◇ ◇ ◇
「――ねえねえ。君、首席くんだよね?」
三人が昼食を済ませて落ち着いたところで、突然声を掛けられた。
「そうだが、君は?」
掛けられた言葉に自分のことだと思い至ったジルヴェスターは、声の主に顔を向けて答える。
「ごめんごめん。名乗るのを忘れてた。わたしはレベッカ。レベッカ・ヴァンブリート。君と同じ新入生よ」
レベッカと名乗った少女は白い肌にラフゆるロングの金髪に、緑色の瞳を備えている。
凹凸のはっきりとした身体つきをしており、制服は白いブラウスの上に桃色のカーディガンを着て、その上には橙色のジャケットを羽織っている。
制服は着崩して胸元と
そしてルーズソックスを穿いていて、
ピアスやネックレス、ブレスレットなどのアクセサリーも身に付けていて、とにかく派手だ。
「レベッカって呼んでね」
「ああ。よろしく、レベッカ」
ジルヴェスターに続いてステラとオリヴィアも挨拶を交わす。
「こっちはビアンカ、三年生よ」
「どうも~。わたしはビアンカ・ボナヴェントゥーラ。一応生徒会で会計をやってるよ~」
レベッカに紹介されたビアンカという少女は、手をひらひらと振って脱力感を隠そうともしない態度で自己紹介をする。
彼女は褐色肌で、左側頭部をコーンロウにし、他の部分は派手に盛り髪にしている赤みのある黄色い髪が目立つ。髪と同じ色の瞳が輝いていてより一層派手さが増している。
レベッカと同じように凹凸のはっきりとした身体つきだが、ビアンカの方がより肉感的だ。
紫色のジャケットに黒いブラウス、水色のカーディガンを着ており、胸元が見えている。紺色のスカートも下着が見えるのではないかと思うほど短い。
そしてルーズソックスを穿いている。アクセサリーも身に付けている正しくギャルであった。
数席離れた所のテーブルを囲んでいた二人の女性生徒――レベッカとビアンカ――はジルヴェスターたちの隣のテーブルへと移動して来たようだ。
「三年? それも生徒会役員が入学式の日にこんなところにいてもいいんですか?」
ジルヴェスターの疑問はもっともだ。
生徒会役員にとって今日は忙しい日のはず。入学式は終わったが、事後処理などの仕事は残っている。
「大丈夫大丈夫。今は昼休憩だから」
「なるほど」
ビアンカの説明に納得したジルヴェスターは頷く。
「まあ、みんなは学内のレストランやカフェで昼食を済ませてるけどね~」
学内にはレストランやカフェも併設されているので、生徒の大半はそちらで昼食を済ませる。だが、ビアンカは忙しい合間を縫ってわざわざ学外に繰り出していた。
「すぐ戻るから制服のまま来てるしね」
学外に出る際に制服着用の決まりはない。服装は自由だ。
いつも制服ばかり着ている学生の為、外出する際は私服で繰り出す者が多い。特に女性はおしゃれをして外出したがる傾向が強い。
そんな中、ビアンカは着替える手間を惜しんで制服のまま来ているので、一応ちゃんと生徒会役員としての自覚はあるようだ。
「ジルくんはA組だよね? わたしはB組なんだ。クラスは違うけどこれからよろしくね」
どうやらレベッカはB組らしい。
首席合格者はA組に振り分けられるのが通例なので、ジルヴェスターはA組だとレベッカも知っていたようだ。
「わたしたちもA組よ」
「そうなんだ。オリヴィアとステラもよろしくね」
オリヴィアがステラにチラリと視線を向けてから自分たちのクラスを告げると、レベッカは笑みを浮かべながらウインクをした。
その様子にステラとオリヴィアは自然と笑みを返す。
「――ところで、二人はどういう関係なの?」
オリヴィアはレベッカとビアンカの二人に交互に視線を向けながら、疑問に思ったことを尋ねる。
確かに二人はギャルという共通点はあるものの、学年は二つ異なるので一緒にいることを不思議に思うのは当然だろう。
「わたしたちは幼馴染みなんだ。ね?」
「うん」
レベッカの言葉にすかさず相槌を打つビアンカ。二人は息ピッタリだ。
「へえ。わたしたちと同じね」
「ん」
オリヴィアとステラは、自分たちと同じで幼馴染み同士だというレベッカとビアンカに親近感を
「ビアンカがいるからランチェスター学園を選んだの」
「確かに先輩に幼馴染みがいたら安心よね」
「もちろん三大名門の一校で、尚且つ自由な校風ってのも理由の一つだけどね」
レベッカがランチェスター学園を志望したのは、ビアンカが在学していたのが最も大きな要因だ。ランチェスター学園が三大名門の一つに数えられているのも決め手である。
ビアンカからランチェスター学園のことは聞いていたので、志望校選択の際は迷うことがなかった。両親も反対する理由がなかったのか、すんなりと決まった。
もっとも、志望したからといって入学できるとも、合格できるとも限らないのだが。
ランチェスター学園は三大名門に数えられているだけあり入学試験の難易度が高く、倍率も高い。
そんな中、レベッカは見事合格してランチェスター学園の生徒になったのである。
「三年間の限られた学生生活では程々に勉学に励み、思いっきり遊んで青春を謳歌しちゃいなよ」
下級生の模範となるべき三年生のビアンカが、悪い笑みを内包した表情を浮かべて良からぬことを口走る。
「そうそう、今の内にこの限られた時間を有意義に使わないとでしょ!」
ビアンカの言葉に賛同するレベッカは屈託のない笑みを浮かべている。
「生徒会役員としてそれでよろしいのですか?」
「ん? いいのいいの。面倒だから問題さえ起こさなければね」
生徒を代表する生徒会役員であるビアンカに疑問を呈するオリヴィア。
当のビアンカは問題さえ起こさなければいいと軽く受け流す。
生徒の誰かが問題を起こすと生徒会の仕事が増えるので、ビアンカとしては勘弁願いたいことであった。
純粋に問題行為は慎むようにという注意喚起の意味合いもあるが、単純に面倒事は嫌だという本音が明け透けである。