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 そう、実際その時のキャサリンの勉強は、私の時より二年下の課程でせいぜいだったのだ。

 ただ口は回る。

 その場その場の会話は――ぶしつけではあっても――適切だった。

 それだけに、どうしても両親や祖父母が危機感を持たなかったのだ。

 やがて兄と私が寄宿学校に行くことになった時、ミス・マドレーは解雇された。

 どうしても彼女の教え方ではキャサリンは伸び悩むということで、教師を変えることにしたのだ。

 尤も、その後遅れて寄宿学校にやってきた妹を見る限り、後任の教師も大したことはできなかったらしい。

 そして私が最終学年の時に一年生だった訳だが。

 彼女の担任教師が私のところへ来て漏らした。

「ねえ、アシュリー…… 悪いけどどうしても貴女の妹、進級させるのが難しいのよ……」

 入学自体は一応誰でもできるので、さすがに先生もそこまで酷いとは思っていなった様なのだ。

「そうですか…… 差し支えなければ、どのくらい足りないのか」

 彼女は言いよどんだ。

 いや、判る。

 そのくらい酷いのだろう。

「ダンスとかは他の誰より飛び抜けているし、似顔絵とかさっと描けるし、礼儀作法や会話術とかは難なくいけるのだけど、外国語になるとからきしだし、そもそも未だに綴りで間違えることがあるのは、ちょっとあの歳では……」

「そうですね、先生からうちの両親に手紙をお願いできないでしょうか。私も相談された、ということを送ります」

「そうね。そのまま進級させると、彼女自身も恥をかくことになりそうだし。何より今も彼女自身がそれを何とも思っていないことが一番問題なのよ」

「あの子は昔から考えるより感じる子でしたから……」

「でもこのままでは、社交界でも恥をかくわね。学年でいつも三位までを維持している貴女の妹さんなのに、と思うと不思議に思うわ。あ、それと」

 まだあるのか、と私は内心おののいた。

「男子部の子達に無闇に近づくのは止して欲しいのだけど」

「何ですって」

 私達が通っていた学校は、規模が大きく、各地から生徒がやってきていた。

 海外から箔づけに来る者も居たらしい。

 男子部女子部と別れ、授業は別なのだが、休み時間はその限りではない。

 ただ紳士淑女のマナーとして、それぞれ下手に接触しない様にということは言われているのだ。

 それ相応の家の者は、ある程度の歳になれば社交界デビューまでは離れているものだ、と教えられる。

「なのにキャサリンさんは、休み時間となると、男子生徒の方に近づいては話しかけているのですよ」

 !

 そう言えば、確かにあの子は兄や従兄弟、男の子達ばかり遊んでいた。

 私達女の子の集団とはそりが合わないとばかりに。

「確かに昔から外で男の子と遊んではいましたが…… まだそのつもりなんでしょうか……」

「これも度が過ぎると、秩序を乱すということで問題になります」

「ええ、ぜひその点も両親に伝えてください、お願いします!」

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