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三月二十五日――ウィスリン区の外れに位置するクリステントという町で、連れ立って歩く男女の姿があった。
クリステントはウィスリン区の西部に位置し、区内の町では最も西方にある町だ。
比較的小さめの町ではあるが、鉄道が通っており、西部の周辺地域で暮らす者にとっては欠かすことのできない町となっている。
ウィスリン区の中では最も西部に位置する町だが、更に西方に行くと村があるので区内で人の営みがあるのはクリステントが最西端ではない。
「ジル、ここよ」
連れ立って歩いていたのはジルヴェスターとレイチェルであった。
レイチェルの先導のもと、目的の場所へと辿り着く。
「普通の公園だな」
二人が辿り着いたのは何の変哲もない一般的な公園であった。
子供が遊べそうな遊具があり、大人でものんびりと過ごせるようなスペースもある。家族揃って楽しく過ごせる公園といった印象だ。
「例の不審死があった影響で今は閑散としているけれど、普段は子供たちの元気な声で賑わっているそうよ」
「そうか」
公園を見渡すと人の姿はちらほら確認できるが、子供の姿は見当たらない。
レイチェルの言葉を肯定するかのような状況だ。
この公園に二人が赴いた理由は、昨今問題になっている謎の不審死が続出している件の調査の為である。
「このベンチで亡くなっているところを発見されたみたいね」
二人が注目したのは、人々がのんびりと過ごせるような拓けたスペースに置かれている一つのベンチだった。
「見通しは良さそうだな」
「ええ、遮る物はないし人通りも少なくはないみたいよ」
もし人が争っていたら人目につくことだろうと容易に推測できた。
「
ベンチを始め、周囲には争ったと思われる形跡は一切見当たらない。
「なるほど。俺にお鉢が回って来るわけだ」
「そうね。おそらくあなたにしか
争った形跡がなく、健康体であった者が次々と突然亡くなっている。
しかもフェルディナンドが目を掛けている政治家に限ってだ。誰がどう見ても明らかに不自然である。
不自然な点が見当たらないのならば、普通では見えない物を
ジルヴェスターはベンチへ眼を向ける。
彼の金色の瞳が一層光輝く。
すると、ジルヴェスターの視界には色鮮やかな
彼の瞳に映る色鮮やかな
色鮮やかなのは、空気中に漂う魔力は各属性による影響を受けているからだ。例えば、火属性の影響を強く受けていると漂っている魔力は赤くなる。色鮮やかということは複数の属性の影響を受けているということだ。
基本的に人が生活している場所では色鮮やかな魔力が空気中を漂っている。なので、この場に漂う魔力に特別可笑しなところはない。
火山や豪雪地帯などは例外だ。例えば、火山は火属性の影響を強く受けている為、空気中に漂う魔力は赤一色といっても過言ではないくらい赤みを帯びている。
(これは……)
空気中に漂う魔力に視線を
色鮮やかな魔力が空気中を漂う中、ジルヴェスターが見つめる先には濁った色の魔力が僅かに漂っていた。濁っている色の元の色は紫だと思われる。紫が濁っておどろおどろしい色になっていた。
(紫の魔力が濁っているということは、何者かが
紫色の魔力は
空気中に漂う魔力には二通りある。
まず一つは元から空気中に漂っている自然発生の魔力だ。
そしてもう一つは、魔法師が魔法を行使した際に自身の体内から放出される魔力だ。
魔法師の体内から放出された魔力は共通して濁っている特徴がある。
故に、濁っている紫色の魔力が空気中に漂っているということは、何者かが呪属性の魔法を行使した後だと推測できるわけだ。
「何かわかったかしら?」
ジルヴェスターの表情に僅かながら変化があったのを見逃さなかったレイチェルが尋ねる。
「ああ。おそらく暗殺の線が濃厚だな」
「やはりそうなのね」
「とはいえ、ここは外だから確証はない」
「それもそうね」
外だと風による空気の流れが影響して、空気中に漂う魔力が流されてしまう。
今回は僅かに
魔法師の体内から放出された魔力は時間が経てば自然と濁りがなくなり、自然発生している魔力と同化していく。
故にあくまで可能性があるだけで、確証となるものではなかった。
「別の場所も
現状はまだ整合性がない。
関係のある現場を全て確かめる必要があった。
ジルヴェスターの『魔眼』には複数の能力が宿っている。
一つは魔法師が発動する術式を読み取ることができるというものであったが、彼が先程用いたのは魔力を可視化する能力だ。
空気中に漂う魔力はもちろん、体内に内包している魔力まで可視化することができる。
相手の魔力量や適性のある属性まで判別することが可能な為、非常に汎用性の高い能力だ。
「では、次の場所にも行ってみましょうか」
「ああ」
次の現場に向かう為にレイチェルが先導するように歩を進める。