◇ ◇ ◇
大通りから逸れた
「――ビル! 応援を要請したわ!」
「おう!」
アビーは応援の要請が済んだことを前線で相手の魔法を防いでいるビルに伝えると、彼は背を向けたまま返事をした。
アビーはショートパンツを穿き、左脚の太股に地肌の上から中級三等魔法師を示す脚章を身に付けており、ビルは左胸に中級五等魔法師を示す胸章を身に付けている。
「市民の保護が最優先よ」
「わかってる!」
「でも、一人くらいは確保しましょう」
「そうだな」
二人の前には四人の魔法師の他に、数人の反魔法主義者の姿がある。
情報を得る為には全員尋問した方がより多くの情報を得られ確実性が増す。だが、現状それは厳しい。それでも二人にとってはせめて一人は確保したいというのが本音だった。
故に、二人は市民を守る最重要な役目を全うしつつ、最低限の成果を挙げる方針を定めた。
「
ビルは後方で柱に身を隠しながら魔法を行使している一人の魔法師に向けて魔法を放つ。
――『
対象の足元から炎の柱が飛び出す攻撃魔法であり、攻撃性能だけではなく、足元のバランスを崩すことができる妨害性能も備わっている。
ビルは左手首に装着している
「ぐわぁ!!」
優れた魔法師にとって遮蔽物は意味を為さない。発生地点を正確に指定できれば、遮蔽物があろうと、離れた場所であろうと精密に魔法を発動できる。
魔法を食らった魔法師が膝をつく。
後方にいる味方が魔法を食らったことで、前線にいる者の意識が後方に逸れた。
その隙をビルは見逃さない。
彼は瞬時に『
――『
敵中に突撃したビルは手前にいる魔法師に向けて魔法を放つ。
「食らえっ!
――『
「甘い!」
相手は
しかし牽制することには成功した。その隙に近くにいた非魔法師の男に接近して鳩尾に拳を振るう。
「くそっ!」
非魔法師の男は咄嗟に防御の構えを取ったが、
ビルが敵中に飛び込んだことで、意識が傾き背を向ける形になった前線にいる若い魔法師の男の背後から、アビーが魔法を放つ。
「
――『
感電しても元々魔力量が多ければ力業で無理やり魔法を行使することができ、魔力の扱いに長けている者も魔法を行使できる可能性がある。――思ったような威力を出せるかは別問題だが。
ビルが敵中にいる現状で高威力の魔法は行使できない。彼を巻き込んでしまう可能性があるからだ。工場内という限られた空間というのも影響が大きい。
高威力、広範囲に影響を及ぼす魔法を行使できない以上、対象を妨害する効果を持つ魔法を放つのは最善の選択だろう。
アビーの役目は保護している市民を守ることが最優先事項だが、ビルを援護することはできる。
右手の中指に嵌めている指輪型MACを用いて魔法を行使しているようだ。
「ぐっ! しまった!」
「
ビルは非魔法師を背後に庇っている四人の魔法師の中で、唯一の女性に魔法を放ったが――
「させんっ!」
残りの魔法師の中で最も体格のいい魔法師が射線上に割って入り魔法を行使する。
「
――『
ビルが放った
――『
工場内という限られた空間での戦闘でも被害を抑えられて使い勝手のいい魔法だ。
「チッ」
ちなみに、彼が
ビルが舌打ちをしたのとほぼ同じタイミングで、体格の優れた魔法師が
素の身体能力での飛び出しなので、ビルにとって対応するのは容易だ。
「
だが、背後からビル目掛けて魔法が飛んでくる。
どうやら
――『
ビルは背後から魔法が向かってきているのにも構わず、正面から突撃してくる魔法師に相対するように駆け出した。