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第43話 ストレングの仕事 ガラルドへの期待




 いつも以上に仲良く2人で談笑を続けているとギルドの奥の部屋からストレングさんとシンさんが姿を現した。2人は軽く挨拶を交わした後サーシャ達の隣に座り、改めて「優勝おめでとう」の言葉を贈ってくれた。


 それから暫く4人で雑談していると、いつも元気で豪快なストレングさんが喜びと哀愁が入り混じった複雑な表情で溜息を吐き、呟いた。


「ガラルドを筆頭に優秀な人材が増えてきてワシも歳をとってきたからそろそろギルド長を引退してもいいかもと考えているんだ。将来性を加味してガラルドがギルド長をやってみればいいんじゃないかと思うんだが、同パーティーのリリス、サーシャはどう思う?」


 突然引退話を始め出したストレングさんに驚いたサーシャとリリスちゃんは言葉を失ってしまう。確かストレングさんは44歳だからハンターの中では年配にあたるけれど、まだまだ他のハンター達より格段に強いし、ガラルド君だってストレングさんには歯が立っていない。


 それだけの強さと経験を持っているストレングさんが辞めてしまうなんて勿体ないと言葉をかけようとしたけれど、サーシャより先にシンさんが言葉を掛けた。


「なるほどな、だから今朝から声に張りがないわけか。確かにストレングは昔の方が強かったかもしれない。基本的にハンターの強さは肉体と魔力・魔量とスキルの掛け算で決まるものだからストレングは不利になるだろうな」


 シンさんの言う掛け算で決まるという理屈は何となく分かるけれど、それなら何故ストレングさんが不利になるのかがサーシャには分からなかった。リリスさんも同じことを考えていたようで質問を投げかける。


「あのー、どうしてストレングさんが不利になるんでしょうか?」


「それはワシの魔術適性が低いからだ。仮にワシの肉体レベルが100で魔術レベルが50としてシンが両方75だとしよう。この時点ではお互い合計が150になる訳だが、肉体は年齢による退化が早い一方、魔術は高齢になろうが下がりにくい。むしろ鍛錬を積めば高齢でも伸びていく。そうなると時間が経つにつれて魔術適性の低いワシは合計値が145、140と下がっていく。そしてシンは魔術面で補って150を維持、もしくはそれ以上になっていくことになる、そういうことだ」


 正直こればっかりは何も手助け出来そうにない。老いとは必ず訪れてしまうものだってことは愛猫のサクが亡くなったことでも痛いほどよく分かっている。


 何か気の利いた言葉はないかと一生懸命に考えていると再びシンさんがストレングさんに言葉をかける。


「お前にはまだまだ働いてもらうつもりだぞ、少なくともお前より優秀な奴が現れるまではな」


「だから、それがガラルドだと言っているのさ。愛弟子であるガラルドにならギルドを譲ってもいいと思っているぞ」


「ガラルド君は確かに優秀だ。これまでコロシアムを優勝したり、ドラゴン討伐の武功を挙げたりして四聖になった者もいるが、その頃の4人全員が今のガラルド君よりも弱かった。はっきり言って昨日の決勝戦を戦った2人は別格だったよ」


「だったら尚更このギルドをガラルドに……」


「ガラルド君には別にやって欲しいことがあるんだよ。詳しくは……この計画書を見てもらった方が早いかな」


 そう言ってシンさんは壁地図の様に大きな計画書を机に広げた。計画書の上部には『ドライアド復興計画』と書かれている。


 ドライアドと言えばシンバードから西方向に進むと存在する『樹と果物の楽園』と呼ばれる町だ。いや、正確に言うと『呼ばれていた』が正しくて数年前に魔獣の大軍によって半壊状態にされた町であり、今は人が住んでいない。


 元々どこの領にも属さない町ではあったけど魔獣襲撃の際に帝国『リングウォルド』が駆け付けて住民の命を救ったらしい。だけど、帝国は命を救ってあげた見返りに『ドライアド』の民全員に対し『帝国に属して仕えるよう』に命じたらしい。


 結果ドライアドの全ての住民は帝国領へと移ることになり『ドライアド』はもぬけの殻になったらしい。そして元ドライアドの住民たちは現在、帝国領で奴隷にも似た劣悪な環境で働かされているとも聞く……酷い話だ。


 計画書を見る限り、どうやらドライアド復興の中心人物としてガラルド君が候補に挙がっているようだ。面積だけで言えばシンバードと同じぐらい広いドライアドをまずは町の東側の建物や農地から徐々に復興していく計画らしい。


 少しずつシンバードや他国から住民を集めて復興していき、ドライアドの住人が『帝国リングウォルド』から解放された際は直ぐにドライアドに戻れるような基盤も作っておきたいとのことだ。


 結果的にはドライアドがシンバード領の属国となるのだろう。人道的で立派な計画だと思う。ただし、とても難易度が高い計画だとは思うけれど……。


 ストレングさんもサーシャと同様に計画の難しさを感じていたようでシンさんにやや否定的な言葉を返す。


「成功すれば面白いと思うが難しいと思うぞ。帝国にはいい顔をされないだろうし、ヘカトンケイルなどの南の町もどちらかと言えば帝国寄りだから協力を得辛いぞ?」


「だが帝国リングウォルドの横暴は野放しにはできない。それに東や北の国々からはまだまだ力を借りられそうだし、計画を進める価値は十分にあるさ。現状シンバードは戦争をせずに商業・娯楽・貿易・魔獣討伐などを売りにして近隣国とどんどん親交を深められているから、どの国も消耗はしていない。そんな国々をシンバードが中心となって纏めて連携していき、どっしりと構えていればいつか帝国の横暴も止められるさ」


 シンさんの言葉と言い方には凄く説得力を感じる。さすがシンバードを束ねる王だと感心させられると同時にコロシアムでギルドの立ち上げを宣言したガラルド君と同じ匂いを感じた。きっと人々を先導する人間というのは彼らのようなタイプを示すのだろう。


 ストレングさんとサーシャは納得できたし、世界一のガラルド君ファンであるリリスさんに至っては首が外れそうなぐらい頷いている。少なくともこの場にいる全員は賛成のようだ。


 一通り説明を終えたシンさんはサーシャ達の顔を見渡したあと、唇に指を当てて言った。


「とは言っても計画はあくまで状況が整ってからだ。まだガラルド君には内緒にしておいてくれるかな。彼はかなり真面目だから今の段階からプレッシャーをかけて疲れさせたくはないからね。そしてストレング――――この計画からも分かる通り、ガラルド君は離れた地に行く可能性が高い。シンバードの東西南北を守る四聖の4人にはこれからも強固にシンバードを守ってもらわなければならない。お前は替えの効かない優秀な戦士であり、俺の大事な友だ。これからも、いや、これまで以上にバリバリ働いてもらうことになるぞ、覚悟はいいな?」


 いつも朗らかなシンさんがいつになく真剣な表情でストレングさんに問いかけた。ストレングさんはポリポリと頭を掻き、照れくさそうに笑いながら答える。


「まったく……中年使いが荒い王様だ。だが、ワシがいなければ守れないものがあるうちは頑張るとするかのう。ガラルドにだってまだまだ教えたい技もあるしな」


「ああ、頑張れよじじい」


「ふっ、やかましいわ」


 2人は軽口を叩き合いながらも表情はとても楽しそうだ。付き合いの長い男同士ならではの絆を感じる。


 サーシャ達もいつか四聖みたいになれるのかな? そんなことを考えていると窓の向こうからギルドに近づいてくるガラルド君の姿が見えた。


 どうやら気がつけば昼も過ぎるぐらい話し込んでいたらしい、大半は雑談だったわけだけど。


 ガラルド君もそれなりに疲れが取れたようで挨拶を交わしたあと、サーシャ達は目下の課題である『サーシャの両親の工場奪還』について話し合いを始めることにした。





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