ドラゴンニュートを撃破した俺とリリスとサーシャは戦闘不能状態になっているサーシャのパーティーメンバーの元へ辿り着いた。

　恐らくサーシャパーティーのリーダーを務めているであろう剣士の男がボロボロの状態で俺に握手を求める。

「君たちが来てくれて九死に一生を得た、本当にありがとう。僕はパープルズのリーダーのフレイムだ。こっちにいるもう１人の剣士が双子の弟のブレイズ、そしてあっちにいる双子の魔術師姉妹が姉のアクアと妹のレインだ。名前的にも火の双子剣士と水の双子魔術師……覚えやすいだろ？」

　名は体を表すと言わんばかりに男の双子剣士は赤い短髪に眼力のある目をした凛々しい顔つきで、見分けがつかないぐらい似ている。そして女の双子魔術師も２人とも水色のポニーテールに涼やかな目元をしたそっくりの女性たちであった。

　４人とも１つずつピアスをしていて兄弟姉妹で左右別々に付けているから、それでなんとか見分ける事ができそうだ。俺は見た目の情報を脳内で繰り返し唱えて暗記しながら、自分たちのことも紹介することにした。

「俺の名前はガラルドであっちの女性がリリスだ。あんたの言う通り２組とも見た目がそっくりだな。パープルズ……紫という名前も赤と青が混ざったと考えれば覚えやすいしな」

「だろ？　それは僕が考えたんだ、僕達２組の双子は幼いころからずっと一緒で仲が良かったからパーティーを組んだんだ。そこに優秀なサーシャを加えて最高の５人組パーティーが出来上がったと喜んでいたんだが……そんな自信を打ち砕かれるぐらいドラゴンニュートは強かった……」

「それは仕方ないさ、俺とリリスもサーシャがいなかったらあんた達みたいになっていただろうしな。本当にサーシャには感謝している」

「それは僕達も同じだ、ありがとなサーシャ」

　リーダーから褒められて、きっと喜んでいるだろうとサーシャの表情を確認してみたが、何故かサーシャは気まずそうな顔をしている。

　奇妙に思った俺は他のパーティーメンバーの様子も確認してみた。すると剣士のフレイム、ブレイズは笑顔を浮かべているのに対し、魔術師の双子女子アクアとレインは舌打ちでもしそうなぐらい不機嫌な顔を浮かべている。そんな２人はサーシャに向かってぼそりと呟いた。

「たまたま上手くいっただけじゃない」

「世渡りが上手ね」

　立っている位置的にフレイム、ブレイズ兄弟には聞こえないがサーシャの耳には微かに聞こえそうな声量で嫌味を呟いていた。どうやら仲が悪いようだ……正直ここに居るだけで胃が痛くなりそうだ。

　俺はこの話をお終いにした方がいいなと判断し、リーダーのフレイムに帰還に関する話し合いを持ち掛ける。

「とりあえず、無事に森からシンバードへ帰る算段をたてよう。あんた達はシンバードまで歩けそうか？」

「正直僕もブレイズも体力・魔量ともに底をついてしまっているのが現状だ。３０分程度休んでから移動を開始したいね」

「分かった、じゃああんた達はここでゆっくりしていてくれ。俺とリリスは周りに魔獣がいないか見回りしてくる。といってもドラゴンニュートに恐れをなして、ほとんどの魔獣が蜘蛛の子を散らすように逃げちまったと思うけどな」

「重ね重ねすまない、よろしく頼むよガラルド君」

　そして俺とリリスは周囲の警戒を始めた。その間にサーシャ、アクア、レインの３人は水を汲んだり、果物を取りに行ったりしているらしい。

　警戒を始めてから暫くすると、突然リリスが俺の服の裾を引っ張り、小声で耳打ちをしてきた。

「ガラルドさん、お話があるんですけど、このパーティーはどこか空気がおかしくありませんか？　魔術師の２人は生還できたにも関わらず不機嫌ですし、サーシャさんは居心地悪そうですし」

「それは俺も気になっていたんだ、双子姉妹がサーシャへ嫌味を呟いていたしな。しかし、今は事情を尋ねることができないし諦めるしかないさ」

「知る方法が１つだけありますよ、会話を盗み聞くんです。ちょうど今、サーシャさん達女子３人が別行動をとっています。なので３人の頭上の樹にアイ・テレポートして死角から盗み聞きしちゃいましょう」

「そんなの駄目だろう、だいいち見回りはどうするんだ？」

「魔獣の一斉逃走はガルム討伐の時と同様のケースですから、きっと一帯から魔獣は消えていますよ。それに私は恩人であるサーシャさんをほっておけないです。もし盗み聞きをして何もなかったら、盗み聞きしたことを正直に打ち明けて全員に謝ると約束しますから、やらせてください！」

　単に野次馬根性で盗み聞きしたいわけではなく本心からサーシャが心配なのだろう。リリスはどこかふざけたところはあるものの優しい奴であることにかわりない。

　俺はリリスの提案を承諾し、リリスと一緒に３人がいる場所の真上の樹へ瞬間移動した。

　息を潜めて樹の上で待機していると、リリスの予想通り姉のアクアの方がサーシャに突っかかり始める。

「ねぇサーシャ、どうやったら貴女みたいに男性陣からチヤホヤされるのかしら、教えてくれない？」

「チヤホヤなんてそんな……自分は今回たまたま戦闘スキルがガラルドさんたちと噛み合って褒められたにすぎないから……」

　男性陣ということは俺も数に入れられているようだ。サーシャの活躍っぷりを褒めただけでチヤホヤしたつもりはないのだが。

　そして今度は妹のレインがサーシャに迫る。

「あのガラルドという男が褒めていたのは確かに戦闘スキルのことだけでしょうね。でもフレイムとブレイズが貴女に向ける視線は別の意味だと思うんだけど？　もしかして陰で媚びでも売っているんじゃないの？」

「サーシャは何もしてないよ……」

「とぼけるんじゃないわよ！　貴女が色目を使ってなきゃ、今でもフレイムとブレイズは私達姉妹とずっと……」

「フレイムさんとアクアさん、そしてブレイズさんとレインさんがそれぞれ許嫁関係――恋人に近い関係だったことは知ってるし、むしろ応援してるぐらいだよ。だから先日フレイムさんとブレイズさんがサーシャに恋仲を迫ってきた時はびっくりしたし、困惑したよ。でも信じてほしい……サーシャにそういう気持ちは全く無いし、色目だって使ってないの……」

　大体パープルズの内情が掴めてきた。つまりは恋愛的な意味で将来を約束されている仲の良かった兄弟姉妹パーティーにサーシャが加入し、サーシャが男子２人に惚れられてしまった結果、双子姉妹に恨まれている訳だ。

　サーシャからしてみれば迷惑な話で同情せざるを得ない。その後も暫く姉妹の嫌味は続き、最後には川で汲んだ水をアクアがサーシャにぶっかけるという酷い八つ当たりにまで発展した。

　今すぐ出て行って怒鳴りつけてやろうかと思ったが、普段熱くなりやすいリリスが意外と冷静に俺の服の裾を掴んで止めてくれた。

　リリスのおかげで俺も少し冷静になり、踏みとどまることができた。アクアはずぶ濡れになったサーシャを見て、鼻で笑いながら吐き捨てる。

「全部貴女が悪いのよ、あと今回のことをフレイム達にチクったらただじゃおかないから」

　ゴミの様な台詞を吐き、アクアとレインはこの場から去っていった。アクアとレインの後ろ姿が見えなくなるのを確認してから、俺とリリスはサーシャの前に姿を現した。