◇ ◇ ◇
企業や店舗が数多く軒を連ね、商業の中心地であることが良くわかるオフィス街に、複数の魔法師の姿があった。
場所はネーフィス区で最も大きな町であり、区内の行政の中心でもあるリンドレイクだ。区長が勤める庁舎もある。
「隊長、これからどうします?」
周囲の建物の中でも一際大きく、経営が好調だとわかるワナメイカー・テクノロジーの本社にいる魔法師の集団の中にいる一人の男性が、自身の上司である隊長に今後の方針を尋ねる。
「まずは二人一組になって周辺を調査する」
白い肌に清潔感のある茶色のミディアムヘアの隊長は、茶色い瞳を備えた目で十五人いる隊員一同を見渡して方針を述べる。
「二コラは私と本社に待機だ」
隊長は白い肌をしていて、
「了解です」
「では、アウグスティンソン隊、各自行動開始」
隊長のその言葉を合図に、十一人の隊員が二人一組になって四方に分散して行った。
この場に残ったのは隊長と二コラの二人だけだ。
「隊長」
「なんだ?」
「ここ最近の事件はやっぱり反魔法主義者が関わっているんですかね?」
「わからん。だが、それを確かめる為にこの任務に取り掛かっている」
連日世間を賑わせている事件には共通項がある。
それは被害にあった
ワナメイカー・テクノロジーの施設が襲撃されたように、魔法関連の施設が度々被害を受けている。施設だけではなく、魔法師――魔法的資質を有する者――が襲われる事件まで相次いでいた。
しかも
その上、魔法に関わっている非魔法師まで被害に遭っている。ワナメイカー・テクノロジーに勤めている者などだ。おそらく、非魔法師でも魔法に少しでも関わっていると悪と見なされるのだろう。
このような魔法に対して見せる徹底した姿勢が、反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンの仕業によるものではないかと目されている理由だ。
「襲撃者がなんであろうと、我々魔法師としては決して看過できないことだ」
「そうですね」
魔法師として反魔法主義者による行動を見過ごすわけにはいかない。
反魔法主義者による行動を許せば、魔法師の地位や立場を脅かされることになる。
何より、魔法師がいるからこそ人類もこの国――壁内――で安穏と暮らせていけているのだ。
もちろん非魔法師の存在も欠かせない。魔法師と非魔法師の共存があってこそ、この国は成り立っている。
魔法師の存在がなくては壁外に蔓延る魔物の脅威に対応できず、滅亡する未来を待つことしかできない。だが、魔法師――魔法師ライセンス所有者――以外の大半の人間は、壁内から出たことがないので壁外の脅威を知らない。
無知故に壁外のことを甘く考えてしまい、魔法師との違いや差に劣等感や妬み嫉みといった負の感情が生まれてしまう。
そういった擦れ違いの結果、国が亡びるなど目も当てられない。
「少しでも尻尾を掴めるといいのだが……」
隊長が希望に縋るような口調で呟く。
アウグスティンソン隊の隊長を務めるマイルズ・アウグスティンソンは、連日の事件を重く捉え、解決の一助となる為に自分の隊を率いてワナメイカー・テクノロジー本社へと赴いていた。
マイルズの左腕には中級一等魔法師の地位を示す腕章がある。
魔法師として活動する際は、階級を示す記章を身に付ける必要がある。タイプは様々あり、マイルズは左腕に腕章を身に付けているようだ。
中級一等魔法師ということは一線で活躍できる優秀な魔法師だ。事実、彼は魔法協会や隊員から厚い信頼を寄せられている。
そして共に待機している二コラはアウグスティンソン隊で最も若い十九歳で、一番の後輩だ。階級も隊の中で最も低い。マイルズと同じで左腕に記章を付けており、それを確認すると下級五等魔法師だった。
マイルズは隊を分ける時はなるべく二コラを自分と行動させるようにしている。
彼女は魔法師としてまだ経験が浅く、実力的にも未熟な部分がある。なので、可能な限り隊長である自分がいつでもフォローできるように共に行動させているのだ。直々に指導する意味合いもある。
二コラはそのことを理解しているので、待機を命じられても不満なく受け入れている。
マイルズは若い魔法師の育成に定評があり、魔法協会も評価している点だ。故に魔法協会も安心して若い魔法師のことを託しており、アウグスティンソン隊への入隊を希望する声も多い。
アウグスティンソン隊で経験を積み、後に自分の隊を設立する者も多く存在する。
「みなさんの報告を待ちましょう」
「そうだな。君もいつでも動けるよう準備は怠らないように」
「はい。わかりました」
マイルズは少しだけ緩んだ空気を引き締めた。