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第20話 ストレングとの出会いと危険信号




 シンと出会った翌日の朝、俺とリリスは紹介状を書いてもらったギルドを改めて訪れた。


 昨日はシンと戦った後で疲れていたこともあり、ギルド内をしっかりと見る事ができなくて気付かなかったが、ギルド『ストレング』はヘカトンケイルのギルドよりも大きくて、内装も小奇麗にしているようだった。


 ヘカトンケイルも大きい街ではあるもののギルドは1つしかなかったのにシンバードは4つもある。そのうえ4つのギルドのうち少なくとも1つはヘカトンケイルのギルドよりも大きいことを考慮するにかなりハンター業に力を入れている街なのかもしれない。


 昨日会話をしたギルド受付に声をかけると「ギルド長をお呼びします、応接室でお待ちください」と案内された。


 俺達は5分ほど応接室のソファーで座っていると、ノックの音とともに髭面の大男が現れた。


 大男は俺達の顔を見て弾ける様な笑顔を浮かべたあと、手を差し出してきたので順番に握手を返す。


 大男は俺の手を握りながら自己紹介を始めた。


「わしの名前はストレングだ。瞬間移動のリリス、それと君が噂の回転砂使いのガラルドだな、昨晩シンから話を聞いて興味が湧いていたんだが、手を握った瞬間ガラルドが強者だと感じ取れたぞ。ガタイもいいみたいだしな、ガハハハッ」


 俺より頭1つデカい大男にガタイが良いと言われてもあまり褒められている気はしなかった。ストレングは縦にも横にも大きな筋骨隆々とした大男だ。顔つきはどこか猪を彷彿とさせ、大きな声に髭面と短髪が相まって、豪放磊落ごうほうらいらくを絵に描いたような男だと感じた。


 俺達は少しだけ出自に関する話や世間話をしたあと、ギルドのルールや設備説明などを受けた。基本的には昨日シンから受けた説明とほぼ同じで復習と確認に近い時間となった。


 話し合いも終わって早速「魔術討伐依頼を受けてみるか?」とストレングに提案された。その直後、応接室に突然ギルド職員の若い女性が息を切らしながら駆け込んできた。


「ハァハァ、ストレングさん、た、大変です!」


「どうした? 落ち着いてゆっくり話すんだ」


「はい……昨日魔獣討伐に出たパーティー2組が救難要請の黄色信号弾を放ちました」


 信号弾とはハンターが愛用している道具で状況を伝える為に使用されるものだ。


 町や拠点の人間に気づいてもらえるように鉄の筒から色のついた煙を空へと打ち上げる道具で用途に応じて煙の色を変えて使用する。


『緑色は1日以内に助けに来て欲しいという合図』『黄色は数十分から数時間など出来るだけ早く助けにきて欲しいという合図』『赤色は何が何でも直ぐに助けに来てほしいという合図』といった具合に分けられている。


 黄色とはいえ2組がほぼ同時に信号弾を打ち上げることは珍しく、少なくとも俺は経験がない。ストレングは顎に手を当て、質問を投げた。


「2組の信号弾はそれぞれ、どの位置に放ったんだ?」


「シンバードから真西に25キードの位置と真東の位置に30キードの位置になります」


「よりにもよって真逆の位置か……それに他のパーティーも出払っている状態だ。こうなったら早速ガラルド達に力を借りるしかなさそうだ、大丈夫か?」


 ストレングの問いに俺達は首を縦に振った。俺達は話し合いの結果、ストレングが距離の近い西方向の救難信号に行き、距離の遠い東方向の救難信号は瞬間移動の使える俺達が行く事となった。


 ストレングは俺達の目を真っすぐ見つめながら救助の無事を祈る言葉をかけてくれた。


「ガラルド、リリス、君たちの無事を祈っているぞ。必ず元気な姿で戻ってきてくれよ、ワシは君たちの旅の話や夢の話をもっと聞きたいからな」


「ああ、任せてくれ!」


 どんな経緯で救難信号が出されたのか分かっていないにも関わらず俺は自信満々な返事をした。きっと自身のスキルを理解できたこと、シンに認められたこと、そして何よりリリスがいれば何だって出来るという気持ちが言葉に出たのだろう。


 そして俺とリリスは勢いよくギルドから飛び出し、東へと走り出した。ざっと地図を見た限りだと途中までは平原が続いていて、救難信号の煙が上がっている辺りは森となっているようだ。


 視界を遮られる森ではアイ・テレポートを使い辛いとは思うが、途中の平原は素早く移動する事が出来そうだ。リリスも同じことを思っていたようで、移動方法を提案してくれた。


「ガラルドさん、街の東端にある見張り台までアイ・テレポートで飛び、そこから平原を見渡して出来るだけ森に近づきましょう。あまり高い位置がないシンバード付近ではそれが1番距離を稼げると思います」


「良い作戦だ、それじゃあ早速アイ・テレポートを頼んだぞ!」


 そして、俺はリリスの肩を掴み、2人一緒に東の見張り台へと飛んだ。リリスの狙いは正しかったようで、ここからは平原がよく見渡すことができた。


 普通に平原を低い位置から移動していたら、緩く隆起している大地に視界を阻まれて無駄にアイ・テレポートの回数が増えていた事だろう。


 リリスは見張り台の上で息を整えたあと、再びアイ・テレポートを使って平原を一気に駆け抜けた。その後も体力の回復を待ちながら3回アイ・テレポートを使用し、救難信号が出ている森の前まで辿り着いた。


「ハァハァ、私頑張りましたよ。2人分のアイ・テレポートを15分で合計5回も使ったのです。頭を撫でて褒めまくってください、ハァハァ、吐きそう……」


「1人でのアイ・テレポートに換算しても10回分だもんな、本当によく頑張ってくれたな、ここからは俺がおんぶして森を歩くからゆっくり休んでくれ、頭は撫でないけどな」


「ぶー、ぶー」


 最近、甘えっぷりが露骨になってきている気がする……。しかし、リリスは冗談めいた言い方をしているけれど本当によく頑張ってくれている。神託の森から始まり、魔獣討伐も街への移動もリリスに頼りっぱなしで本当に頭が上がらない。


 俺は森に突入する前にリリスへ労いの意味を込めて、鞄から飲み物を取り出し、リリスへプレゼントした。


「そんな顔をするなよ、良い物をあげるからよ。リリスはジンジャーエールを飲んだことあるか? これは俺が時々飲んでいるジンジャーエールで高級な植物シルフィウムを配合した高価なやつだ。氷の小魔石で冷やすからグビっと飲んじまうといい」


「わぁー! ガラルドさん大好き! 遠慮なくいただきますね」


 リリスはソワソワした表情でジンジャーエールを冷やし続けていると、突然ハッと何かに気づいたような表情を見せて、俺に問いかけてきた。


「ガラルドさん……このジンジャーエールは高価と言っていましたけど、私に内緒でこっそり購入して自分の鞄の中に隠しておいたのですか?」


 リリスはもの言いたげな目でこちらを見つめている。許可なく勝手に高級な買い物をしたと疑っているのだろうか? 俺は購入した経緯を慌ててリリスに説明する。


「これはリリスとパーティーを組む前に買っておいた物だから勝手に金を使ったわけじゃないぞ。パーティーの資金を使う時はちゃんと相談するから心配ご無用だ」


「ならよかったです、でも一応共同財産は把握しておきたいので他に何かを持っていたら隠さず教えてくださいね、ちゃんと家計簿もつけたいですし」


「家計って……夫婦みたいに言うなよ!」


 リリスは相変わらずちゃっかりしているというかなんというか……それに本気かボケかも分からないようなアタックも仕掛けてくるからツッコみを入れるのも大変だ。


「あ、冷えてきましたね、それじゃあ高級ジンジャーエールで疲れた身体を癒しちゃいまーす、ゴクゴクゴクゴク……ぷは~~~! 本当に美味しいですねコレ、あと何本ストックありますか?」


 リリスは変な奴ではあるけれど無邪気で良い奴だから美味しそうにジンジャーエールを飲む姿が見られて本当によかったと思う。今度またご馳走してやろう。


 そんなやりとりをしながら休憩していると俺達の耳に突如、笛の様な音が聞こえてきた。


「へ? 何の音ですかね? 森の方から聞こえてきたような気がす――――ガラルドさん大変です! 赤色の信号弾が森の中から上がってます!」


 リリスが指差す方を見てみると確かに赤色の信号弾が上がっていた。笛みたいな音の正体は信号弾だったらしい。位置的には森の中心の辺りだ。


「黄色の信号弾から30分も経たないうちに赤色の信号弾なんて……もしかして相当マズいのでは……急ぎましょうガラルドさん!」


 俺達は急いで森の中へと走り出した。





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