとしか思えない。
グラドが『使わないに越したことはない』と書いていてグラッジが目を逸らした点から俺の中で1つの予想をたてて、グラッジに問いかけた。
「
「なっ!」
グラッジはあからさまに動揺している、どうやら当たりだったようだ。そんな危険な技を修得しようとすれば間違いなく止められてしまうと判断してグラッジは答えなかったようだ。
それにしてもグラドがまさか
というのも命を犠牲に大打撃を与えられるような魔術が広がってしまうと金で自壊者を買う者が現れたり、自壊魔術ありきの戦争形態となってしまいかねないから自壊魔術の開発や伝授は大陸則で固く禁じられている。
その大陸則を国が破ると破った国が今後あらゆる権利を失い、国として扱われなくなる決まりもある。それはすなわち他国から責められても守られることもなく、何を訴えても聞く耳を持ってもらえない国になるということだ。
そんな危険な魔術を知っているとは流石は五英雄と言ったところか。こんなところで感心なんかしたくはなかったが……。
経緯はどうであれ優し過ぎるグラッジが
「悪いが大切な仲間であるグラッジにそんな技を覚えさせるつもりはない。グラッジだって俺達のうち誰かが自爆されたら嫌だろ? そんなものに頼らなくても俺達はこの先戦っていけるさ」
「……大切な仲間と言っていただけるのはありがたいですが、この手紙はお爺ちゃんが僕に託したものです……何と言われようと会得させてもらいます。呪われた血を持つ僕にはお爺ちゃんと同じ散り方を選ぶ権利だってあるんです!」
「お爺ちゃんと同じだと? もしかして、ここにグラドの遺品があるに遺体が無く、灰色の砂粒が落ちているのは……」
「ええ、それが
この小屋に来た時に砂粒を見たグラッジがグラドの死を理解していたのはそういう事だったのかと合点がいった。小屋の周りで山盛りになっている魔獣も
グラドがかわいい孫に自爆技を教えるなんて普通では考えられないが魔獣寄せを持つ者同士だからこそ『死への望み・死の意味』を見出したくなる気持ちがあるのかもしれない。
その後、俺の説得を無視したグラッジは薄緑の紙を裏返しにして
何をするんだ! と言わんばかりにサーシャを睨んだグラッジだったがサーシャの目を見た瞬間にグラッジの眉は八の字へと変わった。それはサーシャが涙目になりながら怒っていたからだ。
サーシャは床に落ちた紙を拾うと強い声でグラッジを叱る。
「自分を犠牲にする技なんて絶対に覚えさせないよ! グラドさんが
「でも、僕は絶対に勝てないような敵に相対した時に備えて
「備えなんて必要ないよ……万が一なんて起きないようにみんなで頑張れば――――」
「まだ、何も現状を変えられていない僕達がそんな悠長なことを言っていられますか? 理想を持つのは大事ですが、現実はシビアですよ……」
サーシャの言う事もグラッジの言う事もよく分かる。お互いがお互いを思い合っているからこそ、守る力を得たい者と、守る力に守られたくない者に分かれるのだろう。
2人が再び睨み合うと数秒間の沈黙が流れた。すると、サーシャが手に火の魔力を込めて掌を落ちている紙の方へ向けて宣言する。
「グラッジ君が紙を拾おうと動き出した瞬間にサーシャは火球で紙を燃やすよ?」
「そんな脅しみたいな真似……ズルいですよ」
「ズルくたっていい! サーシャはグラッジ君が大事だもん、何だってするよ! それにグラドさんは運命のいたずらで何度も孤独にされてきたけど、グラドさんが不幸になる事を望んだ人なんて1人もいないんだよ? それはグラッジ君も同じ。グラッジ君がいなくなればサーシャ達はずっと心にナイフを刺したまま生きていくことになる……サーシャはそれが耐えられない、サーシャが嫌なの! グラッジ君の命は皆の宝だもん!」
「ぐっ……」
サーシャのあまりの迫力にグラッジは手を引っこめた。思えばサーシャが本気で怒るところを初めて見たかもしれない。ましてやそれが正誤を度外視した『嫌だという気持ち』のみをぶつけたものであればグラッジが退くのも無理はない。
「分かりました……少なくとも今は諦めます。技を書いた紙はガラルドさんが預かっておいてください……まだ残っているお爺ちゃんの手紙の続きを読みますね」
そう言ったグラッジの顔は険しくありつつも何故か少し笑っている様にも見えた。俺の勘違いかもしれないがサーシャのストレートな言葉がグラッジの孤独感を溶かしつつあるのかもしれない。もしそうならこんなに嬉しいことはない。