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第48話 迎撃(二)

「よう。無事か?」


 敵が眠りについたのを確認した乱入者が、風紀委員の二人に声を掛ける。


「ああ」

「なんとか無事っす」


 二人は無事を伝えると、乱入者のもとへ駆け寄った。


「運良く全員眠ってくれたな」

「本当にな。非魔法師は魔法に対する抵抗力が低いから勝算はあったが、魔法師まで一発で眠りに落ちるとはツイてるわ」


 先輩が敵に視線を向けながら茶化すように声を掛ける。

 その言葉に乱入者が肩を竦めて苦笑すると、先輩と後輩は小さく笑みを浮かべた。


 乱入者が行使した魔法――『睡眠スリープ』は、呪属性の第三位階魔法であり、対象を低確率で眠らせる妨害魔法だ。込める魔力量や術者の技量次第で眠らせる確率が多少は変化するが、運任せの要素が強い。また、理性のない者、知能が低い者、魔法抵抗力が低い非魔法師など相手だと格段に確率が上昇する。


 敵の中にいた二人の魔法師の内、一人は後輩が倒しており、残りの一人さえ沈めてしまえば後に残るのは非魔法師だけであった。


 睡眠スリープは非魔法師には効きやすいので勝算はあったが、魔法師に対しては賭けに近かった。だが、その賭けに勝って一発で眠りに落ちてくれたのは本当に運が良かったと言える。


「助かりました」

「おう」


 後輩が感謝を告げると、乱入者は右手を上げて応える。


 その腕には風紀委員の証である腕章があった。彼は風紀委員として援軍に駆け付けていたのだ。


「学園内に入っていった連中はどうなった?」


 一難去り空気が緩んだところをすぐに気持ちを切り替えて先輩が尋ねる。


「相棒が交戦中だ。俺たちはたまたま近くにいたから先行して駆けつけられた」


 風紀委員は今回の件では二人一組で行動していた。

 彼がここに一人で来たということは、相方が別行動しているのは明白だ。


「えっ! 一人でですか!? すぐに合流しましょう!」


 一人で侵入者の相手をしている姿を想像した後輩が慌てて合流を促す。


「いや、あっちは問題ない。俺たちの次に近場にいた奴らが既に合流しているからな」

「だそうだ」


 先輩が後輩の肩に手を置いて落ち着かせる。


「それにそろそろ他の連中も合流する頃合いだ。姐御あねごも動いたことだしな」

「委員長がですか……。それは少し侵入者に同情します……」


 後輩は安堵して溜息を吐くが、複雑そうな表情を浮かべる。


「委員長のことだから活き活きとして締め上げていそうです」

「ははっ。そうだな」


 後輩は活き活きと戦闘している委員長――カオルの姿を想像して身震いした。


「――それより、こいつらを拘束しちまおう」

「そうだな」


 いつまでもこの場で呑気に会話をしているわけにはいかない。

 目の前の拘束している連中の対処が必要だ。


「魔法を解除する」


 今のままでは砂地獄の拘束サンド・ヘル・リストレイントの影響で近づくことすらできない。

 なので、先輩は魔法を解除しようとしたが――


「――それは我々が引き受けよう」

「――!?」


 突如声を掛けられた。


 三人は突然のことに驚いたが、瞬時に臨戦態勢に移行する。


「驚かせてすまない。我々はアウグスティンソン隊だ。敵ではない」


 驚かせたことを詫びながら三人の前に姿を現したのは、隊員を引き連れたアウグスティンソン隊の隊長であるマイルズであった。


「アウグスティンソン隊?」


 アウグスティンソン隊は有名なので、風紀委員の三人はその存在を知っていた。


 だが、この場にアウグスティンソン隊がいることに疑問を抱いた後輩が首を傾げる。そして、その言葉と共に三人は臨戦態勢を解いた。


 後輩は今回の件が魔法師、ひいては魔法協会にまで伝わっていたのかと思ったが、それは違うだろうと内心で否定する。


 ヴァルタンは反社会的組織ながら今まで存続し続けてきた。外部に計画を漏らしてしまうような甘い情報統制を敷いてはいないだろう。そのようなお粗末な内情ならここまで幅を利かせる組織になどなってはいない。


「アウグスティンソン隊のみなさんが何故こちらに?」


 同じ疑問を抱いていた先輩が代表して尋ねる。


「我々も連日の事件についてちょうど調査をしていてな」


 マイルズが説明を始める。

 アウグスティンソン隊の隊員は周囲の警戒を行っている。


「その際にたまたま同じ件で動いていた同業者に遭遇して協力体制を敷くことになり、今回の件もその協力者からもたらされた情報で、我々が駆けつけた次第だ」

「そうでしたか」


 マイルズの説明に納得する三人。


「その協力者とは?」

「上級魔法師だ」

「「「――!!」」」


 アウグスティンソン隊に情報提供した協力者の存在が気になった先輩が尋ねると、予想だにしない単語が返ってきた。三人は驚愕して目を見開いている。


「あの御方も上司の命で動いていたようだ。我々もその上司が誰なのかは知らぬがな」

「そうですか……」


 上級魔法師が上司の命で行動しているということは、その上司は相当な人物だと容易に推測できる。

 もちろん同じ上級魔法師が隊長を務める隊の隊員という線もあるが、もっと上の地位にいる人物という可能性も大いにある。その場合、学生の身である彼らが安易に踏み込んでいい領域の話ではなくなる。無暗に踏み込むべきではないだろう。中級一等魔法師であるマイルズですら知らないのだから尚更だ。


「――さて、話を戻すが、この者らは我々が連行しても構わないか?」

「ええ、大丈夫です。むしろ助かります」

「それは良かった。では魔法を解除してくれると助かる」

「わかりました」


 マイルズの提案を断る理由などない。

 三人が連行するのには負担が掛かる。十五人もの人間を三人だけで連行するのは一苦労だし、そもそも反社会的組織の人間を学園内に連れて行くのはリスクが伴う。なので、マイルズの提案は渡りに船であった。


 先輩が砂地獄の拘束サンド・ヘル・リストレイントを解除すると、マイルズは隊員に指示を出して拘束させる。


「連中の仲間がまだ中にいるのだろう?」


 マイルズは学園の方に視線を向けて尋ねる。


「はい。今から戻って加勢するつもりです」

「そうか。では我々も加勢しよう」

「助かります」


 風紀委員の三人は誠意を込めて感謝を伝える。

 アウグスティンソン隊の協力を得られるのならば百人力だ。一線で活躍する魔法師隊の加勢があれば憂いは無くなる。


「では案内します」


 援軍として後から駆け付けた方の先輩が案内を買って出る。


「ありがとう。グレッグ、ここは任せる」

「おうよ」


 マイルズはこの場の指揮をグレッグに一任すると、三人の案内のもと数人の隊員を伴って学園内へと入って行った。


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