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第5話 責任

 ◇ ◇ ◇


 七月中旬の某日。

 夏季休暇前に立ちはだかる試験が全て終了し、生徒たちは思い思いの休日を過ごしていた。

 試験の鬱憤を晴らす者、魔法の鍛錬に励む者、勉強する者など様々だ。


 そして休日明けの登校日。

 この日の放課後には試験結果が発表される。


 結果が気になって仕方がない者は、授業に集中できない一日を送る羽目になった。

 中には発表前から諦めムードを醸し出している者もおり、生徒それぞれ面持ちには差異がある。


 期待や不安を抱えて試験結果を確認した者たちは様々な反応を示した。

 喜びをあらわにする者、悲嘆に暮れる者、悔しくて歯を食いしばる者などが散見された。


 そんな中、カフェテラスに集まってテーブルを囲み、談笑している者たちがいた。


「みんな予想以上にいい結果だったね」

「そうね」


 足を組み替えたイザベラの言葉にオリヴィアが相槌を打つ。


「総合順位の上位四人は変わらずか」


 アレックスは頭を掻きながら呟くと、ジルヴェスター、レアル、イザベラ、シズカに視線を向けた。


「僕とジルの間にはアーガンス山脈よりも高い壁があると思うけどね……」


 苦笑しながらそう呟いたレアルは、グラスを手に取ってアイスコーヒーを啜る。


 アーガンス山脈はウェスペルシュタイン国内で最高峰の山脈だ。

 ウォール・ウーノ内の北東にあるユトント区と、同じくウォール・ウーノ内の東南東に位置するワンガンク区にかけて跨り、多くの鉱山を抱えている。


 つまり自分とジルヴェスターの間には歴然たる差がある、とレアルは言っているのだ。


 一旦ここで今回の期末試験の結果を確認しよう。


 実技

 一位・ジルヴェスター

 二位・レアル

 三位・シズカ

 四位・イザベラ

 六位・アレックス

 八位・ステラ

 十位・リリアナ

 十三位・オリヴィア

 十五位・レベッカ


 筆記

 一位・ジルヴェスター

 二位・オリヴィア

 三位・リリアナ

 五位・イザベラ

 七位・シズカ

 八位・レアル

 十一位・ステラ

 十七位・レベッカ

 二十四位・アレックス


 総合

 一位・ジルヴェスター

 二位・レアル

 三位・イザベラ

 四位・シズカ

 七位・ステラ

 八位・リリアナ

 十位・オリヴィア

 十五位・アレックス

 十八位・レベッカ


 ――以上だ。


 ジルヴェスター、レアル、イザベラ、シズカ以外は前回よりも順位が上がっている。

 努力の成果が発揮された証拠だろう。

 上位四人は順位を維持していることが素晴らしい。


「私とレアル君との間にも結構な差があると思うけどね」


 イザベラが肩を竦める。

 相変わらず仕草が一々凛々しくて、周囲にいる女性の視線を釘付けにしている。


「お二人は格が違いますもの」


 リリアナが同意を示す。


 ジルヴェスターは例外だとしても、実際レアルも一年生の中では飛び抜けて優秀だ。

 筆記はともかく、実技は格が違う。


 レアルは元から優れた魔法師だったが、ミハエルに弟子入りして以降、急激な成長を遂げている。

 正直ジルヴェスターとレアルは順位から除外した方がいいだろう。

 アマチュアの中にプロが交ざっているようなものだ。しかも特級魔法師第一席と特級魔法師になれるだけの才能を有している二人がである。


 ジルヴェスターとレアルがトップに君臨しているので、他の生徒は同級生故に必然的に順位が二つ下がってしまう。可哀想だが仕方がない。同い年なのは抗えない現実だ。

 実質イザベラが総合一位と考えても差し障りないかもしれない。


 筆記の結果で僅かに上回っているイザベラが総合順位で三位になっているが、実技で順位が上のシズカの方が魔法師としては優れていると言えるかもしれない。

 とはいえ、シズカの場合は剣術や身体能力の面で圧倒的に勝っているのであって、魔力量や魔法行使の技量に関してはイザベラの方が上回っている。

 故に、イザベラとシズカの間にはほとんど差がないと言っても過言ではない。


「わたし、やればできるじゃん」


 総合順位で二十位以内に入ったレベッカが自画自賛する。

 胸を張っているので彼女の豊満な胸が強調されていた。


「はいはい。良くできたね」


 そんなレベッカのことをシズカは軽く受け流す。


「シズカが冷たい……」


 肩を落とすレベッカのことを無視してアレックスが口を開く。


「順当に行けば全員対抗戦の選手に選ばれるんじゃね?」


 今回の試験結果も対抗戦に出場する選手選考の参考資料になる。


「対抗戦に出られるのは三十人だよな?」

「ん」


 アレックスの問いにステラが無表情で頷く。


 対抗戦は新人戦と本戦にそれぞれ三十人ずつ出場できる。

 全学年合わせて六十人だ。


 一学年約三百人ずつおり、全校生徒は九百人近くいる。

 その中で対抗戦に出場できるのはたったの六十人だけだ。


 その点、今この場にいる面子は対抗戦の選手に選出される可能性が高い。

 試験の結果、クラブでの実績、実技科目での成績などをかんがみれば、余程のことがない限りは選出されるだろう。

 それでも絶対はないので確信を持てるわけではない。


「楽しみ」

「新人戦だけでも優勝できるといいわね」

「ん」


 わかる人にしかわからない些細な表情の変化でステラが微笑むと、釣られるようにオリヴィアも笑みを零す。


「そうだね。正直、本戦優勝と総合優勝は厳しいだろうし……」


 眉間に皺を寄せるイザベラ。


「まあ、今年と来年はプリム女学院が本命だろうな」


 アレックスの顔には諦めの色が浮かぶ。


ランチェスター学園うちの主力も手練れなんだが、さすがにプリム女学院には勝てないだろ……」

「正確には『紅蓮ぐれん』様一人なんだけどね」

「だな」


 クラウディアを筆頭にランチェスター学園も精鋭揃いだ。

 しかし、それでもイザベラが指摘したように『紅蓮ぐれん』がいる限り厳しいと言わざるを得ない。


「反則と言いたいところだけれど、『紅蓮ぐれん』様も生徒である以上は出場資格があるものね」

「そうですね」


 オリヴィアが肩を竦めると、リリアナが苦笑しながら相槌を打つ。


 黙って話を聞いていたジルヴェスターは、『紅蓮ぐれん』という単語に引っ掛かりを覚えていた。


(どこかで聞き覚えがあったような気がするが……)


 手掛かりを探る為に思考を巡らす。


(そういえば、アーデルとレイが話していたか……?)


 無意識に首を傾げるジルヴェスター。


「ジルくん? 何か気になることでもあったのかしら?」


 ジルヴェスターが首を傾げたのを視界に捉えたオリヴィアが、風で靡く前髪を左手で押さえながら尋ねる。


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