◇ ◇ ◇
アウグスティンソン隊が反魔法主義者を確保した日の夜。
日が暮れているにも
「また魔法師の野郎が邪魔をしやがった!」
必要最低限の調度品のみが置かれている簡素な部屋でデスクに向き合っている大柄な男が、力強く握りしめた拳を机に振り下ろす姿は、まるで鬼が暴れているかのような錯覚を起こさせる。
「俺の可愛い部下たちを連れ去りやがって、絶対に許さん!!」
怒り狂っていたかと思えば、今度は突然
情緒の変化が激しい姿は恐怖すら覚える。
「ヴォイチェフ、気持ちはわかるが少し落ち着け。お前が取り乱すとみなが不安になる」
「……そうだな。すまん」
部屋の中にいる細身の男性が大男を宥めると、彼は少し冷静になった。
大柄な男と一緒にいる所為で一見細身に見えるが、この男も良く鍛えられた肉体をしている。
「だが、魔法師の野郎どもには痛い目に遭ってもらわんと気が済まん」
冷静になったとはいえ怒り冷めやらぬ大男は、今にも爆発しそうな感情を必死に抑えているようだ。
「そうだな。では、魔法師が最も嫌がることをしてやろうではないか」
「最も嫌がることだと?」
細身の男が口元を歪ませながら告げると、大男は眉を顰めて疑問を浮かべる。
「ああ。魔法師は後進の育成に力を入れている。だったら、一生懸命育てている
魔法技能師は過酷な仕事だ。
特に壁外遠征は体力的にも精神的にも多大な負担が掛かる。命の保証もない。
優秀な魔法技能師の数が減ることは多々あれど、増えることは中々ないのが現実だ。
育成の末に初級魔法師や下級魔法師の絶対数を増やすことはできても、中級以上の魔法師を生み出す為には相応の時間と労力が必要になる。莫大な資金の投資も必要になる。
特に上級魔法師が誕生すれば、それは国の財産になる。安易に失うことは避けたいことだ。新たに上級魔法師が誕生する保証などないのだから。
未来を担う魔法技能師の卵を潰されるのは、魔法師界にとって最も避けたいことなのは的を射ている事実だ。
「なるほど。確かにそうだな」
細身の男の提案に納得した大男は暫し考え込む。
「なら魔法師の学校を襲撃するのがいいよな?」
「ああ。そうだな」
「よし、その案を採用しよう」
細身の男の提案に魅力を感じた大男は決断する。
そして細身の男に知恵を借りながら計画を練っていく。
「だが、魔法師の学校は十二校もある。どこを襲撃する?」
「ふむ……。最も困難だが大打撃を与えるのと、比較的容易だが与える損害も小規模になるものならどちらがいい?」
「前者だ!」
細身の男の質問に大男は一瞬の迷いもなく即断する。
どうやら大男は細身の男のことを信頼しているようだ。信頼しているからこそリスクの高いことでも即断即決できるのだろう。
「そうか。なら――」
大男の決断を受けて、細身の男は自身の考えを述べていくのであった。