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6 ちょっとばかり泣きそうになった

「ああメイミ何ってこと!」

 その後連れていったサムの実家では、奴の両親が神妙に待っていた。

 父親は苦虫を噛みつぶした様な顔になっていたし、母親は一見明るいメイミの様子に、会った途端涙がどっと出てきてしまった様だ。

「お義母様お久しぶりでございます。なかなか一人で行き来できなくて辛うございました」

「もう何も心配しないでいいのよ。ここであの子と一緒にゆっくりお暮らしなさい」

「え、いえ、でも」

「貴女を一人で置いておくなんてできないわ。私達にとって貴女は実の娘と同じよ」

「お義母様……」

 とても美しい場面だ。

 片方の認識さえずれていなければ。

「こちらへ」

 サムの父上、子爵は俺達を別室に通した。

 メイミのことは母上に当座任せる、ということなのだろう。

「ちゃんと足はあるな」

「はい」

 そう言って子爵はサムを上から下まで眺めた。

「お前の激務は判っている。正直、彼女はその立場の人間の妻としては繊細すぎたな」

「本当に、俺は何も気付かなかった」

「君はどう思うかね? ロイ君」

「うちも相当なものだとは思いますが、まあ、これが居る分まだ良かったのかと」

 そう言ってリータの方を向く。

「乳姉弟か。そうだな。そういう立場の者を一人でも置けば良かった。とは言え、あの時は彼女の方が確か」

「はい、身分を気にして、そこまで手をかけることはできない、と…… もっと考えるべきでした」

「うむ。ともかく彼女とお前の子はこっちで預かる。……制度改革があの組織にも必要だな。お前等が任官した頃と、今では状況が変わってしまっている」

「はい」

 俺達は揃って頷いた。

 俺とサムが任官した頃、治安部隊は半ば閑職とも言われていたものだ。

 だからこそ独立して結婚して、ある程度のんびりしていけると思っていた。

 だがここ一年程反政府組織の動きが酷くなっていた。

 それがこんなことを引き起こすなんて。

「大丈夫かしら、治ればいいんだけど」

 帰りの馬車の中で、アゼルタはそうぽつんと言う。

「この先同じ様なご夫人を出してはならないな。まずできるだけ増員が可能かどうか問い合わせからだ」

「うん」

 サムの表情が暗い。

 俺はその背中を大きく叩いた。

「元気出せとは言わんぞ」

「おう」

「仕事満載でああなったのはもうどうしようもない。だから次を出さないために仕事に打ち込め」

「いや坊ちゃんそれじゃまた繰り返しでしょう」

 リータはそう即座に突っ込んだ。

「ちゃんと奥様には連勤の隙間に顔くらい見せて下さいよ。それだけでも違うんですから!」

 ねえ、とばかりにリータはアゼルタの方を向く。

 ありがと、とアゼルタは笑った。

 その後、先々を見据えて増員、及び部隊員の志気にも関わることから連勤に関しての見直しがすぐに行われた。

「この間、ようやく『もしかして?』って顔で俺を見てくれたよ」

 サムはそう言って泣きそうな顔をした。

 俺もそんな奴の顔を見て、ちょっとばかり泣きそうになった。

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