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第64話 広場での尋問




 ビエードとの戦いを終えてジークフリートへ帰還すると町の入口にサーシャのお婆さんが立っていた。手から血を流して青白い顔をしているアイアンを見たお婆さんは短い距離を全力で駆けてくる。


「あなた! 無事だったのね。でも、手の怪我は……」


「ワシは大丈夫じゃ。それよりコリー、ベッドでハンター仲間さん達を休ませてやってくれ」


 今更だが、サーシャのお婆さんの名前がコリーだという事を知った。コリーさんは直ぐに町の診療所へ連絡し休む場所を用意してくれているようなので俺達は甘える事にしよう。


 俺達が休んでいる間はビエード達の監視を他のハンター達に任せることにした。と言っても未だにビエードも白髪の帝国兵も目を覚ます気配は無いのだが。その間に俺達は今までにあったことをコリーさんに伝えて、これからどうするかを話し合うことにした。


 アイアンさんは未だに目を覚まさないビエードを見つめながらぼそりと呟く。


「思えば、大佐1人の独裁で我々ジークフリートの人間はここまで苦しめられたのじゃな。このまま町の皆を集めてビエードを晒しあげて解放宣言をしたところで町の者の憎しみは収まるのだろうか?」


 アイアンの言葉に全員が黙ってしまった。特に反抗組織のメンバーは革命を起こそうとする程だから人1倍帝国を憎んでいるだろう。荒れに荒れる可能性もあるだろう。それでも争いを嫌い、中立を保ってきたジークフリートの人達を信じるしかない。


 俺達はどうやって町の人達に言葉を伝えればいいかを考えながらビエードが目を覚ますのを待ち続けた。







 そして、2時間後。ベッドに括りつけられたビエードが目を覚ます。


「んっ、ここは何処だ? それにこの縄と凄まじい疲労感は一体……」


 きょろきょろと顔だけを動かしたビエードは俺達の顔を見て全てを察したようだ。俺はビエードをなるべく刺激しない様に話しかけた。


「ビエード、かなり無茶な魔力の使い方をしていたが体は大丈夫か? 目と耳はちゃんと働いているか? 俺はガラルドだ、分かるか?」


「ああ、五感が働かなくなるほど肉体を酷使してはいない……そうか、自分は負けたのか……」


「そういう事になるな。それとあんたの部下達も拘束はしているものの、死んではいないから安心してくれ。同様にビエードのことも殺すつもりはない」


「フン、どこまでも甘い奴らだな。いっそ公開処刑にでもした方が町の人間の気も晴れるのじゃないかな?」


「殺した瞬間だけはスッとするかもな。だけど、それじゃあこの先の人生、帝国への恨みを加熱させるだけだ。だから俺達は殺さない」


 ビエードは周りの人間全てを見渡したが、全員が俺と同じ意見だということを察したようだ。それが気に食わなかったようで嫌味ったらしく言い返してきた。


「ご立派なガラルド殿、アイアン殿なら、そういう考えを持てるかもしれないな。だが、町の人間はどうだ? 結局人は人を憎む生き物だ。お前達の言葉は綺麗ごとなんだよ」


「そうかもしれないが、それでも俺達はこの決断を覆すつもりはねぇよ。分かってもらえないなら分かってもらえるまで説得を続けるだけさ。それより目を覚ましたのなら拘束したお前を町の人間に見せて状況を理解してもらう必要がある、すまんが町の広場まで来てもらうぞ」


「…………好きにしろ」


 ビエードは素直に従った。俺達は手分けして町中の人達に連絡し、1時間後、広場に集まってほしいということを伝えた。


 帝国の人間ではなく、ジークフリートの人間からの呼び出しに困惑した町の人達は騒めきながらも広場へ集まってくれている。広場の中心にある小屋の中でアイアンが最後の確認を行った。


「まず最初にボビとビエードとワシが、小屋から出て宣誓台に立つ。今日あった出来事を町の人達に説明するためだ。その間、ビエードへの憎しみから暴れ出す者がいたらガラルド君達が止めてくれ。皆優しい人間だから大丈夫だとは思いたいが……」


 心配そうにしているアイアンの肩に手を置いた俺は励ましの言葉をかける。


「ラナンキュラ家が中心となって作り上げてきた町と心なんだぜ? きっと大丈夫さ。胸を張って喋ってきてくれよ、アイアンさん」


 そして俺はアイアンの背中を押した。フッっと笑ったアイアンは背筋を伸ばし、迷いの消えた目で宣誓台へと立った。


 町の人間はアイアンと拘束されたビエードの姿を見て、一層騒めき始めた。そのざわめきを止めるべくアイアンは大きく咳ばらいをして張りのある声で話を始める。


「町の皆、聞いてくれ! 我々は今日、戦いの末に帝国の悪しき支配を退けた。本当のジークフリートを取り戻すことができたのだ!」



――――ワアアアアァァァァァ――――



 肌で音を感じるほどの歓声が広場に響く。地鳴りのような大歓声が収まった後、ボビが一連の流れを説明してくれた。


 帝国への反抗組織を結成していたこと、アイアンに反抗計画を秘密にしていた理由、ハンターに依頼して工場爆破作戦を行ったこと、船上・川沿いで大規模な戦いがあったこと、丁寧に全てを話した。


 ボビが話している間、町の人間は誰1人として言葉を発さず集中して話を聞いていた。そしてボビが話し終えた後はアイアンが言葉を続けた。


「以上が今日起きた出来事だ。そして見ての通りビエードは拘束され、ジークフリートにいた帝国軍は機能を停止させた。だからこれから皆の前でビエードに問いかける。帝国が何を企んでいるのかを調べるためじゃ。準備はいいか、ビエード?」


「勝手にしろ」


 そこからは公開尋問が始まった。最初は帝国が何故ジークフリートを欲しがったのか、ビエードがどのようにして、ここへ来ることになったのかを質問した。


 そのことに関しては俺とビエードが中央工場で初めて会話した時に聞いた話と相違はなかった。アイアンは更に尋問を続ける。


「帝国のトップは大佐にジークフリートの支配を命じたように、他の国にも圧力をかけて支配しているようだな。一体何が狙いなのじゃ?」


「…………」


「答え辛いか? なら質問を少し変えよう。現状、大陸最強である帝国がわざわざ兵器開発に力を入れ、魔力砲やサクリファイス・ソードのような恐ろしい物まで開発したのは何故じゃ? 今度は答えてもらうぞ、ビエード」


 それは俺も気になっていた点だ。帝国は今や他国より頭1つ飛びぬけた強さを手に入れているうえに、ここ数百年他国から攻め込まれたこともないからだ。


 人間というカテゴリーを外せば魔獣という脅威はあるものの、それに関しても負担がある程度平等になるように各国間での支援・協力体制は確立できている。


 どのような答えを返すのか待っていると、ビエードは突然不敵に笑い始め、逆に民衆に向かって問いかけ始めた。


「ジークフリートの民に問おう。仮に君達が狩りを生業にしている人間だとして遠出をしている状況だとしよう。故郷から遠く離れたあるところに豚や牛が数えきれない程いる楽園の様な場所を見つける事ができたらどうする?」


 何が言いたいのかさっぱり分からないままビエードは更に話を続ける。


「当然、そこに拠点を構えるし、効率よく繁殖・生産できるように管理もするだろう? この図式で言えば、狩人が我々帝国であり、家畜が君達となる。我々はジークフリートという名の生産力を管理し、死なない程度に餌をあげている上位存在なのだよ」


 民衆の空気が一気に変わった。拘束されたビエードが反省どころか煽ってきたのだから当然である。


「ふざけるな! 他国の人間を何だと思ってるんだ!」


「我々は道具や機械じゃないんだ!」


「人間の屑め! 過酷な労働で死んでいった仲間に謝れ! お前が死ねばよかったんだ!」


 広場中に怒号が飛び交っい、大半の人間が目を見開き血走っている。想定している最悪の事態となった。


 ビエードの煽りはまるで死にたがっている様にも見える。さっきビエード自身が『公開処刑にしたほうがいいんじゃないか』『人は人を憎むものだ』と言っていたけれど、とっくに死ぬ覚悟はできているのかもしれない。





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