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第51話 迎撃(五)

 ◇ ◇ ◇


「――これ、私が来る必要あったか?」


 西門に到着したカオルが呟く。

 彼女が現場に到着した頃には既にほとんど片が付いていた。


「何事もなくてなりよりでしょ?」

「まあ、そうだが……」


 アリスターの言葉に不完全燃焼のカオルは複雑そうな表情を浮かべる。

 カオルの出番がなかったのはいいことだ。余力を残して解決できるのならばそれに越したことは無い。


 離れた場所でバーナードが最後の一人を殴り飛ばしていた。

 その様子を見届けたカオルが新たな指示を出す。


「全員拘束しろ!」


 侵入者をこのまま野放しにはしておけない。

 拘束して、然るべき処置を取るまでは油断禁物だ。


 風紀委員と統轄連が協力して侵入者の拘束に取り掛かる。


「――既に片が付いていたか」


 各々が侵入者の拘束に取り掛かっていると、声が聞こえてきた。


「ん? 戻ったか」


 声のした方に顔を向けたカオルとアリスターは、学園外で戦闘していた風紀委員が魔法師の一団を引き連れて戻ってきたのを確認する。


「そちらの方々は?」


 カオルは魔法師の一団に視線を向けて尋ねる。


「こちらの方々は――」

「――失礼。私はアウグスティンソン隊の隊長を務めているマイルズ・アウグスティンソンだ」


 案内を務めた風紀委員が紹介しようとしたが、マイルズが前に出て機先を制する。


「アウグスティンソン隊長でしたか」


 カオルはマイルズのことを知っていた。

 魔法師界ではマイルズの名は知られているし、カオルの実家であるキサラギ家は多くの門下生を抱えているので人脈も広い。故に情報が集まる。

 他の生徒が知らないこともカオルは知っている。


「私は当学園の風紀委員長を務めているカオル・キサラギです」

「風紀委員長はキサラギ家の御令嬢だったか」


 カオルが醸し出す堂に入った雰囲気の理由に納得したマイルズが呟く。

 彼女は一般の生徒よりも肝が据わっているように見受けられたので、普通の生徒ではないとマイルズは一目で判断していた。


「アウグスティンソン隊のみなさんが何故こちらに?」

「話すと長くなるが――」


 アウグスティンソン隊がランチェスター学園に訪れた理由を尋ねると、マイルズが経緯を説明する。


「――そうでしたか」


 説明を聞いたカオルは納得して頷く。


「拘束した者たちは我々が引き取っても構わないだろうか?」


 マイルズが一度拘束された者たちに視線を向けてから尋ねた。

 カオルは一瞬考え込んだ後、口を開く。


「……私としては構いませんが、一応生徒会長に確認を取ります」

「それがいいな」


 カオルの判断にマイルズはいい判断だと鷹揚おうように頷く。


 学園の治安維持は風紀委員会に一任されているが、あくまでも学園のトップは生徒会長だ。

 学園によって異なるが、自主性を重んじるランチェスター学園は生徒会長の権限が大きい。なので、生徒会長のクラウディアに確認を取るのは然るべき対応であった。

 生徒会長としては状況の把握を欠かせないので尚更だ。クラウディアを通じて学園長や教職員にも伝わることだろう。


 カオルはすぐさまクラウディアに念話テレパシーを飛ばす。

 待つこと一分弱。


「――生徒会長も構わないとのことです」


 確認を終えたカオルがクラウディアの了承を得たと伝える。


「そうか。それは助かる」

「いえ、こちらこそ助かります」


 カオルとしてもクラウディアとしてもマイルズの要請を断る理由はなかった。

 学園内に不穏分子を抱え込むリスクを背負うのは可能な限り遠慮したいところだ。むしろマイルズの要請は願ったり叶ったりである。


 生徒会も風紀委員会も学園の安全を守れればいい。

 その他のことは魔法師や政治家に任せるに限る。学生の出る幕ではない。


「まだ敵がいないとも限らない。うちの隊員を数人町に残す」


 西門から襲撃を仕掛けてきた者たちで全員とは限らない。

 今回の件はこれで解決とはまだ言えなかった。


「ありがとうございます」


 カオルは頭を下げて礼を告げる。

 魔法師が警戒にあたってくれるのは心強い。


 その後、風紀委員と統轄連の一部の者たちは、拘束した侵入者を連行するアウグスティンソン隊の後ろ姿を見送った。


「まだ、終わりじゃないぞ。各自配置に戻り周辺の警戒にあたれ!」


 一同は襲撃前に各自担当していた場所の警戒に戻る。

 まだ安心はできない。そのことを各々しっかりと理解しているので、カオルの指示を受けた後の行動はみな迅速だった。


「――バスカヴィル」


 カオルは行動に移ろうとしていたアリスターを呼び止める。


「なんだい?」


 呼び止められたアリスターが足を止めて振り向く。


「私は少し調べることがある。すまないが後は任せる」

「……構わないけど、その調べごとはなんなのかな?」


 カオルは調べごとに注力する為に、風紀委員の指揮を副委員長であるアリスターに委ねる判断を下した。


「……おかしいと思わないか?」


 神妙な面持ちのカオルは西門へ視線を向ける。


「ふむ。……なるほど。キサラギは内通者がいると踏んでいるんだね」

「ああ。そうだ」


 アリスターは何も説明されていないのにもかかわらず、カオルの意図を正確に理解した。


「まるで示し合わせたかのようなタイミングで門が開かれた」

「そうだね」

「そもそも外からは容易に門を開くことができないようになっている」


 学園の門は厳重だ。

 内からならば簡単に開くことはできるが、外からは限られた者にしか開くことができない仕様になっている。

 門が破壊されたわけでもない。にもかからず門が開かれたということは、誰かが内から門を開いたという事実に行き着く。


「内通者か……。全く頭が痛いね」


 アリスターが肩を竦めながら溜息を吐く。


「いずれにしろ放置はできん」

「わかったよ。こっちは任せて。君はその内通者を探すんだね」

「ああ」

「正直、そういうのは君より僕の方が適任だと思うんだけど」

「それは否定できん……」

「僕が適任というよりは、君には向いていないと言った方が的確かな」

「……どうせ私は腕っぷししか能がないさ」


 痛いところを突かれたというように、カオルは渋い顔になりながら頭を掻く。


「まあ、いいよ。君は今回不完全燃焼だっただろうし、少しはガス抜きしてもらわないとね」

「……お前はいったい私をなんだと思っているんだ?」


 アリスターの言い様に、カオルは心外だと言わんばかりにジト目を向ける。


「さあね。ご想像にお任せするよ」

「おい」


 アリスターがはぐらかすのでカオルが追及しようとしたが――


「じゃあ僕は行くけど、君はやりすぎないようにね」


 当のアリスターはそう言葉を残して去ってしまった。

 忠告まで残してだ。


「……」


 肩透かしを食らったカオルは、納得がいかないまま内通者の捜索に乗り出す羽目になった。


 この日の夜はまだ続きそうだ。


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