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第132話 紺色の鎧




 俺、リリス、グラッジはガーランド団全員をモンストル号へ戻す為に赤紫色の信号弾を空に放って周知した後、西の海岸にあるモンストル号へ走り出した。


 密集した森の中では脇からイグノーラ兵が出てくる可能性もあると考慮し、アイ・テレポートが出来るリリスが常時グラッジにくっついて移動を続けた。


 しかし、兵の投入数がイグノーラ東側より少ないおかげか1度も兵士と遭遇することなくモンストル号がある海岸に着く事ができた。


 海岸からイグノーラへ移動したときは徒歩でゆっくりと移動したこともあり1日半ほど時間がかかった。だが今回は前日に西側へ進んでいたことに加えて全力で移動したこともあり夜更け前には到着し団員も半数以上が既に集まっている。


 俺達とほぼ同じタイミングで到着したシルバーとサーシャを含め、今ここにいる全ての団員に早速カリギュラへ向かう事を伝えた。


 技術者たちが船の燃料炉をいじくって出航準備を進めている間、俺はサーシャと役割分担について話し合う事にした。


「信号弾は当然兵士達も目にしているだろうし奴らの勘が良ければモンストル号がある海岸まで辿り着く可能性も十分あり得る。今のうちに『船に乗って攻撃を防ぐ班』と『海岸で兵士を食い止める班』を分けることにしよう。俺的には戦闘員を半々に分ければリスクを分散できるとは思うが……」


 俺の案を聞いたサーシャは渋い顔をしながら「う~ん」と唸っている。どうやらあまり良い塩梅じゃなさそうだ。サーシャはしばらく周りを見渡した後に申し訳なさそうに提案する。


「サーシャ的には腕の立つガラルド君とシルバーお兄ちゃんとグラッジ君が海岸組にいるのがいいと思う、それに加えてサポートと緊急離脱の為にサーシャとリリスちゃんを加えた計5人だけの少数編成でいこう」


「5人だけで耐えられるだろうか? 少な過ぎやしないか?」


「船を壊されちゃ元も子もないからっていうのもあるけど危険なのは人質を取られる事だよ。ガーランド団の中であまり強くないハンターさんが兵士に捕まって『仲間を殺されたくなければ船を止めろ』って言われちゃったら、そこまでだからね」


 正直、サーシャの危機管理能力に震えがきた。幼少期から厳しい生活をしてきたからこそ人間の汚さや最悪のケースに対する嗅覚が働くのだろう。


 それに戦力分析もよく出来ている。俺の回転砂やシルバーのフリーバードは少人数を守るのには向いているしグラッジも単体での機動力に優れている。


 リリスはいざとなればアイ・テレポートで離脱できるしサーシャも黒猫に乗れば逃げ回る事が出来る、これが最善の編成だろう。俺はサーシャの案に賛成した。


「よし、サーシャの作戦で防衛しよう。まぁ、兵士が海岸に来ないのが1番だがな」


 しかし、そう上手くはいかなかった。俺達が船の準備を終えて全員の乗船を確認した直後、海岸横の森から大量の兵士達が姿を現したのだ。


 その中には兵士長のソルがいるだけでなく一般兵とは異なる紺色で格が高そうな鎧を着た兵士が2人いる。


 白銀の鎧を着たソルが兵の中でトップだから恐らく副兵士長クラスといったところか。一般兵の数もゆうに100名は超えている。洞窟前で接触した時の3倍以上だ。


 兵士群の1番前に立ったソルは剣をこちらに向けると勝ちほこった顔で再び俺に降伏を促す。


「どうやらこれから出航するようだな、ガラルド。こちらには優秀な弓術と魔術の使い手が数多くいる。彼らに船を沈められたくなかったら船を動かさず降伏する事をお勧めする」


「今朝、俺が言ったことを忘れたのか? 俺達を追いかける暇があるなら、さっさとイグノーラへ戻って防備を固めろって言ったのをよ。俺達はグラッジの命を諦めるつもりはないぜ」


「はぁ~、馬鹿な奴らめ。ならお望み通り船を沈めてやろう、全員船に矢と魔術を放て!」


 ソルの号令と共に兵士達は一斉に攻撃を開始する。しかし、数では負けていてもガーランド団の戦士は優秀だ。飛んでくる矢と魔術の第一波を各船に乗り込んだハンター達が防御魔術で悉く防ぎ切ってみせた。


 舌打ちをして苛立つソルを見てシルバーがフフンと鼻を鳴らして煽り始める。


「船を沈めたきゃ300人ぐらい兵士を連れてきた方が良かったんじゃないか? まぁ、こっちは50人しかいないんだけどな、ガッハッハ」


「おのれぇ、舐めよって……。だが、グラッジが船に隠れているのではなく海岸にいるのは好都合だ。近接兵よ、海岸に残った敵を抑え込め!」


 ソルの命令によって遠距離攻撃をしていた兵士の約半数が海岸にいる五人に向かってきた。今こそ船を進めるチャンスだ。俺は3隻の船に乗っている全員に聞こえるように叫んだ。


「今だ! お前達、船を発進させろ!」



――――オオオォォォォ――――



 海賊にも負けないぐらいの雄々しい掛け声にのって船が飛び出す。モンストル号3隻は魔石炉をふんだんに設置した特別製だから瞬間的に速度を上げる事ができる。


 その点を考慮するに5分ほど海岸で時間を稼ぐことができれば敵の遠距離攻撃も完全に届かなくなることだろう。俺達5人の粘りどころだ。


 矢と魔術の音が鳴り響く中、砂をかける大量の足音が近づいてくる。兵士はシルバーの方へ10人、グラッジとリリスの方へ20人、そして、俺とサーシャ方へ20人向かってきている。


 まずは戦闘の基本でもある頭数を減らす事を優先すべきだ。俺は大怪我をさせない程度に出力の弱いサンド・ホイールを大量に生成して、兵士達へ射出する。


 様々な音が飛び交い目まぐるしく人が行き交う戦場を砂の車輪が躍動し、兵士の体に直撃する。


「ぐああぁぁ!」


「おい、大丈夫かお前! クソッ、どこから飛んできやがった!」


 俺なりに複雑な軌道で動かしたサンド・ホイールは兵士の背中や肩に直撃して順調に戦力を削っていく。一方、俺が兵士の数を減らしている間、サーシャとシルバーも頑張っていた。


 シルバーはフリーバードの持ち味である羽の数と精密動作によって360度囲んでくる兵士達をものの見事に退けている。


 サーシャも黒猫サクに跨り、まるで馬上で戦う騎士の様に燃える杖を振り回して火球を放っていた。更にサクの爪撃との2重攻撃を繰り出しながら持ち前の機動力で攻撃を避け続けている。


 炎攻撃とサクの爪撃を同時に放つところは今まで見た事がない。サーシャと俺は港町セイレーンで合流する前に数十日間会えなかった期間があったが、きっとその間に特訓して新しい戦い方を編み出したのだろう。頼りになる代表様だ。


 その後も順調に兵士の数を減らし続けた俺達だったが離れた位置から戦闘を眺めていた紺色の鎧を着た兵士2人とソルがそれぞれ俺とシルバーとグラッジに突進してきた。


 紺色の鎧を着た兵士は槍で俺に突きを放ってきたが、それを俺は棍で受け止める。


 金属同士が衝突した甲高い音と手の痺れが消えると同時に紺色の鎧の兵士は狐のような鋭い目元を一層吊り上げたニヒルな笑みを浮かべ、語り掛けてきた。


「ヒヒヒ、こいつは戦いがいがありそうだぜぇ。確かお前の名はガラルドだったな。魔獣との戦いばかりで最近飽き飽きしていたからな、楽しませてくれよぉ~」


「争いを楽しんでいるような奴を喜ばせたくはないな。まだ、強くて真面目そうなソルと戦う方が気分が良いってもんだ」


「ケケケ、確かに俺は不真面目だからな、そいつはすまなかった。だが、強さに関しては満足してもらえると思うぞぉ~。イグノーラでは紺色の鎧は上位13人の手練れしか着る事が許されない、強さの証でもある。向こうで戦っている弟のサーカ、そしてこの俺バーサも紺の13戦士なのだからな」


 ソル程ではないにしても、こんな奴が13人もいるとは厄介なことになってきた。今のところ海岸にはサーカとバーサの2人しかいないのが不幸中の幸いといったところか。


 少し離れたところではシルバーが弟のサーカと激しく戦っている。そして、グラッジはソルと激しくぶつかり合って地面を爆発で穴だらけにしながら戦っている。


 これはどの戦いも厳しくなりそうだ。誰か1人でも負けて人質に取られでもしたら作戦は失敗だ。どうか全員無事でいてくれと祈りながら俺はバーサに向かって棍を構える。





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