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後編

 ばあん。

 音を立てて夫の部屋の扉を開ける。

 ――途端、ソファでいちゃついている二人の姿が視界に飛び込んだ。

「ほほう、貴方達そういう関係でしたの」

 二人はぱっ、と離れる。

「こ、これは違うんだ、ナッツが胸やけがすると言っていたから」

「胸焼け? はあ?」

 つかつかと二人の前に私は立ちはだかった。

「胸焼けがするからって、スカートをめくって足を肩にかけさせるんですか貴方は」

 私はそう言いながら、彼女のまくれたスカートを下ろさせた。

 するとナツベリーはきょとんとした顔で。

「ちがうの~おねえさま、いつもわたし達こうやって遊んでたの~」

 邪気の無い顔。

 ……なるほど。

 私はリンダにちら、と目配せをした。

 彼女はささっ、とその場から立ち去り、電話室へと向かった。

 私はナツベリーの前にかがみ込んで、にこ、と脅かさない様にできるだけ優しく微笑んでみせた。

「そうなのナツベリー。そうやって遊んでたの? その辺り詳しく言ってくれない?」

 にこ、と優しげな笑みを浮かべて私は彼女に近寄り、問いかけてみた。

「くわしく?」

「そう詳しく。このひとは私の旦那様だけど、貴女にとってのお兄様なのかしら?」

「そーなの。おにーさまは長い休みになるとうちに来て、わたしといっしょに居てくれたの。よく一緒に寝てくれたし」

「ふんふん」

「うちね、おかーさまが居ない時が多かったから、おにーさまがよく寂しいときにはいっしょに寝てくれたし、なでてもくれたし」

「それは服を着て?」

「お、おいリンディア」

「ううん寝る時はちゃんとぬいでね、って」

「ふーん…… そうなの。リンダ、とりあえずナツベリーを別の部屋に移してちょうだい」

 電話室で、ナツベリーの実家へと連絡をしたリンダはすぐに戻ってきていた。

「はい奥様。さあさあナツベリー嬢様、お服を直しましょうね」

 リンダはよく判らない様に首を傾げるナツベリーをそのまま抱き上げると彼女の部屋へと連れて行った。

 すると折り返し、だだだだだだだ、と細かくも激しい足音が。

「奥様こんなものが」

 その手には。

「……ほう」

「そそそそそれは」

 夫の顔色が変わる。

 そしてだらだらと脂汗が。

「なるほど。貴方実は、こういう趣味があったのね。しかもあの子の部屋で使っていた…… そうでしょ?!」

 リンダの大きな右手には巨大な注射器の形状の器具。

 それだけじゃない。

 左手にはゴムチューブとポンプのついたエネマシリンジが。

「……だっ、だって、君、そんなことさせてくれないだろう……?」

「残念ながら私にその趣味は無いですわ。それより! なるほど、普段淡泊でなかなか子供もできないと思っていたら、そういうことだったの」

 そう、この男は閨で上手くいかないことが多い。

 済まない済まないと言いつつも、ともかく使い物にならない日の方が多かった。

 それが実は。

「子供ができなくて良かったわ」

「リンディア、いや、違う、僕だって努力はしたんだ」

「努力? はあ? どんな努力っての? このロリコンスカトロ野郎が! 自分の尻の穴に指突っ込んで無理矢理にでも何とかするくらいの気概も無いくせに! それでいてああいう子が来たら早速?」

「が、我慢できなかったんだああああ」

「我慢せい! あー、もう連絡しておいたわ。貴方離婚。出て行って。あの子は医者に診せてから実家の方へ連絡して事情を説明するわ」

「いやそれだけは止してくれ! そんなことをしたとバレたら僕は一族から」

「知らないわ。リンダ、やっておしまいなさい!」

「はい」

 ぐぐっ、と力を入れるとリンダのメイド服が筋肉の収縮でぴっ、と爆ぜた。

 身長2メートル。

 体重もそれ相応、そしてその大半が筋肉という私の乳姉妹は、夫をずりっと座っていたソファから持ち上げ、そのまま肩に担ぎ上げた。

 そして勢い良く階段を駆け下り、外へと飛び出していく。

 私は窓からその様子を見る。

 リンダは夫を門の外へと投げ飛ばすと、すぐさまがちゃん! と鋼鉄の門を閉ざした。

「奥様だけでなく、あの様な可愛い子をもてあそんだ罪は万死に値する! おって沙汰を待つがいい!」

 よく響くアルトの声が窓越しにも響いてきた。

 さすが私の乳姉妹。

 よし、すぐさま離縁状と顛末を周辺各位にも発信しなくちゃね。

 そして私は再び執務室へと戻るのであった。

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