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第15話 懇親会(三)

 くだんの三人の近くまで辿り着くと、会話が聞こえてきた。


「いやー、凄い美人だったな!」

「オリヴィアさんか……」

「叱られたい」


 三人はオリヴィアに夢中なようで、自分たちの世界に入っている。

 ジルヴェスターたちが近付いていることに気がついていない。


「めっちゃタイプだ!」

「女神のような御方だ……」

「踏まれたい」


 一人変態的な発言をしている者がいるが、聞こえなかったことにした。


 声の届く位置まで辿り着くと、オリヴィアが背後から声を掛ける。


「マクダニエルズさん」


 名前を呼ばれた三人が一斉に振り返る。


「オリヴィアさ――」


 顔を赤くして嬉々とした様子の三人は言葉に詰まった。

 意中の相手の隣に知らない男がいたからだ。


 呆然としている三人のことは放っておいてオリヴィアは言葉を続ける。


「好意を持って頂けるのはありがたいのですが、私には彼がいるので申し訳ありません」


 オリヴィアは軽く頭を下げる。

 頭を上げた後、自分の胸をジルヴェスターの左腕に押し付けた。

 腕が胸に挟まれ、豊満で柔らかい胸は形が歪む。

 それでも張りがあるので綺麗な形を保っており、余計に妖艶ようえんさが増していた。


 三人は固まった身体を動かすことなく、頭だけ動かしてジルヴェスターに視線を向ける。

 ぎこちない動きなので、まるで機械のようだ。

 身長差の関係で三人はジルヴェスターのことを見上げている。


「高身長で、しかもすんげぇイケメンだ」

「神々しくて眩しい……」

「睨まれたい」


 三人が順に呟く。


「これは俺たちの出る幕がないな」

「そうだな……。その方がオリヴィアさんは幸せだろう」

「諦めの感情もまた興奮する」


 頷く三人の動きが揃っている。さすが三つ子と言ったところか。


 話の流れから察するに、どうやらオリヴィアのことは素直に諦めるようだ。

 意外と聞き分けがいい。もっと粘着するかと思っていたのでジルヴェスターは意外感に包まれた。


 オリヴィアが幸せなら二人の関係を引き裂くのは野暮だと考えているようだ。

 あくまでもオリヴィアの幸せが第一ということらしい。


「イケメン君、俺はジェイソン・マクダニエルズだ。オリヴィアさんのことをよろしくな!」

「俺はジェイレン・マクダニエルズ。二人は美男美女でお似合いだな」

「俺はジェイデン・マクダニエルズだ。興奮した。ありがとう」


 ジェイソンから順に握手を交わし、ジルヴェスターも名乗った。

 一人だけ変態がいるが気にしないことにする。


 ジェイソンが長男で、ジェイレンが次男、ジェイデンが三男だそうだ。全く見分けがつかない。


 ジェイソンは長男らしく纏め役のようで、三人の中では一番しっかりしていて朗らかな印象だ。

 次男のジェイレンは仕草と言動がいちいち芝居がかっているが、最も頭が切れるらしい。

 三男のジェイデンは少し残念なところがあるように見受けられる。しかし、やる時はやる男だそうだ。


「だが、機会があればまたアプローチするぞ」

「二人がいつまでも仲睦まじいことを祈るよ」

「焦らしプレイ」


 打ちひしがれても完全には諦めていないのか、虎視眈々こしたんたんと機会を窺っているようだ。

 それでも二人の幸せを祈るあたりは人の良さが滲み出ている。


「では、オリヴィアさんお幸せに! 対抗戦を楽しみにしているよ!」


 ジェイソンが代表して告げると、三人は素直引き下がって行った。


「悪い奴らではなさそうだな」

「ええ。だからこそ無下にするのはどうかと思ったのよ」

「なるほどな」


 失礼な輩なら遠慮なく突き放すが、三人は終始オリヴィアのことを第一に考えてアプローチしていた。

 無遠慮なことをせず、常に紳士的な対応だっただけに突き放すのが憚られたのだ。


 可能な限り穏便にことを収める為にジルヴェスターを頼ったというわけであった。


「それにあいつらは中々腕が立つと思うぞ」

「あら、そうなの?」

「ああ」


 オリヴィアが首を傾げる。


 マクダニエルズ三兄弟の魔法師としての実力は侮れない、とジルヴェスターは見て取った。

 魔眼を使わなくてもわかる。一定以上の魔法師なら誰でも可能だ。


「対抗戦では気をつけておくことだな」

「ええ、そうするわ」


 三兄弟はエル魔法教育高等学校の一年生なので、オリヴィアとは新人戦で相まみえる可能性がある。

 もしかしたら対抗戦を荒らす存在になるかもしれない。気に掛けておいて損はないだろう。


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