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第36話 クラブ

 ◇ ◇ ◇


 一月二十三日――ジルヴェスター、ステラ、オリヴィア、アレックスの四人は、放課後になると連れたってクラブ見学に訪れていた。


 国立魔法教育高等学校の各校には課外活動の一環としてクラブ活動があり、各校クラブの種類に違いはあれど、盛んに取り組まれている。

 大別して運動系のクラブと文化系のクラブがあり、各生徒は自分に合ったクラブで日々活動している。


 現在ジルヴェスター一行は実技棟にある一際広い訓練室に赴いていた。

 訓練室にある二階の観覧席から眼下に視線を向けて、クラブ活動に汗を流している者たちの姿を見学している。


 一同が見学しているクラブは魔法実技クラブだ。

 魔法実技クラブは名前の通り魔法の実技に特化しているクラブである。


「我がクラブでは授業とは別に、仲間たちと共に切磋琢磨しながら魔法の訓練に励むことができる」


 ジルヴェスターたちと同じように見学に訪れている一年生に対し、魔法実技クラブの解説を務めている男子生徒の先輩がいた。どうやらこの先輩が新入生に魔法実技クラブの説明を行う役割を担っているようだ。


「この学園で最も部員の多いクラブでもある」


 魔法実技クラブはどの学園でも人気のあるクラブだ。

 例外は魔法工学に力を入れているキュース魔法工学院くらいだろう。


「自主練に励むのもいいが、仲間たちと共に訓練に励むことで、互いに競い合うことができるのは魅力的だぞ。互いに教え合ったりすることもできるからな」


 国立魔法教育高等学校である以上、各自自主練習に励むのは日常だ。魔法工学技師を目指す生徒でも最低限は訓練に励むものである。


 一人で黙々と訓練に励むのは集中できてはかどるかもしれないが、仲間たちと共に汗を流すのもまた違った利点がある。

 共に競い合って切磋琢磨する仲間が入れば互いに刺激し合って訓練に励むことができるし、先輩に指導してもらったり、友人にアドバイスをもらったりもできる。もちろん顧問教師の指導を受けることも可能だ。


「何よりの魅力は対抗戦の選手選考に有利に働くことだ」


 対抗戦の選手選考をする上でクラブ活動の実績も参考にする。特に運動系のクラブの生徒は選考されやすくなる傾向がある。対抗戦は魔法を競う大会なので、当然戦闘面や魔法面の実力を重視するからだ。


 魔法師を目指す生徒にとって対抗戦は誰もが憧れる舞台だ。

 その為、魔法実技クラブを筆頭に、運動系のクラブに籍を置く生徒が多くなるのは自然な流れであった。


 対抗戦の件は抜きにしても魔法師を志す以上、魔法実技クラブは魅力的に映ることだろう。


 眼下を見つめるジルヴェスターは、一際大きな存在感を放つ一人の生徒に注目していた。

 彼の視線の先にいるのは、部員たちのことを鋭い視線で見守る大柄な生徒だ。


「いや~、相変わらずオスヴァルドさんは迫力あるなぁ~」

「アレックスはあの人のことを知っているのか? 俺は入学式の答辞の打合せで学園に来た際に何度か見掛けたくらいなんだが……」


 ジルヴェスターが率直に尋ねる。


「ああ。あの人はオスヴァルド・ヴェスターゴーアさんだ。家同士の繋がりで何度か合ったことがある」


 オスヴァルド・ヴェスターゴーアは一際高い身長に分厚い胸板をしており、褐色肌で灰色の髪をバーバースタイルにし、茶色の瞳を宿している。

 威厳の感じる顔つきと醸し出す雰囲気が実年齢より幾分高く見え、頼もしさを周囲に与えていた。


(ヴェスターゴーアか、なるほど)


 名前を聞いたジルヴェスターは納得した。

 ヴェスターゴーア家は魔法師界の名門だ。ジェニングス家やエアハート家と対を為す超名門の家系である。


 ヴェスターゴーア家ほどではないにしても、名門の一族であるアレックスと面識があっても不思議ではない。家同士の繋がりはもちろん、社交の場などで顔を合わせることもあるだろう。


「わたしも見掛けたことあるかも」


 ステラもオスヴァルドのことを見掛けたことがあるらしい。


 彼女の実家は国有数の実業家で資産家だ。魔法関連の品を取り扱っている企業を経営している。

 魔法師の家系と繋りがあるのも自然なことだ。それこそアレックスと同じように社交の場で見掛けたことがあってもなんら不思議ではない。


 オリヴィアがオスヴァルドのことを知らないのは、彼女はあくまでもメルヒオット家に仕える一族の娘だからだ。使用人がパーティーに出席することも、おおやけの場に出ることもないので知らなくても無理はない。――もしかしたら彼女の両親や兄は面識があるかもしれないが。


「オスヴァルドさんはクラブ活動統轄連合の総長を務めているんだ」


 クラブ活動統轄連合――通称・統轄連――は生徒会、風紀委員、監査局と並んで学園の自治を司る四組織の内の一つだ。総長は統轄連のトップに君臨する地位である。


 統轄連は組織のトップである総長を筆頭に各クラブを管理するのが主な職務だ。また、学園の治安を守る役目もあり、風紀委員から助力を頼まれることもある。


「あの人は相当できるな」

「お、良くわかったな。オスヴァルドさんは実戦経験が豊富なんだ。実力も申し分ないぞ」


 オスヴァルドから醸し出される雰囲気が只者ではないと感じたジルヴェスターに、アレックスが相槌を打って解説する。


「実戦経験というと、壁外での経験ということかしら?」

「ああ。それで合ってる」


 確認するように尋ねたオリヴィアの質問に、アレックスはすかさず首肯する。


「実力は一線級の魔法師と比べても遜色ないはずだ」

「そうだな。低く見積もっても上級魔法師相当の実力は持ち合わせていると思う」


 後輩に指導する為に魔法を実演して見せるオスヴァルドの姿を見て、ジルヴェスターは彼の実力を推し量る。


「魔法の発動速度、精密さ、発動に込める魔力量の配分、発動した魔法の効力、どれを取っても一流だ。おそらく術式の理解も深いんだろう」

「今の一瞬でそこまでわかるのか?」

「ああ。こういうのは得意なんだ」

「それはお前の方が凄いと思うんだが……」


 オスヴァルドが実演した際に魔法行使の技量を観察したジルヴェスターが解説すると、アレックスが呆気にとられたような表情を浮かべた。


 ジルヴェスターはなんでもないことのように言っているが、彼がやっていることは異常だ。

 時間や観察回数を重ねれば他の人にも技量を見抜くことは可能だ。しかし、たった一度見ただけでジルヴェスターのように推し量ることは不可能に近い。


「ジルだからね」

「そうね。ジルくんだから気にしても仕方ないわよ」


 ステラが薄い胸を張って自分のことのように誇らしそうにしているのに対し、オリヴィアは苦笑しながら肩を竦めた。


「その言い方はまるで俺が人外か何かみたいじゃないか……」


 ジルヴェスターは女性陣二人の言い草に、苦い表情と困った表情を混ぜ合わせたような複雑な顔になった。


「ははっ。確かに俺からしたらお前は充分人外かもな」

「……」


 笑い声を上げながらジルヴェスターの肩に手を置くアレックス。

 ジルヴェスターは返す言葉が見つからず、無言で肩を竦める。


 そんな二人のやり取りを見ていたステラとオリヴィアは、楽しげに笑みを浮かべるのであった。


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