◇ ◇ ◇
ランチェスター学園の西門では攻防が繰り広げられ、東門近くの建物ではジルヴェスターによる蹂躙が行われている頃、レイチェルも行動していた。
「やっと見つけましたね」
隣に控えるアビーが呟く。
二人は反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンの本部を遂に見つけた。
ここに至るまで数々の拠点を制圧し、団員を拘束、尋問を繰り返すことでここまで辿り着いていた。
そして二人は現在、ヴァルタンの本部を目視可能な距離にある建物の陰に隠れて様子を窺っている。
「ええ。中を探ります」
頷いたレイチェルは、
この
レイチェルが行使した魔法は――『
この魔法は風属性の第四位階魔法であり、風の動き、声、音を風の流れに乗せて自身に届かせることにより、地形や生物の有無を探ることができる探知魔法だ。行使し続ける限り魔力を消費する。
室外など風のある環境の方が能力を遺憾無く発揮できる魔法だが、室内でも問題なく使える。
室内でも人が動けば空気が動く。その動きまで察知することができるので、生物がいる時点で見抜ける。窓が開いていれば尚いい。
レイチェルは
彼女から凪ぐように風が出現すると、
(……一人?)
(いえ、本部に一人なわけ――)
ランチェスター学園に襲撃を仕掛けている状況なので人手が足りなくなるとはいえ、まさか本部に一人で待機しているわけがないと思ったレイチェルはより注意深く探ろうとしたが、想定外の事態が起こり瞬時に
「――気付かれました!」
「え!?」
「どうやら相手を侮っていたようです」
本部に座す相手はレイチェルが行使した魔法を察知したようだ。
レイチェルが瞬時に魔法を解除したのはいい判断であった。あのまま魔法を行使し続けていれば自分たちの存在を完全に感知されてしまっていた。
「レイチェル様の魔法を察知したということですか!?」
「ええ。情けないことですがそうなります」
アビーはレイチェルの魔法を察知した相手に驚愕した。
優れた魔法師が行使する魔法は察知するのが難しい。それだけ優れた技量を有しており、精密な操作も可能だからだ。――高レベルの魔法師の中には、精密という言葉など知らないとばかりに力押しで済ませてしまう者もいるが。
アビーにとってレイチェルは尊敬の念しか抱かない存在だ。それだけ上級魔法師という肩書は大きい。
そんなレイチェルの魔法を察知した相手には驚愕するしかなかった。
「想定していたよりも手練れかもしれません。気を引き締めましょう」
「はい」
二人は相手の実力に対しての認識を改める。
「幸い察知されただけで特定まではされていないはずです」
レイチェルの感触では察知されただけで、行使した魔法や術者の存在、場所までは認識されていないと感じた。
「ですが、警戒を強めてしまったでしょう。このまま様子を窺っていたら逃げられてしまうかもしれません」
不信感を与えてしまった場合、相手は警戒を強めて相応の反応を示すだろう。
逃走、臨戦態勢、先取先攻など、取る手段は状況によって様々だ。
しかし、
「そうですね。突入しますか?」
アビーの問いにレイチェルは一瞬考える。
「……そうしましょう。時間を掛けるほど相手が有利になります」
「わかりました」
「あの建物には裏口があるのを確認しました。アビーさんは裏手に回ってください。私は正面から行きます」
「了解です」
レイチェルは
アビーに裏手に回ってもらうことで挟撃し、逃走経路を潰す算段だ。
「くれぐれも深追いはしないようにしてくださいね」
レイチェルの言葉に頷いたアビーは建物の裏手へと駆け出した。