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第9話 散策(五)

「まあ、まずは対抗戦だよね。学校行事で盛り上がるのは」


 ビアンカが話題を振る。


「楽しみ」

「ふふ。ステラは対抗戦のファンだものね」

「ん。毎年観に行ってる」


 期待に膨らんだ眼差しをしているステラの表情を見たオリヴィアが微笑む。


 対抗戦とは――全国魔法教育高等学校親善競技大会の通称である。

 毎年春を過ぎた頃に全国十二校の魔法教育高等学校が選りすぐりの生徒たちを集め、学校単位で競い合う魔法の競技大会だ。一般の人々はもちろん、政府関係者や魔法関係者などからも注目を集める一大イベントであり、国中が盛り上がる大会でもある。大会の主催は魔法協会が務め、会場の提供は国が行っている。


 ステラのように熱狂的なファンもおり、対抗戦に出場する為にプライベートなどを犠牲にしてでも全力を注ぐ生徒もいるほどだ。


「そっか。なら選手に選ばれるといいねぇ~」


 ビアンカの言う通り、対抗戦に出場する為には代表選手に選ばれなくてはならない。

 全生徒が無条件で出場できるような優しいものではなく、各校の精鋭が集まるのが対抗戦の特徴でもあり見所でもある。


「ん。先輩も二年前の大会に出てた」


 ステラが思い出したように口元で呟く。


「……良く覚えてたね。確かにビアンカは一年の頃に出てたよ。わたしも観に行ったし」


 ステラの呟きをしっかりと耳にしたレベッカは驚いて目をしばたいた後、自分も観戦していたと告げる。


「まあ一年の頃は新人戦だから選手に選ばれたね」


 ビアンカは対抗戦に選手として出場していたことを肯定すると――


「さすがに去年は選ばれなかったけど」


 と肩を竦めながら苦笑した。


 対抗戦には新人戦と本選がある。

 新人戦の出場条件は一年生限定であるのに対し、本選は全学年が対象だ。全学年といっても代表選手に選ばれる一年生は新人戦に出場するので、本選に出場する選手は三年生と二年生が中心になる。

 なので、代表選手の枠は必然的に一年生が多くなり、二、三年生は更に狭き門とならざるを得ない。


 従って本選の出場選手枠を三年生と二年生の優秀な生徒から選抜されるわけだが、十代の若者にとって一年の差は非常に大きく、三年生と二年生の間には確かな実力差が存在する。

 真面目に一年間魔法師として心身ともに勉学に励んでいた期間の差はどうしても埋められない壁だ。身体的な成長の差もあるので尚更である。――もちろん中には学年の差など関係ないとばかりに優秀な下級生も存在するのだが。


「なるほど。二年生が最も狭き門なのか」

「そうそう」


 脳内で情報を整理していたジルヴェスターが何の気なしに呟いた言葉に、ビアンカが相槌を打つ。


 前述した経緯があるので、ビアンカが二年生の頃に代表選手に選抜されなかったのは実力が乏しかったからというわけではない。むしろ一年生の頃に新人戦の代表選手に選抜されていたということは、学内でも優秀な生徒の一人である証拠だ。


「とりあえず代表選手に選ばれるように頑張りな。きっといい思い出になるから」

「頑張ります!」


 脱力感満載なビアンカはウインクを飛ばす。

 ウインクを飛ばされたステラは、わかる人にしかわからないほど僅かな表情の変化で頷く。表には出ていないが、彼女は胸中では大火の如く濛濛もうもうと燃えるように熱く意気込んでいた。


「さてと、そろそろ戻るねぇ~」


 話が一段落したところでビアンカが席を立つ。


「じゃ、またねぇ~」

「じゃねぇ~。また学校でっ」


 ビアンカの後に続いてレベッカも喫茶店を後にした。


「わたしたちもそろそろ戻りましょうか」


 ギャル二人を見送ったところでオリヴィアが学校に戻ろうと提案すると、ジルヴェスターとステラは頷いて席を立った。


「少し散歩しながら戻る」


 すかさず要望を口にするステラ。


「そうしましょうか。ジルくんも大丈夫?」

「ああ、構わない」


 オリヴィアはステラの要望を叶える為にジルヴェスターに確認を取った。


 そうして会計を済ませた三人は、時折寄り道をしながら学校への帰途につく。


 ちなみに喫茶店の会計はジルヴェスターが三人分の料金を支払ったが、遠慮した二人と些細な一悶着があったのはまた別の話である。


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