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第49話 迎撃(三)

 ◇ ◇ ◇


 西門の外で風紀委員の二人が戦闘していた頃、西門内では別の面々による戦闘が行われていた。


 リーダーと思われる人物を中心に纏まって行動している侵入者は、学園の治安を守る風紀委員と統轄連の生徒と相対している。


「――これ以上侵入させるな!」


 風紀委員の一人が叫ぶ。


 これ以上深く学園の敷地を踏ませるわけにはいかない。

 生徒を守るという意味でも、風紀委員としての矜持としても認められないことだ。


水瀑ハイドロ・ボム!」


 風紀委員の一人が魔法を放つ。

 放たれた魔法が敵の集団へ向かっていく。


 ――『水瀑ハイドロ・ボム』は水属性の第三位階魔法だ。この魔法は射出した水の塊を爆発させる攻撃魔法である。


「ちっ! 植物の壁プラント・ウォール!」


 敵の中にいる数少ない魔法師が、水瀑ハイドロ・ボムから集団を守るように魔法を行使する。

 水瀑ハイドロ・ボムの眼前に出現したのは植物の壁であった。


 ――『植物の壁プラント・ウォール』は木属性の第二位階魔法であり、任意の場所に植物の壁を生成する防御魔法だ。


 水瀑ハイドロ・ボム植物の壁プラント・ウォールに衝突する。

 その瞬間――水瀑ハイドロ・ボムが爆発した!

 周囲に衝撃が舞う。


 衝撃が収まると植物の壁プラント・ウォールには大した傷がなく、集団を守りきることに成功していた。


 植物の壁プラント・ウォールは第二位階魔法だが、水瀑ハイドロ・ボムは第三位階魔法だ。

 あまり魔法に詳しくない者なら第三位階魔法の方が強力だと思い、目の前の状況に驚愕するだろうが、必ずしも上位の位階の魔法が優位になるとは限らない。


 位階による序列は威力の強弱だけで決められているわけではない。

 もちろん位階が上の魔法の方が強力な傾向にあるが、位階は行使難度と魔力消費量、そして魔法としての強力さの三点によって定められている。

 故に、純粋な威力だけだと下位の位階の魔法が優位に立つこともある。術者の力量次第では打ち勝つことも可能だ。


 そして属性には相性が存在する。

 今回に限れば、水属性は木属性と相性が悪かった。植物に水を与えるとどうなるか、それは容易に想像できるだろう。植物に食料を与えているに等しい行為なのだから。

 なので、位階の差や術者の力量に隔絶した差がない限りは、相性により優位に立つことが可能なのだ。


 第二位階魔法の植物の壁プラント・ウォールで、第三位階魔法の水瀑ハイドロ・ボムを受けきれた理由はこれに起因する。


雷撃サンダー・ヴォルト!」


 水瀑ハイドロ・ボムによる衝撃が収まった瞬間に、敵の中にいる別の魔法師が魔法を行使した。


 ――『雷撃サンダー・ヴォルト』は雷属性の第一位階魔法だ。効力はその名の通り雷撃を放つ攻撃魔法である。


 雷撃サンダー・ヴォルト水瀑ハイドロ・ボムを放った風紀委員へ一直線に向かっていくと――


「ぐあぁっ」


 狙いたがわず直撃する!


 直撃した風紀委員は痛みに膝をつく。


 そんな仲間の姿に見向きもせずに、他の風紀委員は各自敵と対峙していた。


小治癒エイド


 女性の風紀委員が膝をついた仲間へ駆け寄り、魔法を行使する。

 すると、焼けた肌がみるみると治っていく。


 ――『小治癒エイド』は聖属性の第一位階魔法であり、対象者一人の傷を癒す治癒魔法だ。


 本来対象に近づいて行使する必要はない。

 利点があるとすれば、近づいたことにより魔力の消費量を抑えられ、遠くから対象を指定する手間を省くことができることだ。


「すまん」


 傷が癒えると、立ち上がりながら礼を告げる。


「さあ、戦闘続行よ」

「ああ!」


 そして二人とも戦線に復帰する。


 見回りに出ていた風紀委員たちと、寮の警備をしていた統轄連の数人が駆けつけて続々戦線に合流し、乱戦を繰り広げていく。


 風紀委員は実力者揃いだが、その中でも特に精鋭に分類される者が存在する。

 魔法や剣戟などが舞う戦場において、特に大立ち回りをしている数人の姿がある。その姿を確認すると、風紀委員の中でも精鋭に分類される者たちであった。


「――煉獄の雨ヴォルケーノ


 風紀委員の集団の中心に陣取り、全体の指揮を執りながら魔法を放つ男子生徒がいた。


 放たれた魔法――『煉獄の雨ヴォルケーノ』は、火属性の第五位階魔法であり、炎弾を雨の如く放つ攻撃魔法だ。


 その煉獄の雨ヴォルケーノは味方を巻き込まないように敵の後方目掛けて放たれている。


「ぐぁあああ!」


 これには敵の中にいる数少ない魔法師も対応し切れず、煉獄の雨ヴォルケーノもろに食らってしまう。

 炎の雨は多くの敵を巻き込んで戦況を一変させた。


 学生でありながら第五位階魔法である煉獄の雨ヴォルケーノを苦も無く行使した生徒は非常に優秀だ。


「副委員長! 相手の被害は甚大です!」


 そばにいた風紀委員が煉獄の雨ヴォルケーノを行使した生徒――風紀委員会の副委員長に戦況を報告する。


「このまま一気に押し潰せ!」

「アリスター、俺も行くぜ」

「待たせてすまないね」

「構わんさ」


 副委員長の隣で待機していた褐色肌の男子生徒が前に進み出た。


 アリスターと呼ばれた副委員長――アリスター・バスカヴィルは、白い肌に茶色の髪と瞳を備え、平均的な体格をしている三年生だ。

 白のワイシャツの上に黒いジャケットを羽織り、黒のスラックスをきっちりと着こなしている姿からは真面目な印象が滲み出ている。

 風紀委員会の副委員長なだけあり、魔法師として優れた実力を有している精鋭の一人だ。


「バーナード、好きに暴れていいよ」

はなからそのつもりだ」


 前に進み出た褐色肌の男子生徒――バーナード・ブラッドフォードは、常緑樹じょうりょくじゅの葉のような茶みを含んだ濃い緑色の髪をポンパドールにしており、髪と同じ色の瞳が存在感を強調している。

 白のワイシャツの上に緑色のジャケットを羽織り、紺色のスラックスを履き、制服の着こなしは全体的に少し気崩している。

 彼も風紀委員の精鋭の一人に数えられる三年生だ。


「既に前線ではローゼンタールが蹂躙しているからな。俺もいっちょ暴れてくる」


 バーナードはそう言葉を残すと、前線へ駆け出す。


「やれやれ、血の気の多い奴らだよ」


 アリスターは呆れを含んだ溜息を吐いて肩を竦めた。


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