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第21話 サポート(四)

 ◇ ◇ ◇


 同時刻――壁内某所の淫靡いんびな匂いが充満した一室では、生まれたままの姿である女が、同じく生まれたままの姿である十人の男と夜の営みに興じていた。


 特注で作られた非常に大きなベッドの上でお気に入りの男たちと乱れる女に声を掛ける者が一人いた。

 執事服を身にまとっているフランコだ。


「――姫」


 フランコは愛しの女が十人の男と楽しんでいるところを目の当たりにしても、眉一つ動かくことなく平然としている。

 彼にとっては女の幸せが自分の幸せだ。

 故に、他の男とよろしくやっていようと彼女が幸せそうならフランコも心が幸福感で満たされる。


「あん……何かしら?」


 快感に喘いでいるが、フランコの言葉はしっかりと耳に届いていた。

 一瞬だけフランコに視線を向けると、すぐに侍る男たちに視線を戻す。


明日あすから対抗戦が始まりますが、如何いかが致しますか?」


 各校の優秀な生徒が対抗戦に出場するので各学園が手薄になる。

 仮に襲撃があった場合は被害が大きくなる恐れがあった。


 逆に言えば、過激的な思想を持つ反社会的な組織にとっては襲撃する絶好の機会でもある。

 つまり、フランコは十二校ある国立魔法教育高等学校のいずれかを襲撃しますか? と尋ねているわけだ。


 無論、そういったことを想定して各校はそれぞれ対策を講じている。

 警備員を増員したり、宿直する教員を増やしたりなどだ。

 元々学園の敷地内にある教員寮で生活している教員もいるが、住宅街で暮らしている者もいる。なので、街中で暮らしている教員に対抗戦の期間だけ宿直勤務を命じていた。


 これだけ聞くと街中で暮らしている教員だけ宿直を命じられて不公平に感じるかもしれないが、教員寮で生活している教員は日頃から警備の一旦を担い、生徒の暮らしを見守る役目をこなしている。

 その代わり教員寮の家賃は格安で、学園の敷地内にある施設を利用できる。


 教員寮を利用する教員は独身者が大半を占めており、街中で暮らしている者は家族と生活している者がほとんどだ。


 宿直勤務中は家族と離れることになるが、その分の宿直手当は支給される。

 教員寮で暮らす者は少々負担が大きい代わりに、格安の家賃と利便性のある場で暮らせている。

 どちらも一長一短だが不平等による不満は出ていない。みな納得しているからだ。


 また、今は夏季休暇中なので実家に帰省している生徒が多い。

 守る対象の数が少なくなるので、万が一、学園が襲撃されても残っている生徒を守る負担が減る。――もっとも、人手が足りずに施設に対する被害が増す可能性はあるが。


 他にも各校毎にそれぞれ対策を講じている。

 防衛面に関して抜かりはなかった。


 そもそも生徒がいないなら襲撃する意味がないと思う者もいるだろう。

 しかし、国立魔法教育高等学校が襲撃された、被害を負った、という事実だけでも魔法師界にとってはダメージになり、反社会的な組織にとってはパフォーマンスとなる。

 有力な反魔法主義者が支援を申し出るきっかけになるかもしれない。

 故に学園側としては軽視できない問題だった。


「そうねぇ……今回は静観しようかしら」


 女は一人の男に跨りながら吐息を多分に含んだ声色で答える。

 身体と身体を打ち付け合う音と粘り気のある音が室内に響く。

 両手はそれぞれ別の男に伸びており、女のことを男たちが囲っている。


「魔法師の卵の実力を見させてもらうことにしましょう」


 今後の計画を練る上で情報を集めることは欠かせないので、対抗戦で生徒たちの実力を推し量ることを優先する。


「それに対抗戦の人気と注目度は侮れないわ。下手したら反感を買ってしまいかねないもの」


 国立魔法教育高等学校を襲撃するメリットはあるが、当然デメリットもある。

 国中で盛り上がる対抗戦の隙を狙って襲撃した事実が反感を買う恐れがあった。


 反魔法主義者は魔法師から反感を買うことはいとわない。

 しかし、非魔法師からの悪評は無視できないものがある。


 反魔法的な思想を持つ者は非魔法師が大半だ。

 コミュニティも主に非魔法師で構成されている。

 故に反感を買うと生活基盤が揺らぎかねない。


 反魔法主義者は魔法師に対して友好的、中立的な態度を取っている非魔法師が完全に魔法師の味方になってしまうことを最も恐れている。


「今は敵を作るリスクを負う時ではないわ」


 そもそも女は反魔法主義者ではない。

 だが、支援者や懇意こんいにしている者の中に反魔法主義者がいるので、無関係だと知らん振りするわけにはいかなかった。


 彼女は自分の望むままに行動している。それでも最低限の配慮は欠かしていない。

 こういったバランス調整が今でも組織を維持できている理由であった。


「暇になったらその時に考えればいいもの」


 以前ヴァルタンを使ってランチェスター学園を襲撃させたのは、単なる暇潰しにすぎなかった。

 使える駒自体はいくらでもあるが、ヴァルタンのように大規模な組織で使い潰せる駒を現状は持ち合わせていない。

 今は機会を待ちつつ準備を整えるべきだと判断した。


「畏まりました」


 慇懃いんぎんな態度で頭を下げるフランコ。


「面白い子がいたらいいのだけれど」

「それは始まってからのお楽しみですね」

「ふふ。そうね」


 女は気に入った男子生徒がいたら手籠めにする気だった。

 タイプではない男や、そもそも対象外の女は手駒として飼うのも悪くない、と皮算用している。


「それでは私は失礼致します」

「ええ」


 フランコが物音一つ立てずに退室する。


「さあ、もっと楽しみましょう」


 女は侍らせている男たちに期待と興奮を宿した眼差しを向ける。

 すると、とろけた表情に吸い寄せられるように男たちは女に手を伸ばす。


 その後、行為は一層激しさを増し、夢中で淫奔いんぽんに耽って朝方まで静まらなかった。


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