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第46話 侵入(四)

 ◇ ◇ ◇


 同時刻の壁内某所。


 裸でベッドに俯せ、侍らせている男にマッサージをさせている女のもとへフランコが姿を現す。


「姫」

「あら? 何かあったの?」


 女は俯せの状態で器用に首を傾げる。


「はい。ご報告を」

「そう」


「トーマス卿から例の件、滞りなく済んだと連絡がありました」


 例の件とは、マーカス・ベイン暗殺のことだ。


「遺体は確認したのかしら?」

「二時間ほど前に住民が発見したそうです。被害者がベイン卿だと政府は内密にしているようですが、要人でなければ秘匿する理由はないかと」

「そうね」


 要人が暗殺されたなどと知られれば騒ぎになる。

 政府が秘匿するのは、おおやけにすると市井に不安や混乱を招く恐れがあるからだと推測できる。


「まあ、成否はどうでもいいわ。結果がどうであれ、わたくしには全く影響ないもの」


 マーカス暗殺の件に成功しようが失敗しようが、彼女にとっては大した影響はなかった。

 邪魔者が減って多少は動きやすくなるが、仮に失敗しても今と状況が変わるわけではない。


 不審死が立て続けに起こっている現状、政府は疑惑の目を向けるだろう。

 万が一原因を突き止められても、今回の件に関してはビリーに全責任が行くように仕向けている。

 なので、成否にかかわらず、彼女にとっては微塵も痛手にならなかった。


「姫のがある限り、トーマス卿は傀儡でしかありませんからね」

「その通りよ」


 女にとってビリーは操り人形でしかなかった。

 彼女のが働いている限りは逆らえない。いや、正確に言うと逆らいようがない。

 何故なら女に対してのだから。


「何も心配はいらないわ」


 女はマッサージが気持ち良くて時折吐息を漏らす。


「わたくしが楽しめればそれでいいのよ」


 顔を赤らめて悦に浸る女は自分の都合しか考慮していない。


「また何かあれば報告をお願いね」

「畏まりました」


 フランコはうやうやしく頭を下げてから退室した。


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