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第40話 感謝の言葉 祝いの言葉




「ガラルドさん! ガラルドさん! しっかりしてください、起きてください!」


 頭に聞き覚えのある声が響く。


「ガラルド君! 直ぐに黒猫で体力回復するからね!」


 またも聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 身体のあらゆる感覚が加速的に回復していくのを感じる。俺はぼやけた目と手足の感覚を少しずつ取り戻し、大事な仲間たちが目の前にいるのを確認した。


「リリス、サーシャ、駆け付けてくれたのか、ここは医務室か?」


「まだ目がぼやけてますか? 魔力を使いすぎると五感が鈍りますからね。ほら、ゆっくり確認してください、ここは医務室ではなく武舞台の上ですよ」


 武舞台? リリスに言われてまさかと思ったが、武舞台のタイルの感触が手に伝わってきて、確信が持てる。どうやら2人は試合終了直後に場外に落ちた俺を武舞台へ運ぶ為に駆け付けてくれたようだ。心配をかけたみたいで申し訳ない。


「ゆっくり自分のペースで感覚を取り戻してねガラルド君、きっともうすぐ立てるようになるけど」


 サーシャも少し鼻声になりながら心配そうに俺を労ってくれた。2人の優しさを感じつつ俺は勝てなかったことを謝った。


「すまないな2人とも負けちまって、あと少しだったんだが……」


「何を言ってるんですかガラルドさん、ほら、あっちを見てください」


 リリスの指さす方を見てみると、そこにはシンが優勝トロフィーを持って立っていた。少しずつクリアになってきた目と耳が観客の盛り上がりを教えてくれた。


「かっこよかったぞガラルドォォ!」


「あなたが最強よ、ガラルド様ぁぁぁ!」


「今までで最高の試合だったぜぇぇ!」


 歓声が雨となって降り注いでいる――――俺は勝っていたんだ! 負けたと思っていた俺に沸々と勝利の実感が湧いてくる。


 疲れた身体で無理やり上半身だけを起こした俺は右手を天に掲げ、コロシアムの外まで聞こえるぐらい大きな声で叫んだ。


「俺の勝ちだああぁぁぁ!」



――――ワアアアアアアアアァァァァァァァァァ――――



 俺の声に応え、爆発の様な歓声が返ってくる。


 観客に手を振ることに夢中ですっかり忘れていたが、ローブマンは大丈夫だろうか? 俺が周りを見渡すと少し離れた位置で気を失って倒れているローブマンの姿があった。


 一応ローブマンにも回復をしてくれる仲間が登録されているようだが、サーシャのスキルがあった方がより早く回復するだろうと思い「サーシャ、ローブマンも回復してやってくれ」とお願いした。


 サーシャがローブマンの方に行っている間にシンが俺に話しかけてきた。


「そろそろいいかなガラルド君。一応、可能であればトロフィー授与と優勝者・準優勝者の挨拶に取り掛かりたいのだが……立って喋る事はできるかな?」


「ああ、すまない。だが、出来ればローブマンと一緒にやりたいと思ってる。サーシャのスキルで直ぐに回復するはずだから少し待ってもらってもいいか?」


「構わないよ。それじゃあ先に僕が観客の皆に挨拶をすませることにするよ」


 そしてシンは武舞台横にある、宣誓台へとあがり挨拶を始めた。


「シンバードの諸君、今日は年に1度の武の祭典『コロシアム』に来てくれて本当にありがとう。決勝を戦った2人、そしてここまで戦ってきた全ての闘士たちに今一度大きな拍手を!」


 シンの声に応えて観客達が大きな拍手を贈ってくれた。


 そしてシンは試合全体をざっくりと振り返りつつ、シンバードとコロシアムがいかに素晴らしいかを語る。その間にローブマンも意識を取り戻したようで、シンの挨拶の後に観客へ手を振っていた。


 司会は次に準優勝者、優勝者に向けてインタビューするべく俺とローブマンに声をかけてきた。先にローブマンが挨拶を始める。


「えー、みんな、応援ありがとね。正体不明で無名な僕をここまで応援してくれて本当に嬉しかったよ。勝てなかったのは残念だけど、多くの人と楽しく戦うことができた。特にガラルド君との戦いは楽しかった。これだけ優秀な戦士が数多くいるシンバードの未来は安泰だと思うよ。また君たちと戦える時が来るのを待ってる、みんな本当にありがとね!」


 ローブマンの挨拶に全員が拍手を贈った。次は俺の番だ。


「観客の皆、戦士の皆、今日は最高の1日となった、ありがとう。俺が今、この場に立てているのも俺を鍛え上げてくれた師匠やライバル、サポートをしてくれた仲間のリリスとサーシャ、そして喉が枯れるぐらい応援してくれた観客の皆のおかげだ。改めて言わせてくれ、本当にありがとう」


 優勝者ということもあってか、ローブマン以上の歓声が沸き上がった。そして俺は言葉を続ける。


「だが、俺の夢はまだまだ続いていくし、優勝したからと言って満足するつもりはない。故郷ディアトイルを背負い、故郷とともに名を上げて、俺達みんなが大成するつもりだ、だから……」


 少し前の俺だったら大勢の人の前で自身の生まれを明かすことなんてありえなかっただろう。


 生まれや種族で差別されないシンバードに来られたことを誇りに思う。俺は多くの人がいる今こそ、この言葉を伝えるべきだと判断し、声高々と宣言する。


「俺は今日、この時を持ってシンバードに五つ目のギルドを設立することを約束する! そして四聖に並びたち、追い越す存在となり、世界にその名を轟かせると約束しよう!」


 そして俺は自分の言葉に嘘偽りがないことを証明するべく、シンからジャッジメントを借りて使わせてもらうことにした。


「ここは闘争とまことの街シンバードだ。だから俺はジャッジメントが放つ真実の青き光に誓おう! 俺が表明した決意は全てまことであると!」


 そう言い切った俺は自分で自分をジャッジメントで貫いた。ジャッジメントの刀身は嘘偽りのないことを示す青き光を放つ。俺は青く光ったジャッジメントを天に掲げると観客は耳が割れんばかりの大歓声をあげた。


 いつになったら収まるんだと思うほどの大歓声がようやく終わった後、シンが苦笑いを浮かべながら声を掛けてきた。


「全く……君という奴は……。秩序を保つために使用するジャッジメントを『宣言の強さを増すために利用』するなんて。しかもあんな状況でジャッジメントを貸せと言われたら、雰囲気的にも貸さざるを得ないじゃないか。とんだ策士だよ、君は」


「まぁ、特別な1日だと言う事で許してくれよ。それに悪意があった訳じゃないし、策を弄するつもりでジャッジメントを借りた訳でもないぞ。何なら、そのこともジャッジメントで確かめてくれても構わないぜ?」


「いいや、結構だ、ガラルド君のことは信じてるよ。ただ、目立ちたがり屋な僕としてはヒーローとして輝きすぎているガラルド君に少し嫉妬しただけさ。改めて言わせてくれ、優勝おめでとうガラルド君」


「ああ、ありがとう」


 シンと俺は固い握手を交わし、長い長いコロシアムは幕を閉じる。





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