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第68話 嬉しい再会




 ジークフリートを帝国の支配から取り戻して早10日。時間に余裕のある一部のハンター達と俺達パーティーは東工場の復旧作業を手伝ったり、帝国の名残がある場所を片付けたりと忙しく働き続けてようやく落ち着くことができた。


 いよいよ、シンバードに帰還する朝を迎えたところでリリスが大事な話があると皆を集める。


「皆さんにお伝えしておきたいことがあります、実は――――」


 そして、リリスは10日前の夜に泉で俺に話してくれたことを皆に伝えた。この事実にストレングやサーシャは勿論の事、リリスが女神だという事を知らないアイアンやレナ達は一層驚いている。


 皆にどんな反応をされるかソワソワしていたリリスだったが、その心配は杞憂に終わる。これからどうすればリリスに負担なく過去を調べる事ができるか、サーシャが皆に話し合いを持ち掛けて活発に意見交流を始めたからだ。


「リリスちゃんが帝国領を歩くのがリスクだと考えると、眼鏡をしたり顔を布で覆ったりすればいいのかな? それとやっぱり1番の手掛かりになるのは木彫り細工だと思うから製造元や年代を正確に割り出すことが重要になると思うんだけど、お爺ちゃんはどう思う?」


「サーシャの言う通りじゃな。それに関してはジークフリートにも木彫り細工に詳しい人間がいるから後で色々と尋ねてみることにしよう。それと、リリス君の知り合いを探すことに関してじゃが、転生前の名前が分からない以上、やっぱり人海戦術でとにかく似た人を探すというのが1番の手懸りになる気がするのう。人探しをギルドで依頼することはできるのかなストレング殿?」


「ああ、問題はないぞ。むしろ魔獣討伐の様な命の危険がない分、長時間の仕事を安く依頼することが可能だ。絵が得意な者にリリスの似顔絵を書いてもらい、光魔術が得意な者に転写魔術で紙を複製してもらおう。そうすれば多くの人間が人相書きを持ったまま行動する事ができるからな」


 リリスは自分の出生を伝えただけなのだが、当たり前の様に皆がリリスの為を思って真剣に話し合いを始めている。俺の大切な仲間たちはこういう奴らだったなと改めて実感する。


 この光景を見たリリスは聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で「ありがとう」と呟いてた。


 話し合いもある程度片がついたところで、俺達ハンターはアイアン達に別れの挨拶をすることにした。俺とアイアンは固い握手を交わしたあと、互いの健闘を祈りあう。


「それじゃあ、少しの間お別れだなアイアンさん。ジークフリートの後処理が終わったら、ゆっくりと俺達のギルドに技術協力をしてくれると助かる。と言っても俺達は金がだいぶ減ったからしばらく、ギルドを立てられないけどな、ハッハッハッ!」


「我々の為に賞金を使わせてすまない、と言おうと思ったが、そんなに豪快且つ楽しそうに笑われたら申し訳ない気持ちも無くなってきたよ。とはいえ、君達に対して海より深い感謝があることには変わりない。恩人として友として、そしてサーシャの親として必ず君達の役に立ってみせると約束するぞ」


「ああ、アテにしてるぜ。それじゃあ名残惜しいけど俺達はシンバードに帰るよ。元気でなアイアンさん、そしてジークフリートの皆!」


 そして、俺達ハンターはシンバードへ帰る事になった。ジークフリートからシンバードへの移動はずっと下り坂になる。そのうえ途中まではボビが船を出してくれて川を下ることが出来たからかなりのスピードで帰る事ができて日が暮れる頃にはシンバードへ着くことができた。


 一足先にシンバードの北門をくぐったリリスが振り返って、帰り道の快適さを喜んでいる。


「傾斜とアイ・テレポートの連発で苦しかった往路と違って、楽チンな復路でしたね。この後、皆さんはどうする予定ですか?」


 リリスの問いにストレングが答える。


「個人的に助けに向かったワシやレナも一応ギルドへの報告はしておこう。そして、雇われてきたハンター達は受付で報酬を受け取ってくれ。ガラルド達は計画の主軸であり依頼主でもあったから少し多めに報告書へ記述してもらう事になるぞ」


「ああ、分かっているよ。とりあえず全員でギルド『ストレング』に行こうか」


 そして、俺達はギルドの扉を開く。すると、奥の席にシンが座っているのを発見した。シンもこちらに気がついたようで駆け足で俺達の近くまで寄ってきて暑苦しく色々と聞かれた。


「おかえり皆! 怪我はなかったかい? 帝国はその後どうなったのかな? ジークフリートの人達も無事かい? 帝国に何か変わった動きは無かったかな?」


 シンはよほど俺達混成パーティーのことが心配だったようだ。相手は帝国だったわけだし無理はない。もしかしたらギルド『ストレング』に居たのも少しでも早く会う為だったのかもしれない。もっともシンバードの王様は玉座に居る時間より、町やギルドにいる時間の方がずっと多い気がするが。


 俺達はシンを落ち着かせてジークフリートであったことを全て話そうとしたけれど、その瞬間ギルドの奥から見覚えのある女性が姿を現した。その女性は俺に笑顔を向けてこう言った。


「お久しぶりですガラルドさん、ヘカトンケイルではお世話になりました」


「ええぇぇっっ! ヒノミさん!」


 俺は驚きのあまり変な声を出してしまった。ヒノミさんはヘカトンケイルに居た頃にお世話になったギルドの受付嬢だ。俺達が将来ギルドを設立する時は一緒に働かせて欲しいとお願いされたことは深く印象に残っている。


 それ以外にもヘカトンケイルでオーガを討伐した後、元仲間のブルネに『ガラルドはディアトイル出身』だという事を民衆にバラされた際には先頭に立って庇ってくれたこともあるとても恩のある女性だ。


 ヒノミさんと会えたこと自体はとても嬉しいが俺達はまだギルドを設立できていないからどうしてここにいるのかが分からない。俺は率直に尋ねてみることにした。


「ヒノミさんはどうしてシンバードに?」


「ふふふ、もちろんガラルドさんの正式な仲間になる為ですよ」


「その約束はもちろん覚えているさ。だが、俺達はまだギルドを設立できていないんだぞ?」


「ここ最近のガラルドさん達の活動っぷりはシンさんやギルド職員からお聞きしました。それに、ヘカトンケイルに居た頃にも噂は聞いていましたよ」


「噂?」


 ヘカトンケイルとシンバードは一応同じ大陸ではあるものの距離が離れているし最短距離で行くなら間に海を通らなければいけない位置関係だ。それなのに噂が届くなんて不思議だと思っていたけれど、ヒノミが机の上に出した紙を見て納得することとなった。


「こちらは港町ポセイドが発行している新聞になります。シンバードから比較的近く、ヘカトンケイルからも通り道に位置する港町ポセイドは元々多くの船を有しており情報の集まる地として有名です。この新聞にはコロシアム優勝者であるガラルドさんの活躍が沢山書かれていますよ」


 ヒノミが持ってきた新聞を読んでみると、確かに俺や仲間のことを色々と褒める内容の記事が書かれている。コロシアムの活躍以外にもジークフリートを解放に導いた勇者だとか、ヘカトンケイルの守護者だとか、読んでいるだけでくすぐったくなるような異名まで書かれている。


 俺が褒められている事実だけでもびっくりなのだが、それ以上に驚かされたのが俺の出生地も明記したうえで褒められているという点だ。文章の最後には『ディアトイルは可能性が詰まった地なのかもしれない』と忌み嫌われているとは思えない好意的な解釈が書かれている。


 俺はどんな人達が新聞を作ってくれたのかが気になりヒノミに尋ねてみた。


「ヒノミは新聞の作成者がどんな人達なのか知っているのか?」


「いえ、ポセイドには何度か行ったことがありますが、新聞社を訪れたことはありません。ただ、ポセイドはシンバードに近いということもあり、考え方もシンバードに似たところがありますから、このような記事を配っているのかもしれないですね。と言っても、このような動きがあるのはポセイドだけではありませんが」


「他のところも新聞を作ってくれているのか?」


「いえ、新聞ではないですが、ヘカトンケイルの若者を中心に思想の変化が起きているのです。ガラルドさんとリリスさんがヘカトンケイルを出ていった時のことを思い出してください。あの時、町の人達はガラルドさんを否定する人と擁護する人達で言い争っていましたよね? その後も擁護してくれた人達の熱量は下がる事はなく、差別を止めようという運動が強くなってきているんです」


「何だか嬉し過ぎて嘘みたいな話だな。あの日、否定派の人達に歯向かってくれたヒノミさん、そして俺を虐めないでと泣いてくれた少年がきっかけになって輪が広がったんだと思う。改めて言わせてくれ、本当にありがとなヒノミさん」


「そ、そんな! 私はただガラルドさんを応援したかっただけなので!」


 ヒノミは照れくさそうに目線を逸らす。その表情が可愛らしかったからもっと褒めてしまおうかと悪戯心が湧いてきたけれど、恩人をイジるのもよくないと思いグッと堪えて、話を戻すことにした。


「具体的に運動というのはどういうことをやってくれているんだ?」


「まずは、歴史の教科書にディアトイルを悪く表記するのをやめようという動きですね。他にも出生地によるスターランクの倍率補正を撤廃する動きや、ディアトイルと直接連携をとって技術を学ぼうという活動も広がっています。もっとも他国を巻き込む要素もあるので一筋縄ではいかないようですが」


「それでも、大きな前進だ。今まで頑張ってきて本当によかったぜ」


「ふふふ、そうですね。それと、私個人からもささやかなプレゼントがあるんですよ」


「ヒノミさんから? いったいどんな物だろう、ワクワクするな」


「プレゼントとは言いましたが『物』ではないんですよね。時間的にそろそろ、ギルドに到着すると思うのですが……あ、来ましたね!」


 そう言うとヒノミさんはパッとした笑顔をギルドの入口へ向けた。扉が開いた瞬間、俺はプレゼントの正体に驚かされることとなった。





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