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第44話 襲撃(三)

 ◇ ◇ ◇


(ここも外れね……)


 レイチェルは反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンの重要拠点と思われる場所を数ヶ所回っていたが、未だにヴァルタンの首魁であるヴォイチェフの姿と、ナンバーツーであるエックスの存在を確認できていなかった。


「時間切れね……」


 ヴァルタンの拠点を潰し終わって外に出たところでレイチェルが呟く。

 空は日が沈み始めていた。


「――ランチェスター学園に向かいましょう」

「はい!」


 レイチェルがそばにいた女性――アビーに声を掛けると、覇気が籠った綺麗な敬礼が返ってきた。


「――レイチェル殿」


 レイチェルが拠点を後にしようとしたところで、彼女に声を掛ける者がいた。


「マイルズ殿」


 声の主はアウグスティンソン隊の隊長であるマイルズであった。

 レイチェルは人手不足をアウグスティンソン隊の協力により補っていた。なので、現在も行動を共にしている。


「ランチェスター学園には我々が向かいましょう。レイチェル殿は引き続き捜索を行ってください」


 マイルズの提案はアウグスティンソン隊がランチェスター学園の防衛に駆け付け、レイチェルはヴァルタンの拠点の捜索を継続することだった。


 アウグスティンソン隊にはヴァルタンの目的を伝えてある。

 マイルズを始め、隊員たちはヴァルタンの計画に憤りを感じていた。魔法師として魔法師の卵が狙われるのは到底看過できることではないので当然の感情だろう。


(確かにアウグスティンソン隊が向かうのならば戦力的には申し分ないわね)


 アウグスティンソン隊には上級以上の魔法師はいないが、実力と実績は確かなものがある。

 今回は反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンが相手なので、アウグスティンソン隊でも過剰と言える戦力だ。

 ヴァルタンには非魔法師と反魔法思想に堕落する程度の実力しか持たない魔法師しかいない。レイチェルでは過剰すぎるくらいだ。


 もちろんレイチェルが向かえば戦力としては申し分ないどころか、最高の援軍になる。

 だが、ランチェスター学園が襲われる前に首魁を捕らえることが最も理想な結果だ。

 その為には、一番の実力者で、一人故に身軽なレイチェルが捜索を継続した方がいいだろう。


 逆に大勢の生徒たちを守る為には、アウグスティンソン隊の方が人数を分散できるので効率がいい。


 二方面に分かれるのは理に適っていた。


「わかりました。では、そうしましょうか」

「アビーを付けるので好きに使ってください」

「ありがとうございます」


 レイチェルがマイルズに了承の意を伝えると、厚意でアビーをサポートに付けてくれた。


 当のアビーはその申し出に驚いてビクッと身体を震わせたが、レイチェルに「頼りにさせてもらいますね」と声を掛けられ、すぐに気を引き締めた。


 アビーからは隠し切れない喜びが見て取れる。レイチェルと共に行動できるのが嬉しくて堪らないのだろう。


(万が一があってもジルがいる限り心配無用ね)


 ランチェスター学園にはジルヴェスターがいるので、万が一のことがあっても対応できると絶大な信頼を寄せるレイチェルに不安は一切なかった。


「――では、我々はランチェスター学園に向かいます」


 そう言葉を残してマイルズは隊員を引き連れて駆けて行く。

 その姿を見送ったレイチェルはアビーに声を掛ける。


「私たちも行きましょうか」

「はい!」


 緊張を内包しながら返事をするアビーを伴い、レイチェルもその場を後にした。


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