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第16話 懇親会(四)

「――ジルくんとオリヴィアがイチャイチャしてる……」


 聞き慣れた声が背後から掛かったが、やけに力のない口調だ。

 疑問に思いながら振り返ると、そこにはステラ、レベッカ、シズカ、ビアンカがいた。

 マクダニエルズ三兄弟がいなくなったのに気がついたステラたちがやって来たようだ。


 そして先程の力のない呟きはレベッカの声であった。

 おそらく嫉妬や羨望が胸中で渦巻いたが、自覚がないので上手く処理できなかったのだろう。それで無意識に呟いてしまったのだと思われる。


 一方で、ステラは腕を組む二人のことを無表情のままジーっと見つめていた。


「おやおや」


 ビアンカがにんまりと愉快そうな笑みを浮かべて口を開く。


「これは……レベッカはお呼びじゃない感じかな~」

「な、なんのこと!?」


 ジルヴェスター本人に気があることを勘付かれたくないレベッカは、動揺を誤魔化そうとする。


 二人が言い合っているのを無視してステラが喋る。


「終わったの?」

「ええ」

「そ」


 小さく頷いたステラは、オリヴィアとジルヴェスターが組んでいる腕の解いて、自分が間に割って入る。

 自分の右腕をジルヴェスターの左腕に絡め、左腕をオリヴィアの右腕に絡ませた。

 二人に挟まれる形で腕を組み、ご満悦だ。幸せそうで何よりである。

 まるで兄と姉に甘える末っ子みたいだ。


 オリヴィアは「あらあら」と言いながら慈愛の籠った眼差しでステラのことを見守っている。

 ジルヴェスターも拒絶することなく受け入れていた。


「もう、ステラっちはかわいいな~」

「羨ましいの間違いでしょ」

「ビアンカは黙ってて!」


 レベッカは言い争いながらもステラの行動を視界に収めていた。

 そしてどうやらステラの行動が琴線きんせんに触れたようで目尻が下がっている。

 ビアンカのことを睨む目つきとは雲泥うんでいの差だ。


「オリヴィアは大変だったわね」

「ジルくんのお陰で助かったわ」


 シズカがオリヴィアを労う。

 マクダニエルズ三兄弟の件はステラから聞いていたので把握していた。


「ジル君もお疲れ様」

「俺は突っ立っていただけだがな」


 ジルヴェスターは苦笑するが、役に立ったのは事実だ。

 シズカの労いを受ける資格はある。


「――みなさんご一緒だったのですね」


 今度はリリアナがイザベラを伴ってやって来た。


「ステラはご機嫌だね」

「ん」


 ご満悦なステラの様子を見たイザベラが微笑む。なごむ光景に肩の力が抜けた。


「――やっと解放された……」

「何がそんなに嫌なのか」

「僕はアレックスみたいにはできないよ……」


 げっそりした顔のレアルと、彼の肩に腕を回しているアレックスもやって来た。


「レアルは随分とお疲れだな」

「ジル、聞いてくれよ。こいつ女子に囲まれてウハウハの状況だったのに、通り掛かった俺に助けを求めてきやがったんだよ」

「お前なら嬉々としてそうだな」

「そりゃそうだろ。ハーレムで羨ましい限りだったぜ」


 二人が一緒にいたのは、ナンパに奔走していたアレックスがたまたまレアルの近くを通り掛かったからだ。

 レアルがこれ幸いと助けを求めると、アレックスは「やれやれ」と言いながら助けに入った。


 しかし、アレックスは善意だけで助けたわけではない。

 レアルのことを囲む女子たちをナンパし始めたのだ。ナンパするのにちょうどいいと思って助けに入ったのだろう。


 アレックスが会話の主導権を握ると場が盛り上がったが、レアルは相槌を打つだけの機械と化していた。


 最終的にはアレックスが上手く場を収めて穏便に退散したという次第だ。


「ちゃっかりしているな」

「当たり前だろ。せっかくのチャンスだったからな」


 呆れと感心が同居した複雑な表情のジルヴェスターが肩を竦める。


 隙を見てはすかさずナンパするアレックスはさすがと言うべきか、節操がないと呆れるべきか。

 男から見たら感心する部分もあるが、女性からしたら白目を向けたくなるだろう。


「お陰で複数人とデートの約束を取り付けられたし、懇親会は最高だな」

「程々にな」


 ほくほく顔のところに水を差すようで申し訳ないが、友人として釘を刺しておく。


「ジルくんが人のこと言えるのかしら……」


 オリヴィアが誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。


「……」


 ジルヴェスターの耳にはしっかりと届いていたが、一部の者しか知らない事情により何も言い返すことができなかった。

 くだんの事情に関してオリヴィア自身は納得しているし不満もない。なので、揶揄からかっているだけだ。

 それはジルヴェスターも理解している。

 しかし返す言葉がないのは変わらない。


 オリヴィアの呟きが他の面々には聞こえていなかったのがせめてもの救いだろう。


「一先ず、お前は美味いもんでも食ってストレスを発散しろ」


 アレックスがレアルの背中を押す。


「うん。そうするよ……」


 疲れ果てて肩が下がっているレアルは、近くのテーブルに置かれているケーキに手を伸ばした。


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