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第120話 グラッジのポテンシャル




 グラッジが案内してくれた千年樹せんねんじゅの洞窟に足を踏み入れた俺達は既視感を覚えた。洞窟が自然の光魔石によって明るく、道も縦横に広い感じが樹白竜の洞窟に似ているからだ。


 と言っても奥深さはそれほどでもなく2分ほど歩いたところで1番奥に辿り着いた。そこには直径30メード程の広い空間と一通りの家具やキッチン的なものもあり、生活感があった。


 壁際にはくり抜かれた切り株があり中には氷魔石と木の実と肉が入っている。自然を利用した冷凍保存のようだ。


 グラッジは食材を手慣れた手つきで捌いて調理を終えると、あっという間にガーランド団全員分の食事を用意してくれた。


「さあ、皆さん召し上がってください。他にも案内したいところはありますが、まずは腹ごしらえが先です。ろくに味付けもしてないので味に自信はありませんが元気が湧いてきますよ」


 俺達は礼を言って食事を頂いた。グラッジは謙遜していたが、正直そこらへんの料理屋より美味しいぐらいだ。俺はどんな食材を使ったのかが気になり尋ねてみた。


「この肉の入ったスープも焼いた木の実も凄く美味しいな。味的にはラッシュボアの肉やハイナッツの実に近い味だが」


「おお、味覚が鋭いですねガラルドさん。まさにラッシュボアとハイナッツを使っているんですよ。どちらも冷やしておけば長期間保存が効きますからね。昨日まとめて一気に狩りと採取をしてきたんです」


「ええっ? 1日でこれだけの量を取ってきたのか? しかも1人で?」


「はい、そうですけど……?」


 ラッシュボアは攻撃性こそ皆無なイノシシ系の動物だが、とんでもなく逃げ足が速いことで知られている。たとえ群生地帯を見つけても俺1人では散開されて9割以上逃げられてしまい、ほとんど捕まえられない程の動物だ。


 そして、ハイナッツもまた別の意味で取得難易度が高い。と言うのもハイナッツは特定の大きい植物が地表から30メード地点に生やす木の実で1本の樹からは5粒程しか得られない。


 そんなハイナッツをガーランド団の人数×20粒程を1人で集めるなんてとんでもない体力だ。木の実を吸い寄せるスキルでもあるなら別だが俺には絶対に真似できない。


 以上の点からもグラッジは相当な手練れだと推測できる。俺よりずっと強い奴かもしれない。かわいい顔してとんでもない奴のようだ、怒らせないように努めよう……。


 俺達はグラッジの手料理を堪能した後、強い眠気に襲われていた。長く厳しい船の旅を終えて、疲れ切った体に美味い飯をたらふく胃に放り込んだのだから仕方がない。


 ウトウトしている俺達を見たグラッジがパンッと1発手拍子を打って、皆の視線を自身に集める。


「皆さん寝るならちゃんとした場所で寝た方が疲れがとれますよ、案内するのであと少しだけ我慢してください」


 そう言うとグラッジはどこから取り出したのか手元に松明代わりの光魔石を用意して真上に投げた。すると薄暗くて見え辛かった天井部分が明瞭になり幅2メード程の穴があるのを確認できた。


「皆さん、真上に穴が見えていますよね? あそこから上へ登れば寝床があるので行きましょう」


 するとグラッジは高さ10メード程はありそうな天井の穴まで軽々とジャンプしてみせた。俺でも頑張れば届くかもしれないがグラッジはほとんど膝を曲げずにジャンプしたにも関わらず届いている。


 やはり俺が推測した通り身体能力が高そうだ。その後グラッジは天井の穴からロープを垂らしてくれたけれど俺の魔砂マジックサンドがあれば簡単に螺旋階段が作れるからそれで登ることにした。


 グラッジは初めて見る俺のスキルに目を輝かせて驚いている。


「ガラルドさんはそんなことが出来るんですね。自分は魔術が全く使えないから憧れますよ」


 あれだけの手練れなのに魔術が全く使えないとは珍しい奴だ。学校や家庭で魔術の基礎を学んではいないのだろうか? 風貌も相まって野生児にしか見えなくなってきた。


 砂の螺旋階段で全員が穴を超えるとグラッジがさっきよりもずっと光度が強い光魔石で穴よりも上のエリア……今、俺達がいる場所を照らしてくれた。すると周りに茶色いボコボコの壁があるのが目に入った。


 壁に近づき触ってみると、その壁の正体は木だった! 千年樹せんねんじゅの洞窟という名前からも、どうやら俺達は樹の中に案内されたらしい。


 どういう原理かは分からないが大きな洞窟の上に更に大きな樹が被さる様に生えていて一体化しているとのことでグラッジがざっくりと説明してくれた。


 そこから樹の内部に作られたグラッジお手製の階段を登っていくと途中にリスや鳥などが巣を作って生活を営んでいる様子を見ることが出来た。まるで動物たちの高階層家屋のようだ。


 不思議な光景を尻目に長い階段を上へ上へと登っていくと樹の頂上に辿り着く。そこには橋の様に野太い樹の幹と干し草の様にどっさりと積もった葉っぱが足元に広がっていた。


 広々とした空間あらため頂上に驚いているとグラッジが大きく盛られた葉っぱを指差す。


「ベッドや布団は流石に人数分用意できないので申し訳ないですけど葉っぱの上で寝てください。あ、心配しなくても寝心地はいいですよ? フワフワしているのに寝返りをうっても音がほとんど鳴らないですし暖かいので」


 お気に召してもらえるのか心配そうにグラッジはこちらを伺っているが俺達は感謝こそすれ文句をいう訳がない。


 俺達は礼を言って早速葉っぱに飛び込んだ。すると、宿屋の高級ベッドでも味わったことのないような柔らかい寝心地に包まれ今にも意識が消えてしまいそうだ。実際リリスは10秒もかからずに涎を垂らして眠りについてしまった。


 俺は改めてグラッジに礼を伝える。


「何から何までありがとなグラッジ。いつか必ず恩返しをするから楽しみにしといてくれ」


「恩返しなんてそんな……ただ、困っている人を助けただけですから、僕のことなんてすぐに忘れてください」


 グラッジは自己紹介の時にも『僕のことなんかすぐに忘れてください』と言っていた気がするが、口癖なのだろうか? ただの謙遜ならいいのだが、俺はそこが少し気になった。そして、グラッジは続けて寝床を高い位置にした理由を教えてくれた。


「もし、また皆さんが近辺で眠りにつきたいときはここを使うか、似たような高い場所で眠ってくださいね。イグノーラ周辺は手強く賢い魔獣が多いので洞窟の中で眠ると忍び足で近寄ってきて襲われることもあるので。でも、手ごわい魔獣はあまり高い所には登ってこないので高い所が基本的に安全なんです」


「なるほど、だからグラッジはわざわざ樹の頂上を寝床にしているのか。明日もまたサバイバル知識をご教授してもら……おう……かな」


「あ、凄く眠そうですね、無理せず眠ってくださいね!」


「それじゃあ、お言葉にあまえて、おやすみ……」


 時刻はまだ夕方ごろだったが約30日の厳しい航海を終えたばかりということもありガーランド団は全員泥の様に眠りについた。





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