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第15話 選択科目(二)

 四人で話していると予鈴が鳴り、教壇横の扉が開いて一人の女性が入室してくる。

 その女性が教壇へ向けて歩を進め中央にある教壇に立つと、階段状になっている席へと向き直った。一度各席を見渡してから女性は口を開く。


「私はメルツェーデス・バウムガルトリンガーだ」


 そう自己紹介する女性は凛々しい佇まいをしている。

 白い肌をしており、鉛白えんぱく色のハンサムショートヘアと、空色の瞳が凛々しさを際立たせている。


 女性としては高めの身長でスタイル抜群だ。パンツスーツを違和感なく着こなしている姿は、如何いかにも女性から人気がありそうな、かっこいい大人の女性といった風貌をしている。


「一応、上級三等魔法師だ。これから一年間担任として諸君を指導することになるが、よろしく頼む」


 上級三等魔法師といえば、特級魔法師と準特級魔法師を除けば上から三番目の階級であり、魔法師の中でも精鋭中の精鋭であるエリートの証だ。


(上級魔法師の教師とは珍しいな)


 ジルヴェスターはメルツェーデスへ視線を向けて意外感を表す。


 中級以上の階級は上へ行けば行くほど人数が少なくなる。

 初級魔法師は所謂見習いのような立場なので、余程実力のない者でない限りは、ある程度魔法師として活動していればそのうち下級へと昇級できる。

 下級魔法師になって初めて一人前と見なされ、下級が最も人数の多い階級だ。

 中級魔法師は前線で活躍できる一線級の魔法師であり、人数の絶対数はここから減っていく。


 上級魔法師ともなれば最精鋭なので、教師にしておくのはもったいない人材だ。なので、上級魔法師の教師は珍しい。

 そもそも上級魔法師で教師になろうとする者自体が珍しいだろう。教師は比較的高収入の部類に入るが、上級魔法師は教師として働くよりも魔法師として活動した方が余程稼げる。


 国としてもできれば上級魔法師には教師ではなく魔法師として活動してほしいだろう。可能ならば積極的に壁外へ赴いてほしいはずだ。

 だが、未来の魔法師を育てるのも国としては重要な課題である。その点、上級魔法師でも教師として優秀な者ならば後進の育成に携わってもらいたいという思惑もあるので、上級魔法師の教員も一定数はいる。とはいえ絶対数は圧倒的に少ない。


「今日は諸君へ各種簡単なガイダンスを行う。しっかりと聞いておくように」


 メルツェーデスはそう言うと、一度生徒一同を見渡してから続きの台詞を告げる。


「我が校の授業科目は、一般教養以外は各自自由に選択できる」


 言語学、算術、歴史など一般教科はクラス毎に全生徒共通で行われる。一般教科以外は履修内容を各自自由に選択できる仕組みだ。自由な校風であるランチェスター学園だからこそのシステムだと言えるだろう。


「自分が学びたいことを積極的に学ぶのか、苦手な分野を克服する為に学ぶのか、自分の考えでしっかりと選択するように。決して友達と一緒がいいからなどというくだらない理由で選択しないように」


 学びたい分野も学びたい動機も人それぞれだろう。その点、各自自由に選択できるシステムは理に適っている。


 しかしメルツェーデスが言うように、友達と一緒が良いからなどというくだらない動機で選択されるのは困る。学校側にも生徒の側にも全く利点がないからだ。


「諸君はまだ若いので三年間は長く感じるかもしれないが、実際は三年間などあっという間だ。この期間に学んだことが将来に直結する。学生時代にもっと真面目に勉学に励んでいれば上級魔法師になれたのに、勉学を怠った結果、中級魔法師止まりだった、なんてこともあり得ることだ。若い時の成長力は侮れない。故に再三言うが、しっかりと考えて自分の意思で選択するように。迷った時はいつでも相談を受け付けるからな」


 若い時は時間が経つのを遅く感じ、逆に歳を重ねれば重ねるほど時間が経つのを早く感じるようになる。

 若い時に積んだ経験というのは後に多大な影響を与えるというのも事実だ。

 上級魔法師であるメルツェーデスが言うと説得力がある。


「最初のうちは興味のある科目を一通り受けてみるのもいいだろう。時間はあっという間に過ぎると言ったが、焦らずにしっかりと考えることが何よりも重要だ」


 確かに何事も焦ると良いことは起こらない。


「学内の施設も各自一度は事前に足を運んでおくように。場所がわかりませんでしたと言って授業に遅刻するのは言い訳にならないからな」


 学園の敷地は広大だ。

 授業を実施する各教室や施設の場所を事前にしっかりと把握しておく必要がある。


「次にクラブについてだ。クラブ活動も学生の内にできる貴重な場だ。加入するもしないも自由だが、是非とも悔いのない学生生活を送ってほしい」


 課外活動も学生生活を送る上で需要なファクターだ。

 メルツェーデスとしても、生徒たちには人生一度きりの学生生活を可能な限り悔いなく、満足できるように送ってほしいと思っている。


「各クラブは勧誘に必死だ。入学間もない時期は多少手荒くなることもあるので注意するように」


 勧誘は一年を通して可能であり、加入することもいつでも可能ではあるが、大抵の生徒は入学間もないうちにいずれかのクラブに入部する。なので、各クラブにとって今の時期は狙い目なのだ。


 今の時期は各クラブが勧誘に精を出して、多少行きすぎた行為に出ることも多々あるが、学園側としてはある程度は黙認している。これも生徒の自主性を重んじる校風故にだ。


「勧誘でトラブルに巻き込まれた際は生徒会や風紀委員、統轄連に相談するように」


 自主性を重んじる校風故に、学園の治安や風紀を守るのも生徒の役目だ。

 学園には生徒で構成された自治組織が四つある。その内の三つが生徒会、風紀委員会、統轄連だ。


 生徒会は生徒会長を筆頭に学園の自治を司る組織である。学園の治安を守る役割もあるが、主な職務は文官色の強い内容だ。


 風紀委員会は風紀委員長が長を務め、学園の治安を守る為に、校則違反者や不審者などを取り締まる警察と検察を兼ね備えた組織だ。業務内容柄、公正な判断を下せる人格者で、尚且つ戦闘面でも優れている者が選ばれる傾向にある。


 統轄連は正式名称をクラブ活動統轄連合と言い、組織のトップである総長を筆頭に各クラブを管理するのが主な職務だ。また、学園の治安を守る役目もあり、風紀委員会から助力を要請されることもある。


 学園の自治を司る組織はもう一つあるが、ここでは割愛する。


「ちなみに私は魔法実技クラブの顧問を務めている。興味のある者はいつでも歓迎するぞ」


 メルツェーデスは担任であるのをいいことに、自分の生徒たちに抜け目なく勧誘を行う。どうやら茶目っ気もある先生のようだ。


 その後もメルツェーデスによる諸々の説明が行われていく。


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