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第4話 会遇(四)

 ◇ ◇ ◇


「――そろそろ帰るか」


 翌日、まだ日も登りきらない薄暗い時間にジルヴェスターは動き出す。

 満足するまで探索したので帰路に着くことにしたのだ。


 なんともないことのように翌日を迎えているが、他の人が耳にしたら正気を疑うことだろう。

 壁外で野宿すること自体計り知れない危険を伴う。しかも彼が今いる場所は『人類の限界領域』と言われている深層の真っ只中だ。

 そんな場所で夜を越すなど正気の沙汰ではない。良い子は真似するな、の次元を超えている。


 ちなみに今日は休日ではないので、いつも通り学園に登校しなくてはならない。


 ジルヴェスターは朝日が顔を覗かせ始めた空を一度見上げると、足を踏み出した。


 その後、自然の中を数時間疾走していた。

 ただ帰宅する為だけに疾走していたのではなく、他にも用事があったのでいくつも寄り道を挟んでいる。道中には目に付いた魔物を片手間に狩ってもいた。


 ジルヴェスターはわざわざ自らの足で長い距離を走らなくても、もっと簡単に壁内と壁外を移動する手段がある。だが、帰りは道中にも用事があったので自分の足で移動していた。


 そして用事を全て終えたので、後は『転移テレポーテーション』で一気に壁内へ飛ぶつもりでいた。


 ――『転移テレポーテーション』は無属性の第九位階魔法であり、任意の場所に転移することができる移動魔法だ。任意の場所とはいえ、転移先を理解していないと効果が発揮されない。故に行ったことのある場所や目に見える場所にしか転移できない。また、距離が離れているほど魔力を消費する。


 しかしその時、ジルヴェスターは魔法の気配を感じ取った。


「約五百メートル西か……」


 魔法の気配を感じ取った場所を読み取る。

 彼にかかれば魔法を使わなくても魔法の気配を辿るのはそこまで難しいことではない。

 誰にでもできることではないが、一定以上の実力者であれば、信憑性はともかく魔法の気配の先を辿ることは可能だ。


「段々魔法の気配が弱まっている?」


 魔法の気配が感じるということは、魔法師が魔法を放っているということだ。

 その魔法師が何度も魔法を放っているが、段々感じ取れる魔法が弱まっていた。


 それはすなわち、魔法を行使している魔法師が弱ってきているか、残りの魔力が乏しくなっているということだ。また、どちらも該当している可能性すらある。


 さすがに放置できないと判断したジルヴェスターは、把握した場所へ向けて駆ける。


 弱ってきている魔法師がいるとわかっていて無視するほど彼は薄情ではない。

 わかっていて見過ごすのは多少なりとも目覚めが悪いし、特級魔法魔法師第一席としての責任を一応持ち合わせている。


 目視可能な距離まで近付いたので駆けながら様子を窺うと、一人の魔法師が魔物の集団に囲まれていた。


「ブラッディウルフか」


 魔法師を囲んでいる魔物はブラッディウルフの群れであった。


 魔物には魔法協会が定めた脅威度を示すレートが存在する。

 レートは高い順にSSS>SS>S>AAA>AA>A>B>C>D>E>F>Gとなっている。


 傾向として、浅層にはG、F、Eレートの魔物が多いが、Eレートの魔物は比較的少ない。

 下層はE、D、Cレートが多く、Cレートの魔物は珍しい。

 中層はC、B、Aレートが多いが、Aレートの魔物は滅多に見掛けない。

 上層にはAレート以上の魔物が多く蔓延はびこっている。

 深層に至っては未知の部類だ。

 無論これらは絶対ではない。


 浅層の魔物は頻繁に間引いているので低レートの奴らばかりだが、稀に高レートの魔物が浅層まで降りて来ることがある。

 反対に上層や深層に低レートの魔物が紛れ込んでいることもある。


 また、魔法協会が定めたレートは絶対ではない。

 情報が百パーセント正しいわけではなく、魔物自体が進化している可能性もある。

 なので、レートは基準にはなるが、鵜呑みにするのは命取りだ。


 そして一人の魔法師を取り囲んでいるブラッディウルフは、Bレートに定められている狼型の魔物だ。

 鋭い牙に強靭な顎、俊敏な脚力を持っている。獰猛な性格で血を好み、血の匂いがする場所に良く姿を現す。一度噛みついたら放さない根性もある。


 弱い個体だとCレート相当だが、中にはAレート相当の個体が存在することもある。

 だがBレート相当の個体が大半を占めるので、公的にはBレートに定められていた。


 また、個体としはBレートに定められているが、群れとしてのレートはAAレートに引き上げられている。個体としても厄介だが、群れになると各段に凶悪な存在に変貌する。


 群れで連携を組んで獲物を仕留める賢さがあり、群れを率いるボスの強さや賢さ次第で更に高いレートに引き上げられることがある。群れでこそ真価を発揮する魔物だ。

 非常に厄介で面倒な魔物故に魔法師からかなり嫌われている。


 ジルヴェスターは更に現場に近付くと、魔法師の顔を確認できた。


「あれは……レアルか?」


 襲われている魔法師の顔を確認したジルヴェスターは、見知った人物だったので少しだけ驚いた。


「こんな所で遭遇するとはな」


 ジルヴェスターはレアルが実戦を経験していると踏んでいた。なので、壁外を既に経験している可能性もあると考えていた。だが壁外は広大だ。こんなところで遭遇するとは中々の確率である。


 壁外で魔法師と出会うことはあるが、自分の友人とピンポイントで遭遇するのは中々あることではない。故にジルヴェスターは驚いた。


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