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第152話 ローブマンの真意




 死の山の強大な魔獣勢力を目の当たりにし、落ち込んで何も喋れなくなった仲間達にどんな言葉を掛ければいいのだろうか。代表である俺が気の利いた言葉を掛けるべきなのだが、まるで思い浮かばない。


 情けないが、こんな時に限って俺が頼ってきた育ての親やストレング、シンなどの師匠の顔ばかり浮かんでくる。甘ったれた思考は捨てなければならないのに。


 いや、親代わりや師匠だけではない、いつも飄々としていたローブマンならどう動くだろうかとも考えてしまう。すがるように思いを馳せていると俺は彼が言っていた印象深い言葉を2つ思い出した。


 それは『魔獣活性化の理由、僕の正体、真実の歴史、今よりもっと強くなる方法、それら全てを知りたかったらイグノーラへ行くといい』という言葉、そして『1日も早くギルドを設立して備えた方がいい』というものだ。


 現段階では魔獣活性化の原因は大穴で増えた魔獣のせいだと考えられるし、歴史に関しても本を見たりゼロと話す事で色々なことが分かってきた。強くなるヒントもゼロから貰う事が出来たが、これはローブマンが言っていた方法に該当するのだろうか?


 そもそもローブマンは何者なのだろうか。イグノーラに行けば分かると言っていたけれど、今のところ何の手がかりも得られていない。だが、ここまで旅をしてきて改めて実感したのはローブマンが世界の危機についてかなり理解しているという点だ。


 今までの旅を振り返りながらローブマンの言葉を思い出していた俺はひとつの『解』に辿り着いた。絶望的な現状を打開するにはきっとこれしかない、俺は全員の視線を集めて伝える。


「皆、聞いてくれ。俺は絶望的な状況をどうすればいいのかと考えているうちにローブマンの言葉を思い出した。奴が言っていた『イグノーラで色々な事を調べる』という目標と『1日も早くギルドを作って備えろ』という助言から俺達が取るべき行動が分かった。それは『各国と係わってきて死の山の真実を知った今こそ、大陸中の国々に情報を伝えて一丸となって死の山に立ち向かう』ことだ」


「ローブマン? 確かガラルドさん達がシンバードって国で出会った闘士だったっけ? 彼が意味深な事を呟いていて鍵となる人物なのは分かるけど、それが『一丸となれ』というメッセージに感じた理由はなんだい?」


 ゼロは以前に俺が話した旅の話を思い出しながらローブマンについて尋ねた。


「ローブマンは俺達によくしてくれただけじゃなく、帝国が魔獣に襲われていた時も助けた事があるんだ。しかし、それでも帝国に重要な情報を教える事はなかったらしい。それは帝国が信用に足る国ではないと考えたんだろう。一方、シンバード組には俺を中心に色々良くしてくれたし、俺とリリスの生まれについても何か知っているようだった」


「なんか、そこまで知っていたら逆に怪しくも思えそうだけど……でも、ローブマンという男の言う通りに動いたからこそ今まで順調に進んでこられたんだよね? 確かコロシアムって場所でも『ガラルドさんの味方だよ』って言っていたんだっけ? 訳が分からない男だね」


「ああ、ゼロの言う通り少し胡散臭い男ではある。だが、あいつはコロシアムの準優勝賞金を全額俺達にくれたり、俺がレイン達に襲撃された時も守ってくれた。結局アドバイス通りにギルドを設立することはなかったが、それ以上に大きなドライアドを復興させて、大陸でも有名な立場になる事ができて国交的にも大きな存在になれた。ローブマンが悪い奴なら俺が襲われている時点で見捨ててもよかったと思わないか? ローブマンは俺達を大きくして大陸の中心的な存在へと育て、手を取り合わせる為に動いていたのではないかと思えるんだ」


 俺がローブマンは信用に足る人物だと熱弁するとゼロは顎に手を当てて大陸地図を眺めた。そして、ヘカトンケイルから順に俺が辿ってきた町々をなぞりながら、笑って頷く。


「ディアトイル生まれの嫌われ者だったガラルドさんがヘカトンケイルを救ったことで出生地の差別を大陸から大幅に減らす英雄となり、コロシアムでもジークフリートでも英雄になった。魔日まじつでは獅子奮迅の活躍でシンバードやエナジーストーンを守り、大陸会議ではドライアド復興を宣言して見事に達成してみせた。今度は帰還者がほぼいない死の海を渡り切り、世界に死の山の真実を伝える……なるほど、これ以上ない程のシナリオだね、まるで勇者のようだ。そんなガラルドさんが語り掛ければ多くの国が動くかもね」


 ゼロはワザとらしく、俺達の軌跡を確認しながら同意してくれた。改めて口に出されると恥ずかしいが信用できない帝国に大陸全ての国を纏めさせるのだけは避けたい。


 それはモードレッドたち皇族が不気味で胡散臭いうえに恐ろしいからだ。そして、エンドの危険さを一層理解した今だと魔力砲などの非人道的な兵器に手に入れる為にエンドと少なからず協力関係にあるであろう帝国を信用できるわけがない。


 俺はこれまでの情報を纏めて、これからの行動を段階的に口にした。


「これからの俺達の計画をまとめるぞ。1、無理のない範囲で死の山の魔獣分布を調べる。2、魔獣分布を調べながらグラドの足跡がないかを調べる。3、イグノーラ防衛の援護にまわれそうならまわる。4、落ち着いたら大陸北部へ戻る方法を探す。5、死の海を渡って帰れたら、各国に死の山の現状を伝えて大陸全体で協力関係を築けるように努める、以上だ」


 俺が伝え終えるとほぼ全員が賛成してくれた。しかし、サーシャだけは帝国に情報を伝えるのはどうなのだろうか? と疑問を呈す。


「ねぇ、帝国に死の山の事を伝えてもいいのかな? その情報を材料に帝国が『大陸各国は指示系統を統一する為に帝国領に属せ!』とか言ってきそうな気がするよ。情報を伝えるにしても伝えるタイミングを遅らせて先に各国との連携と地盤を固めてから伝えた方がいいと思うけど? どうかなガラルド君?」


「サーシャの言う事も一理あるが、もし情報を伝えなかったり、伝達を遅らせたことが帝国にバレたら『大陸一の大国であるリングウォルドをないがしろにしたのは許せない!』とか難癖つけられるかもしれないぞ? そしたら小競り合いでは済まなくなる気がするぞ?」


「う~ん、それもそっか。まぁ、今はとりあえず調査を終えてシルバーお兄ちゃん達と合流する事を最優先にしよっか。情報を伝える段階にいくことすら難易度が高いもんね。後になってからじっくり考えよう」


 問題は山積みだが、何とか行動計画は決まった。魔獣の巣窟がどれだけあるのか分からないし、グラドの足跡を見つけられるかどうかも分からないが、今はやれることをやるしかない。


 俺達はパラディア・ブルーをこまめに使いながら、少しずつ死の山の調査範囲を広げていった。





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