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第66話 勝利の宴




 ビエードの最期を見届けた俺達は彼を棺の中に入れ、血で濡れた口周りを拭き、弔いの準備を始めた。


 民衆も部分的に稼働していた工場を全停止させて全員が祝いの酒と食事の準備をし、夕方からはずっと勝利の宴を続けていた。長い長い1日が終わったんだなぁ……と腰を下ろし酒を飲んでいると俺の横にアイアンとサーシャが座った。


 2人は改めて俺と乾杯をした後、アイアンが深々と頭を下げて礼を告げる。


「ガラルド君、ジークフリートを取り戻してくれて本当にありがとう。君達がいなければ1歩も前に進めていなかった。そしてこの先もっと多くの人が過酷な労働で死んでいたことだろう」


「こちらこそ、色々手伝ってくれてありがとな。ジークフリートとは技術協力も結んだことだし、これからもよろしくな。ところでボビさんから聞いたんだが東工場に隠してあった船はアイアンさんの物だったんだろ? 戦いの為とはいえ、壊されちまって申しわけない」


「いやいや、気にしないでくれ。多少機能性に力を入れただけの船に過ぎないから気にしないでくれ。人と違って物はいくらでも作り直すことができるしのぅ」


 アイアンはそう言ってくれているものの、表情には少し陰りがあるように見える。サーシャもそれには気づいていたようで壊れた船について教えてくれた。


「あのね、お爺ちゃんが作った船は息子さんに渡すつもりだったもので製作途中だったの。実はお爺ちゃんとお婆ちゃんには血の繋がった息子さんがいてね。16歳の時に都で1番の鍛冶師になってくる! って言ってジークフリートを飛び出して行っちゃったんだって」


「こ、こら! 余計な事を言うでないぞサーシャ。手紙をよこしもしない馬鹿息子は何処にいるかも分からないからのう。自分の船で息子を探しだし、万が一見つけられたらプレゼントしてやろうと思っておっただけなんじゃ。簡単に見つかるとは思っておらんし、船作り自体が半分趣味みたいなものだから本当に気にしないでくれよ、ガラルド君」


 ずっと続いてきたラナンキュラ家の相続はどうなるのだろうと思っていたけれど、まさか義理の娘であるサーシャ以外にも子供がいるとは思わなかった。


 俺達はこれからも旅を続けていくわけだから、もしかすると息子さんを見つける事ができるかもしれない。息子さんの名前を聞いておくことにしよう。


「いつか、俺達の旅の中で息子さんを見つけたら知らせるよ。名前を聞かせてくれアイアンさん」


「息子の名は『シルバー』じゃ。アイアンの息子シルバー、どっちも金属で覚えやすいじゃろ? もし見つけたらワシが怒っておると伝えておいてくれ」


「ははは、分かった、伝えておくよ。それと帝国の支配が無くなった今、アイアンさんもある程度自由に物作りをする時間が出来るはずだし遠慮なく船作りにも精を出してくれ。何なら資材提供だってさせてもらうしな」


「重ね重ねすまんなガラルド君。ならせめて今日だけはたらふく食べて飲んでいってくれ、ガハハハッ」


 アイアンはまるでストレングみたいに豪快に笑っている。ジークフリートを解放できたことが本当に嬉しかったというのが伝わってくる。俺達はその後も勝利を喜び合い、酔いつぶれたアイアンをサーシャとコリーさんがベッドに運んでいった。


 広場には宴の声と焚き火の光がいつまでも続いている。踊っている人達の中には竜の模様が細かく刻まれたランタンを持って踊る者、小筒から火花を出す不思議な道具で夜を照らしてはしゃぐ者達もいた。


 ジークフリートの特産品だろうか? 本来はこういう物を作りたい人達の集まりなんだろう。そう思うとこれからも彼らと協力していける喜びが湧いてくる。それに何があっても彼らを守りたいと意欲が湧いてくる。


 美しく賑やかな宴を眺め続けていると、今度はリリスが俺の横に座った。


「ガラルドさん、今日は本当にお疲れさまでした。少しお話しませんか?」


「おう、いいぞ。今日はリリスのアイ・テレポートに何度も助けられたよ、ありがとな」


「いえいえ、私の持ち味はそれぐらいしかありませんから。それに今日1番の功労者はサーシャちゃんですよ。まさか、ここまで芯の強い女性だとは思いませんでした」


「故郷だからというのもあるとは思うが、それを差し引いても本当にかっこよかったな。だから、これから俺達がギルドを立ち上げる事が出来た時にはサーシャを代表にしてギルドの顔となってもらうのも悪くないかなと思っているよ」


「え? ガラルドさんがギルドマスターをやらないのですか? あらゆるきっかけはガラルドさんですし、1番強いのだってガラルドさんなのですよ?」


「強い奴がやればいいというものでもないと思うぞ? 大事なのは人望だ。俺も多少は信頼されてきたとは思うがサーシャの『人に愛される才能』は天性のものを感じるからな」


「これはもうガラルド爺さんとリリス婆さんは後進に道を譲る時が来たのかもしれないですね」


「誰が爺さんだよ! それにリリスは女神となってまだ10年も経っていないんだろ? そういう意味ではサーシャより子供じゃないか」


「女神としての年齢……そうですね、そうなりますね。その事も含めてガラルドさんにお話しておきたいことがあります。ここから少し離れた静かなところでお話しませんか?」


 リリスはいつになく真剣な表情で俺に言った。リリスの提案に頷き、俺達はジークフリートから徒歩5分ほど離れたところにある泉を訪れた。





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