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第7話 散策(三)

「――そういえば、最近反魔法主義と思われる者達の動きが活発になっているな」

「確かに今朝の新聞にも載っていたわね」


 ふと思い出したように口を開いたジルヴェスターの言葉に、オリヴィアは今朝の新聞のことを思い出す。


「実際、反魔法主義者ってどうなの? 身近にいないからあまり実感がない」

「まあ、俺たち魔法師にとっては身近にいないに越したことはないな」


 ステラの言う通り、身近に反魔法主義者がいるとか、被害を受けた者がいるとか、そういった何かしらの関わりがないと実感が湧かないだろう。そもそも魔法的資質を有する者にとっては百害あって一利なしだ。関わらないに越したことはない。


「反魔法主義者と言っても様々だ。全面的に否定はしないが、ろくなものじゃない」


 反魔法主義者とは、魔法的資質を有する者に対して否定的な思想を持つ者の総称だ。


 ひとえに反魔法主義者と言っても一括りにはできない。穏健派、中立派、過激派など、様々な派閥がある。


 非魔法師からしてみれば、魔法師は人を殺傷できる武器を常時携帯しているようなものだ。

 確かに自分たちは扱えない魔法という超常的な力を扱う魔法師に対して、恐怖心をいだいてしまうのは致し方ないことだろう。


 そして、魔法選民主義者がいることも溝を生む原因になっている。魔法選民主義者は非魔法師を劣等種と見なしているからだ。

 対して、魔法師に劣等感や嫉妬心などを抱く非魔法師も存在する。

 溝ができて当然だ。


 もちろん魔法師と友好的な非魔法師も存在するし、非魔法師と友好的な魔法師も存在する。むしろ友好的な者の方が大多数を占める。


 人々は壁内で共存している。ただ、何事も絶対はない。いくら共存しているとはいえ、上手く行かないこともある。


「新聞にはワナメイカー・テクノロジーが襲撃されたって書かれていたわ」

「ああ、そうだな」

「襲撃者の正体は判明していないのよね?」


 オリヴィアが質問すると、ジルヴェスターは軽く周囲に視線を巡らせた。

 そして問題ないと判断し、声を潜めて喋り出した。


「いや、確かに判明はしていないが、上層部では反魔法主義団体過激派組織『ヴァルタン』の仕業ではないかと当たりをつけているようだ。あくまで推測の域は出ないから情報を開示しない方針らしい」


 ――『ワナメイカー・テクノロジー』は、ワナメイカー家が経営する国内有数の魔法技術を取り扱う大企業だ。

 MACの開発、製造、販売はもちろん、魔法の研究や、魔法に関わること全般を生業としており、多くの魔法工学技師や魔法研究者を社員として雇っている。


 ステラの実家であるメルヒオット・カンパニーとは、魔法関連に関してはライバル関係にあたる企業だ。


「ヴァルタン?」


 ジルヴェスターの説明の中に聞き慣れない単語があったステラは首を傾げて呟いた。


「ヴァルタンというのは、反魔法主義者の中でも過激な思想を持つ者たちで構成されている組織だ。端的に言うと、魔法撲滅の為ならなんでもやる狂信者の集まりだな」


 反魔法主義者が持つ思想には穏健派や中立派などがあるが、その中でも最も過激な思想を持つ過激派の組織の一つが反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンだ。

 ヴァルタンは魔法関連を取り扱う企業などの襲撃を始め、を襲撃したりすることもある暴力的な組織である。


 最も厄介なのは、を襲うという点だ。

 魔法的資質を有するからと言って、その人が魔法師であるとは限らない。


 魔法師なら実力の差はあれど自衛することはできる。

 だが、仮に実戦レベルで魔法を扱うことができても、魔法師ライセンスを所持していなければ当然魔法を行使することは認められていない。その上、戦闘慣れもしていないので自衛も簡単ではない。


 そして最も問題なのは、魔法的資質を有するからと言って、全ての者が魔法を扱えるわけではないという点だ。

 あくまで資質を有するだけで、非魔法師とほとんど変わらない者もいる。そう言った者たちは当然魔法を扱うことができないので、自衛も自身の腕っぷしだけが頼りになる。


 大人の男性ならば非魔法師相手ならある程度は自衛することも可能かもしれないが、女性や子供にそれを求めるのは酷というものだ。もちろん腕っぷしの強い女性や子供も存在するが、それを基準にしてはいけないだろう。


「お前たち自身も、メルヒオット・カンパニーも他人事ではないから気をつけるようにな」


 ジルヴェスターは最後に忠告をして話を締め括る。


 魔法師である限り、反魔法主義者のことを警戒しておくのは必須事項だ。

 自分だけではなく、家族や友人など身の回りの人たちが巻き込まれてしまう可能性もある。決して他人事ではいられない。


「ああ、それからヴァルタンのことはオフレコで頼む。おおやけにしていない情報だからな」


 最後の最後に情報を漏らさないようにと釘を指すジルヴェスターに素直に頷くステラと、顔を攣らせながら頷くオリヴィア。


 オリヴィアの内心では、国の上層部が内密にしている情報を聞かされたことに対する複雑な心境が渦巻いていた。自分たちのことを信用してくれている証拠だろうと思うことにして、なんとか溜飲を下げた。


 運ばれてきた食事に舌鼓を打つ三人はしばし話を切り上げるのであった。


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