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第51話 恩(二)

 ◇ ◇ ◇


 翌日の四月六日――政府は公式に表明を出した。

 その内容は、本日付でビリー・トーマスから七賢人の地位を剥奪する、というものであった。


 本人が自白したことにより罪が明るみとなり、政府としては取り繕うことのできない段階に至っていた。故に有耶無耶うやむやにはできず、明確な処分を下す必要があった。


 但し、ビリーに非があるのは明らかなのだが、非魔法師であり世間的に名の通っている彼に処分を下すと反魔法主義者が黙っていない。

 話の通じる相手ならばいいが、中には意思疎通できない厄介な者もいる。そういった者にはいくら言葉を尽くしても無駄だ。とはいえ、何を仕出かすか予測のつかない連中なので無視を決め込むこともできない。


 そこで反魔法主義者を過度に刺激しない範囲で処分を下すことになった。

 まず、口惜しいが逮捕することは諦め、七賢人の地位を剥奪し、降格処分を下した。

 ビリーには一議員として身を粉にして国の為に働いてもらう。


 また、彼が横領した金額はしっかりと返納させ、その上で横領罪による罰金を科す。

 詐欺などで女性を弄んだ件には当然詐欺罪が適用され、罰金刑を科した。それと被害者に対する慰謝料の支払いを命じた。

 それが反魔法主義者を過度に刺激しない限界点だった。――どちらにしろビリーの場合は罰金を支払える資産があるので、仮に逮捕してもすぐに釈放される運命であっただろうが。


 ビリー本人は下された処分を甘んじて受け入れている。むしろ刑が甘すぎると叫んでいるくらいだ。

 厳罰に処してくれないと謎の人物――ジルヴェスター――に、また生きたまま地獄を体験させられると怯えていた。

 だが、彼の要望が通ることはない。

 本来なら刑が軽くなるのは誰にとっても望ましいことなのだが、彼にとっては望みとは対極の判決なのはなんとも皮肉なことであった。


 囲われていた女性たちは無事に解放されたが、例外もいる。

 正式に法的な手続き踏んだ上で身売りをした者は当然解放されない。

 ビリーのことを愛して妾になっていた者で、愛想を尽かさなかった者も残った。

 そしてビリーとの間にできた子供がいる女性の中で、まだ幼い子を抱える者は独り立ちするまで育てなくてはならないので、彼に責任を取らせる為に敢えて残った者もいる。仕方なく残るとはいえ、今までとは違い立場が逆転するので、思う存分こき使って溜飲りゅういんを下げることはできるだろう。

 政界での出世を目論んで近寄った者は、ビリーが七賢人の地位を失った途端に去っていった。利用価値がなくなったと判断され、見限られたのだ。


 結果、ビリーは地位、権力、人望を失い、莫大な罰金と慰謝料を支払い、馬車馬の如く働かされ、子育てに奔走し、謎の人物――ジルヴェスター――に怯える生涯を送ることになった。


 この日は紙面と市井を大いに賑わせた。

 しばらくはビリーについての話題で持ち切りとなるであろう。

 それもすぐに飽きて忘れ去られてしまうのであろうが。


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