ビエードに言い負かされ、肩を落とした俺達3人は兵士に送られて中央工場の入り口まで帰ってくると再び作業員のボビと出会った。落ち込んでいる俺達を見たボビは察した様子で話しかける。
「サーシャちゃん……。やっぱり、話し合いは上手くいかなかったかい?」
「うん、組織力や実績にものを言わされてサーシャ達は何も出来なかったよ。ボビおじさん達の役に立てなくてごめんね」
「何を言ってるんだい! サーシャちゃん達が自分達の為に動いてくれただけでもありがたいよ。それに自分達もただ帝国に屈していた訳じゃない。反抗の機を伺っていたんだ。サーシャちゃん達が帰ってきてくれたのも反撃の狼煙なのかもしれないね」
「え? それってどういうこと?」
「今は作業時間中だから兵士の眼もあるし、話すのには適していない。過酷な労働をさせられている自分達は今、徒党を組んで反旗を翻すべく、深夜にこっそり集まって話し合って計画を進めているんだ。もし、サーシャちゃん達が協力してくれるなら、深夜にこのメモの場所まで来ておくれ。この事は君達3人以外には絶対に秘密にしといておくれよ? ではまた!」
そう言ってボビは足早に自分の作業場へと戻っていった。唖然としていた俺達だったが、この町の人間もまだ反骨の意思が残っていたことが嬉しかった。俺達3人は時間になったらメモの場所へ行き話を聞いてみることに決めた。
そういえば、この反逆計画のことをサーシャの両親は知っているのだろうか? 尋ねるべく俺達はサーシャの家へ向かった。
サーシャの家に向かう途中、視界に映る工場のマークを確認したけれど、そのほとんどが『剣と蛇のマーク』となっている。分かってはいたが、やはり帝国の侵略は深刻だ。そのままサーシャの家まで歩いていると、俺達の前に1人の帝国兵が現れて進路を塞いだ。
帝国兵は顔以外をがっちりと鎧で覆っていて、近くに仲間がいる様子もない。そして帝国兵は無機質な声で俺達に話し掛ける。
「君がガラルドだな? すまないが少し時間を貸してほしい。こっちの廃棄場まで来てくれ」
「どういうことだ?」
俺は帝国兵に尋ねたが、帝国兵は何も言わず廃棄場に向かって歩き出す。ビエードだけではなく部下の帝国兵まで偉そうだな、と心の中で文句を言いながら付いていくと、そこは予想通りゴミが積まれているだけで誰もいない。何の変哲もない場所だった。
廃棄場の中心で立ち止まった帝国兵は俺達の方へ向き直り、言葉を発する。
「ガラルド一行……悪いが君たちにはここで死んでもらう。少なからず影響力がある君たちに帝国の悪評を広げられては困るのでな」
そう言って帝国兵はおもむろに剣と盾を取り出し、拍手の様に剣と盾をぶつけて音を鳴らす。
すると音と同時に廃棄場の出口が閉まり、物陰から仲間の帝国兵が8人現れた。どうやら人気のないところで確実に潰しておきたいらしい。
周りの壁は正方形に囲まれていて天井もあることを考えるとアイ・テレポートで逃げる事も難しそうだ。もっとも飛べるのは2人までだからどっちみち無理なのだが。
俺達は慌てて武器を構えると、帝国兵9人は勝てるわけがないだろうと言わんばかりに笑いながらこちらを見ている。
多少俺達が強くても人数差で確実に勝てると思っているのだろう。それに相手は一般兵とはいえ帝国で兵士を務めるぐらいの手練れだ。各々が自身の修練と強さに自身を持っているのだろう。
俺達を案内した帝国兵が馬鹿にしたような言い方で無抵抗を要求してきた。
「大人しく殺されてくれないか? どっちみち君たちは死ぬんだ。だったら苦しむ時間が少しでも短く済むようにサッと首を落とされた方が楽だろう? 我々は君たちの事を思って言ってい――――」
勝ち誇った声でだらだらと喋っている今がチャンスだ! 俺は話している途中の帝国兵に向かって、攻撃を仕掛けた。
「サンド・ステップ!」
構えを解いていた帝国兵の腹部に、俺の最速を乗せた拳がめり込んだ。
「ぐふぅぁああぁぁ!」
身体を曲げ、鎧にヒビを入れられた帝国兵が吹っ飛んでゴミの山へと突っ込んだ。他の帝国兵8人が慌てて剣を構え、俺に文句をもらす。
「喋っている途中で攻撃を加えるなんて卑怯だぞ貴様!」
「隠れて袋叩きを狙うお前らが言えたことじゃねぇだろ!」
そして、俺はすぐさま
「リリス、サーシャ、俺の後ろに下がって援護を頼むぞ!」
「はい! 2人が危険になったら直ぐにアイ・テレポートで助けに入ります! だから強気に攻めてください」
「分かったよ、リリスちゃん、ガラルド君、敵への妨害はサーシャに任せて!」
リリスは俺の右後ろ、サーシャは俺の左後ろに移動し、帝国兵達を迎え撃つ形となった。最初に4人の帝国兵が一斉に俺へ突進を仕掛けてきた。
いつもならサンド・ストームで突進を後ろへ受け流すところだが、今は後ろに仲間がいるからそれはできない。今回の戦いはどれだけ早く敵の数を減らし、スキル分析をされる前に倒し切るかが大事になってくる。
俺は魔量の配分も考えずにとっておきの魔力を両手に込めて叫んだ。
「サンド・テンペスト!」
手を向けた方向に
サンド・テンペストは2戦とも移動や回避の為に使ったから、人間に向けて使うのは今回が初めてだ。どの程度のダメージを与えられるかは分からないが相手からすれば初見の技である。
それに加えて突っ込んできている4人の帝国兵は、ほぼ一直線に並んでいるから1度の発射で纏めてダメージを与えられるはず――――結果、その狙いは大成功だった。
4人の帝国兵のうち、最後尾以外の3人にサンド・テンペストが直撃し、奔流に巻き込まれたかのように身動きが取れなくなった。そして帝国兵3人はサンド・テンペストの轟音とともに背中から壁に叩きつけられて気を失った。
「ハァハァ、やったぞ、一気に3人も片付けられたぞ……」
「な、なんて馬鹿げた威力だ……貴様、許さんぞおぉぉ!」
激高した残り5人の帝国兵は一斉に俺達へ襲い掛かってきた。今度は周囲を覆うように俺達へ向かってきている。後ろの2人をどう守ればいいかを考えていると、突然リリスが離れた位置へ走り出した。
「ガラルドさんはサーシャちゃん1人を守ることに専念してください。最悪私はアイ・テレポートでガラルドさんの近くに戻れます!」
どうやらリリスは走って逃げる事で帝国兵を分離する狙いのようだ。
「分かった、危なくなったら直ぐに俺の元へ帰って来いよ!」
「その時はお帰りのチューをしてくださいね、ダーリン」
リリスは死ぬかもしれない状況でも走りながら冗談が言えるぐらい精神が強いらしい。それとも壊れてハイになっているのだろうか? どちらにしても今は頼もしい限りだ。
帝国兵はサンド・テンペストを放った俺を相当警戒しているのか、5人中4人が俺とサーシャの方へ向かっている。リリスが追いかけっこ状態になっていることを考えると、挟み撃ちをされる心配がない分、この状況はむしろ好都合だ。
一方、サーシャは俺のすぐ後ろへ移動したあと、スキル
「ガラルド君、この子を砂で包んで敵にぶつけて!」
いきなりの指示にびっくりした俺だったが冷静なサーシャの事だ、きっと何か考えがあるのだろう。俺は後ろに出した手の上に黒猫を載せてもらうと、そのまま回転砂で黒猫を覆い、目の前の帝国兵へ投げつけた。
「こんな砂玉なんぞ効くか!」
帝国兵が盾を突き出し、砂玉を粉砕した。砂玉が弾け飛ぶと同時に黒猫が瞬時に跳び上がり、帝国兵の真上――――死角へと移動し、そのまま背中へ張り付いた。
興奮状態で突進してきている帝国兵は張り付かれたことに気づいておらず、そのまま俺に向かって剣を振り下ろし、それを横跳びで躱した。振り下ろした剣が空を切り、膝の高さまで下がった瞬間にサーシャが叫ぶ。
「重くしちゃえ、
サーシャがスキルを発動すると同時に帝国兵の体がグンと重くなり、振り下ろしていた剣が地面にめり込んだ。
何が起きたか分からずに困惑する帝国兵は重い体のまま無理に剣を引き抜こうと必死になっている、つまりは隙だらけだ。俺は棍に回転砂を纏わせて、動きが鈍くなっている帝国兵へ叩きつけた。
「遅いぜ! トルネード・ブロウ!」
背中に思いっきり棍を叩きつけられた帝国兵は一撃で気を失った。これで残る帝国兵はリリスを追いかけている奴を含めても4人だ。