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 やがて私は社交界にデビューした。

 三年程そこで立ち回りを覚え、兄とバーナード様が大学での学業に一区切りついた頃、私達は結婚した。

 結婚式でのキャサリンは、それまでに無いほど静かだった。

 小さな頃から結婚式というものが大好きで、その外見もあって何かしらの役を頼まれることも多かった。

 だからやはりはしゃぐかと思ったらそうでもなかった。

 何やらむっとして黙っている様にも思えた。

 だがその時は、私自身がいっばいいっぱいだったので、妹のことまでそれ以上考えは回らなかった。

 ちなみにその頃はまだキャサリンの相手が見つかっていなかった。

 最初の婚約時期を逃すと、また別のコースで探さなくてはならない。

 条件が本当に厄介だった。

 学校を辞めてからは家庭教師を改めて雇ってもらった。

 今度は多少厳しくとも、基礎をもう一度叩き込んで後、学校のカリキュラムの――せめて半分程度まで、何とかできる様な人材を求めた。

 キャサリンはともかく人を見て、怠けられそうだと思ったらもう大して相手のことは聞かない。

 これは学校でも散々聞かされた。

 だから徹底した人材を、と職安に頼んだのだ。

 さすがのキャサリンも悲鳴を上げた。

 だが教師も相当堪えた様だった。

 学校の半分、は無理だった。四分の一がいいところだった。

「しかしまあ、それだけでも良いとするか。後はこの子に合った夫を探すしかないな」

 父はそう言って頭を抱えた。

 だが思わぬところから助けの手があった。

 私の夫の兄だった。

 一つ違いなのだが、夫とは違う学科専攻で少し長めに大学に在籍していた。

 ただこの在籍期間の長さで、昔結んでいた婚約が解消されてしまったのだという。

 当人は物静かな学究肌だ。

 弟である夫から見ても「勿体無い程いい奴だと思う」とのことだった。

「正直、君には兄貴の方が向いているんじゃないかな、と思って考えることがあったよ」

 夫はそうこぼすことがあった。

「それって私は貴方に合わないってこと?」

「いや、俺はあまり君の様な本も読まないし、がさつだし、浮かれ騒ぎも嫌いじゃないから、君にはちょっと辛いかな、と思うこともあったんだけど」

「別に私はそういうものが嫌いという訳じゃないわ。逆に貴方の方が退屈するんじゃないかと思っていたけど」「いやあ、外で騒がしくしていると、やっぱり家はゆっくりしたいよ。だから結婚するなら君の様なひとがいいとずっと思っていた」

「そうね、結構反対の方がいいのかも。私は放っておくと本の虫になってしまってこれはこれで困るから、現実へ引き戻してくれる貴方の様な存在が必要なんだわ」

「割れ鍋に綴じ蓋か」

「そうかもね」

 私達はそうやって上手くやっていた。

 そんな私達の結婚式の時に、どうも義兄のロンバートは妹に一目惚れしてしまったそうなのだ。

「割れ鍋に綴じ蓋と言う意味ではいいのかもしれませんよ」

 夫はそう言って父にも「悪くない」という意味の意思表示をした。

 一方のキャサリンは、と言えば。

 意外なほどに静かにそれを受け容れたのだ。

 珍しい、と私は思った。

 縁談関係には何かと難癖つけた妹が、これには特に何も言わなかった。

 そこで話はさくさく進んでいった。

 ロンバートは美しく育った妹に夢中だった。

 プレゼントを送ったり、あちこちに連れ出したり…… それまでの彼では考えられない、と夫に言わせる程だった。

 そして結婚式の当日がやってきたのだ。

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