◇ ◇ ◇
一月十六日――ジルヴェスターは自宅からランチェスター学園へ登校していた。
自分の所属するクラスである一年A組の教室へと初めて足を踏み入れる。
教室は教壇から半円形で階段状に席を設けられている教室になっていた。
扉は教壇の横辺りと、階段状になっている席の最上段の後方にある。この二ヶ所の扉は、どちらを利用しても構わない。
入口から一瞬教室内を見渡し、ステラとオリヴィアの姿を確認する。確認したジルヴェスターは歩みを進めた。
「おはよう」
「おはよう。ジルくん」
二人の一つ後ろの席に腰を下ろしたジルヴェスターに、ステラとオリヴィアが立て続けに挨拶する。
「おはよう」
挨拶を返すジルヴェスター。
「席が自由なのは嬉しいわよね」
「そうだな」
オリヴィアの言う通り席は各自の自由だ。空いている席を各々が自由に選ぶことになっており、その日その時の気分で毎回違う席に座ることができる。――もっとも、段々と座る席は固定されていく傾向にあるが。
オリヴィアの言葉に「うんうん」と頷いているステラの姿を視界に収めながら同意を示すジルヴェスターが自分の考えを述べる。
「
ランチェスター学園だからこそ固定の席を定めていない。他校とはまた違った風習だ。こういったところにも各校の特色が表れている。
「オリヴィアと一緒にいられる」
「ふふ。そうね。わたしも一緒にいられて嬉しいわ」
各自自由に席に座れ、ステラがオリヴィアと一緒にいられることができるので嬉しそうにしている。そんなステラのことを見て慈愛の籠った笑みを浮かべるオリヴィアも大変嬉しそうだ。
「ジルも一緒」
「そうだな。俺も見知った者がいた方が何かと心強い」
視線を向けてくるステラに、ジルヴェスターは口元を緩めながら同意を示す。
彼は幼い頃から戦場――壁内壁外問わず――を駆け回っていたのもあり、一般的な人たちに比べると世間離れしているところがある。その上同年代の知り合いも少ない。なので、見知った者が近くにいるのは心強かった。彼はできるだけ平穏な学生生活を送りたいのだ。
「――よっ、首席さん」
三人で話しているところに、ジルヴェスターの横に立った少年が突然声を掛けてきた。
「隣いいか?」
少年はジルヴェスターの隣の空いている席に目線を向けながら尋ねる。
「ああ」
「失礼するよ」
ジルヴェスターの了承を得た少年は遠慮せずに腰を下ろす。
「んじゃ改めて――俺はアレクサンダー・フィッツジェラルドだ。アレックスって呼んでくれ。よろしくな」
アレックスは軟派な態度で自己紹介をする。
「俺はジルヴェスター・ヴェステンヴィルキスだ」
「わたしはオリヴィア・ガーネットよ。この
「よろしく」
三人とも順に自己紹介をしていくと、アレックスはステラの名前に驚いて目を見開いた。
「メルヒオットって、あのメルヒオットか?」
「多分そのメルヒオットで合ってる」
アレックスの率直な疑問に、ステラは慣れたものといった態度で端的に答えた。
メルヒオット家は知らない者はいないというくらい有名な一族なので、同じような質問は良くされるのだろう。
「フィッツジェラルド家も有名だろ」
「まあな。メルヒオット家に比べたら蟻みたいなもんだけど」
ジルヴェスターのツッコミに、アレックスはお
アレクサンダー・フィッツジェラルドは褐色の肌をしており、黒みを帯びた深く
身長は高いがジルヴェスターよりはやや低いくらいだろう。
制服は黒のワイシャツに赤のジャケットを羽織って着崩しており、スラックスは黒色だ。所謂、チャラいといった言葉がピッタリと当てはまる人物だ。
彼の実家であるフィッツジェラルド家は、魔法師界でも結構名の通った一族である。代々雷属性と火属性に優れた適正を持つ血族だ。クラウディアのジェニングス家ほどではないが、比較的名門の部類に入るだろう。
「それに俺は七男だからな。わりと自由気ままにやらせてもらっているさ。姉も四人いるし、弟と妹も何人もいるけどな」
アレックスは笑いながらそう言うと、軽く髪を掻き上げる。
「兄弟多いのね」
オリヴィアが呟く。
「ああ。親父は女好きだからな」
「そういえば当代の当主殿は多くの女性を囲っているらしいな」
「あ、俺は本妻の子だぞ」
ジルヴェスターの言う通り、アレックスの父である当代の当主は好色だと知られており、事実多くの女性を囲っている。この国は一夫一妻制なので多くの妾を囲っているということだ。
そしてアレックスは当主である父と、その妻との間に生まれた息子である。
「にしても親父もやるよな~。マジで尊敬するよ」
「「……」」
多くの女性を囲っている父のことを尊敬していると言うアレックスに、ステラとオリヴィアはジト目を向ける。それでも彼は全く動じない。
オリヴィアが一瞬ジルヴェスターに