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第153話 洞窟の先にあるもの




「ふぅ、これで紫の煙は20本目か。最初に見た大穴に1万匹以上の魔獣がいたことを考えるとざっくり20万匹も魔獣がいる計算になるな。おまけに俺達が探索した範囲は死の山全体の3割にも達していないだろうから。全体で考えると……下手すら100万匹ぐらいいるかもな」


 俺は遠くに見える紫の煙を眺めながらぼやいた。死の山調査組の11人は入山から3日目の今日もコツコツと探索範囲を広げていた。


 パラディア・ブルーの残量も少なくなってきたから、そろそろ死の山を出る準備をしなければいけないところだ。


 この3日間でパラディア・ブルーの強い匂いにも少しずつ慣れてきたものの、死の山そのものの暑さと時々現れるパラディア・ブルーが効きにくい魔獣との戦闘で全員疲労が溜まってきていた。


 だが、そんな俺達とは対照的に死の山の魔獣達は元気に溢れていて南へ山を下っていく魔獣の姿を何度も何度も目撃した。


 恐らくイグノーラの方向へ向かっている魔獣なのだろうが直ぐ近くにいるグラッジに襲い掛かってくる魔獣は何故か随分と少なくなっていた。


 最初はパラディア・ブルーのおかげかとも考えたのだが、ゼロ曰く


「魔獣にとってパラディア・ブルーはあくまで近距離に寄った瞬間不快に感じるものだ。超遠距離まで届くグラッジ君の魔獣寄せは変わらず効果を発揮しているはずだよ」


 とのことらしい。全知のモノクルによるスキル鑑定で『範囲と効果は加齢や体の状態によって変動する』と書いてあったから、今はたまたま弱くなっているだけなのだろうか?


 パラディア・ブルーの残量も少なくなってきたし、魔獣寄せの効果が今より強くなってしまったら消耗は一層激しくなるかもしれない。その点も考慮して俺は引き上げの指示を出す。


「皆、とりあえず死の山の調査はここまでにしておこう。引き返す余力を残しておかなきゃいけない。魔獣が固まっている場所の情報も充分得られたと言っていいだろう。船に戻って物資を補給したら直ぐにシルバー達がいるイグノーラへ向かおう」


 俺が指示を出すとグラッジが自身のこれからの行動について尋ねてきた。


「僕は流石にイグノーラへ行かない方がいいですよね? 初めて僕達が出会った千年樹の洞窟は死の山から比較的近い位置にあるので、そこで待機しておきましょうかね?」


「いや、そこは以前ソル達と戦った場所にも近いから止めておいた方がいいだろう。グラッジはソル達に狙われないように船に乗って陸地から離れてカリギュラへ向かった方がいいかもな。船を動かすには人数が足りないからパープルズに同船してもらうといい」


「分かりました。イグノーラがどのくらい大変な事になっているか気になるところですが、カリギュラでお留守番しておきます。それじゃあ下山しましょうか」


 話し合いを終えた俺達は下山する為に足先を南側へ向けた。すると北上していた時には気づかなかった洞窟が視界の下にあるのを発見した。洞窟を指差したリリスは俺の目を真っすぐ見つめて提案する。


「ガラルドさん、消耗している時に言うのもなんですが、あそこにある洞窟に寄らせてもらえませんか? 何だか無性に気になるのです」


「まぁ、帰る方向にあるからちょっとぐらいなら寄っても構わないが。深そうな洞窟なら直ぐに戻るぞ、それでもいいか?」


「はい、おねがいします」


 リリスは今日1番の真剣な表情を浮かべて歩き出した。リリスの勘が鋭いかどうかは分からないが、これだけ真剣な表情をするということはよっぽど何かを感じているのだろう。


 ハズレだとしてもリリスが納得できるなら全然構わないと思う事にして俺達は洞窟へと向かう。







「よし、到着だ。この洞窟は入口に比べて通路が狭いし一本道だな。万が一、挟み撃ちされてもいいように前後を警戒しながら進むぞ」


 俺は全員に指示を出したあと先頭に立ち、恐る恐る洞窟を進んだ。しかし、警戒して損したと言わんばかりに歩き始めて3分も経たないうちに奥に明るく広そうな空間を発見した。。


 細い道を終えて光のあるエリアに辿り着くとそこには直径30メード程の半球状の空間があった。以前エナジーストーンで見かけた発光する石マナストーンが小さいサイズで所々に散らばっていて辺りをほんのり照らしている。


 ストーンサークル領にしかないと思っていたマナストーンがまさか死の山にあると思わなかった。俺達が通路から見ていた光がマナストーンだったなんて。


 だが、マナストーン以外は特に目ぼしい物は見つからない。妙に色々な匂いが漂っているのが気になるものの、別段異常はなさそうである。だが、どうやらまだ奥へと続く道が1本残っているようだったので俺達はその道を進むことにした。


 さっきと同じように狭くて然程長くない道を進んでいくと、そこには前のエリアの5倍ちかく大きな半球状の空間がマナストーンの光と共に広がっていた。だが、そんなことは正直どうでもいい……問題は空間の中心に広がる異常な光景だ。


 学者として常に冷静で飄々としているゼロがこの時だけは手を震わせて驚いていた。


「何、この光景は……戦争ですら見た事ないよ……」


 ゼロがそう言うのも無理はない、何故なら千匹を超える魔獣の死体が空間の中心から山盛りなって積み上がっていたからだ。


 さっき感じた複数の匂いは多種多様な魔獣の死体が発していたもののようだ。近寄って匂いがきつくなったことと異常な光景を目にしているせいで気分が悪くなってきた。


 だが、逆に考えればこれだけの死体がある割には匂いがきつくない気がする。理由が気になった俺はゼロに「死体が多い割には腐敗臭がきつくないな」と言葉を掛けるとゼロが双眼鏡で死体を見つめ、頷きながら持論を展開する。


「ここにある魔獣の死体は絶命してから50日以上経っているね。どの魔獣も体がカラカラで腐敗がほとんど進行していない。恐らく高温で湿気が殆どない死の山の環境が死体を干物のようにしていたのだろうね」


 ゼロによる的確であまり聞きたくない死体の解説が終わった後、俺達は死体の山へと近づいてみた。つもりに積もった魔獣の死体は雑魚魔獣からハイオーク級の強い魔獣まで様々である。


 まずはこれだけの魔獣が1点に集まっている理由が知りたいところだ。俺達はあまり触りたくはないが我慢して魔獣の死体を持ち上げ、山盛りの中心に向かって道を開いていった。


 すると、ある程度進んだところで石でつくられた建物の角が目に入った。どうやら魔獣はこの建物に群がったようである。建物という事はどこかに入口があるはずだ。俺達は更に死体を横へとずらしていき、分厚い石の入口扉を発見する。


 扉を開けるとそこには、ごく普通の部屋と地下へ続く階段が目に入った。少なくとも1階にあたるこの部屋には特別何かがあるようにも見えない。


 このまま地下へ降りようとしたその時、グラッジが机の上に置いてあった首飾りを手に取って消え入りそうな声で呟く。


「この首飾り……お爺ちゃんが付けていたやつだ……」





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