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第56話 守護神(五)

 ◇ ◇ ◇


 レイチェルはヴァルタンの本拠地に正面から堂々と踏み入る。

 先程、空間探知エア・マップで探知した情報を頼りに進んで行く。


(人の気配が感じられない)


 建物内の様子を窺う。


(やはり、いるのは一人だけのようね)


 空間探知エア・マップで探知して得た情報に誤りはないと確信する。

 戦場での経験が豊富な者には気配や雰囲気である程度感知できる。その点、レイチェルには確かな経験値があった。

 彼女の経験則に照らし合わせると確証はある。だが、絶対ではない。なので、レイチェルは注意深く辺りを警戒しながら歩を進めていく。


『――レイチェル様!』


 扉が開いている部屋に差し掛かり様子を窺おうとした時、裏口へ回ったアビーから念話テレパシーが飛んできた。


『どうしましたか?』

『標的と接敵します!』


 どうらや建物に唯一残っていた人物は裏口へ回っていたようだ。

 アビーが存在を察知しているのがその証拠である。


『逃げの一手ですか。判断が早いですね』


 標的が逃走を決断するのはレイチェルが思っていたよりも早かった。


『すぐに向かいます。深追いはせずに引き止めておいてください』

『了解です』


 アビーには時間稼ぎを命じる。そこで念話テレパシーが切れた。

 自分の身の安全を第一にする方針は揺るがない。しつこいようだが、レイチェルは深追いしないようにと再三伝える。


(少し肩に力が入りすぎているきらいがあるものね。何度注意してもしすぎということはないわ)


 アビーはレイチェルと行動を共にすることで肩に余計な力が入っていた。

 レイチェルにいいところを見せたいのか、尊敬する上級魔法師といることで緊張しているのかはわからないが、絶対に空回りしないという保証はない。

 何度も注意するに越したことはないだろう。


(少し急ぎましょうか)


 レイチェルは左手の中指に嵌めている汎用型の指輪型MACに魔力を送る。

 そして指輪型のMACが一瞬光ると、魔法が発動した。


 行使した魔法は身体強化フィジカル・ブーストだ。


 身体強化フィジカル・ブーストで向上した身体能力を駆使して裏口へと駆け出した。


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