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第33話 ガラルドのわがまま




 客席まで足を運んだ俺は他の戦士の試合を観戦しているリリスの姿を発見した。俺がリリスの横の席に座ると、ようやく気が付いたリリスが俺に話しかけてきた。


「帰ってくるのが随分と早かったですね、ガラルドさん。休憩はもういいのですか?」


「まぁ休憩中に色々あってな、実は――――」


 俺はコロシアム裏であったことを全てリリスに話した。リリスは襲撃の話で怒り、ローブマンの話で目を点にし、俺の手足を治してくれたローブマンを絶賛して笑顔になった。コロコロと変わる表情は正直面白い。


 一通り話し終えたあと、今度は逆に俺がリリスへ質問する。


「フレイムの1回戦はどうだったんだ?」


「一応勝っていましたよ。弟のブレイズさんと然程変わらない強さでしたね。でも、ローブマンさんが大会委員にパープルズの不正を報告したのなら2回戦はガラルドさんの不戦勝ですね。試合を観戦して情報を集めた意味はなかったですね」


 ブレイズ、アクア、レインが俺を襲撃したことをフレイムは当然知っているだろうし、きっと4人で話し合って襲撃を決めたのだと思う。


 だからリリスの言う通り、フレイムは不戦敗の形になるのだろう。スッキリはしないが体力を節約できるしこれでいいのかもしれない。


 それよりも問題はローブマンだ。現状かなり勝ち目の薄い相手なだけに、少しでも対策を打ちたいところだが何も思い浮かばない。俺はダメ元でリリスに相談する。


「ローブマンの事なんだが、あいつは間近で見ていて本当に強かった。正直勝てるビジョンが浮かばないのが現状だ。リリスはどうすれば勝率を上げられると思う?」


「私はローブマンさんの動きを見ていないので何とも言えませんね。情報を少しでも得るために思い切って私が専属でローブマンさんの試合を追いかけるのはどうでしょうか? ガラルドさんが他の誰かと戦っている時に別の武舞台でローブマンさんが戦っていたら、私はローブマンさんの試合を追いかける感じで」


 それは中々良い作戦かもしれない。3回戦から6回戦までの相手の情報が少なくなる点に加え、時間次第ではリリスの補助魔術を受けられない試合も出てくるかもしれないが、そこは俺が頑張ってなんとかすればいい。


 それにサーシャがいれば少なくとも体力の回復は早める事ができる。だから俺は決勝まで極力、怪我や状態変化攻撃を喰らわない様に注意することにしよう。俺はリリスの提案に賛成する。


「良い案だ。それじゃあリリスには俺とローブマンの進行状況を常に確認してもらいながら動いてもらおう。負担も増えるがよろしく頼む」


「はい、任せてください」




 そして俺達は続く2回戦に向けて準備を始める事にした。俺とリリスに合流したサーシャへ作戦を伝えた後、ローブマンの1回戦はどんな戦い方をしていたかをサーシャに尋ねた。しかし、ローブマンは1撃で場外勝ちをしてしまったらしく何も情報が掴めなかったようだ。


 次にローブマンの試合があるのはどうやら当分先になるらしい。俺は2回戦が始まるまでの間、戦士控室でリリス、サーシャと話をしていると、そこへシンが息を切らしながら入室する。


 シンは険しい顔をしながらトーナメント表を見せるとパープルズの処遇について説明を始めた。


「ガラルド君が襲撃された件だが、ローブマン君から聞いたよ……。当然許される行為ではないから大会責任者としてフレイム君の不戦敗とガラルド君の不戦勝を告げに来た」


 処分は当然だし2回戦を戦わなくてよくなるから俺にとってラッキーなはずなのだが何故か俺はモヤモヤとしていた。自分の中で考えが上手く纏まらないまま、俺はシンに馬鹿げたお願いをする。


「シン、すまないがフレイムとの2回戦を通常通りやらしてくれないか?」


「な、何を言ってるんだガラルド君! 君にとってデメリットしかないじゃないか。それに襲撃の被害者は君なんだぞ?」


「分かっているさ、だけどこのままフレイムが不正で不戦敗ということになれば、フレイム達の悪行が観客の前で大々的に発表されることになる。それはつまり益々あいつらの悪評が広がってしまうわけだろ。それに相手が悪人だろうと、しっかり自分の手で決着を付けたいんだ」


 俺のわがままに対してシンは眉を八の字にしながらも笑って答える。


「ハハッ、君はやっぱり面白い奴だ、それとも甘っちょろいと言うべきかな。どちらにしても僕は気に入ってしまうんだけどね。それじゃあガラルド君の意見を尊重して試合は取り消さないことにして、フレイム君を捕縛するのも試合が終わった後にすると約束しよう」


「ほ、本当か!」


「その代わり1つ約束してくれ。罪人を3回戦に進めるわけにはいかないから必ず勝ってくれ。フレイム君が勝ってしまうと2人とも2回戦で消える事になってしまうからね」


 シンの言葉に俺は頷き、お礼を伝えた。そして、勝手に2回戦を戦う事に決めた事をリリスとサーシャに謝った。


「2人とも、俺のわがままで試合を増やしてしまってすまない」


「いいえ、ガラルドさんらしい優しい選択だと思いますよ。私はガラルドさんのそういうところにも惹かれたんです、だから応援しています」


「サーシャもそう思うよ。それにガラルド君の配慮で少しでも後味よく終われたら、元パープルズであるサーシャの心も楽になるからね。だからサーシャからはありがとうって言わせて」


「…………分かった、なら『すまない』を撤回して『ありがとう』と言わせてもらうよ。2人ともありがとう。それじゃあ俺は武舞台に行ってくる」


 俺はリリス、サーシャ、シンに見送られ、控室を出て武舞台に向かった。





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