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4 同期は気付かされ、飛んでいく

「それ本気で毎日かい?」

「あ、はい。そういうものかと……」

「実家もそうだったのかい?」

「いや、実家は……」

「いやいやこのひと、実家はメイドさん使う様な家なんだよ」

「まあホントに!」

「ああそうだ、だからか!」

 一人がぽん、と手を叩いた。

「きっとエイムさん、あんたの実家の方でどんな食事してたか手紙か何かで聞いたんだよ」

「そうだよね、じゃないと私等と同じ様な育ちのエイムさんにゃ、そんな朝ご飯浮かばないって」

 ランダースは唖然としていた。

「それで? ランダースさん、その手を掛けた朝ご飯にちゃんと美味しいと言ってやったかい?」

「え?」

「……その様子じゃ」

「ねえ……」

 皆が顔を見合わせる。

「どういうことなんだ?」

「それは」

 するとネスリーは俺を押しのけた。

「そーかー。だからエイムはずっと『あのひとが何考えてるのか判らない……』って言ってたんだわ。ランダースさん、貴方ごはんが美味しいとか、今日何があったとか、毎日変わっている野から取ってきた花とか気付いています?」

「花?」

 あちゃー! と俺は額をぺしっと叩いた。

 呼ばれた他の男も中には覚えがある奴が居る様だ。

「うちと違ってともかく細々と色々と家の中を過ごしやすそうにしているのに、気付いてなかったんですか? 少しでも冬暖かい様にとクッションに毛糸でカバーを編んだり、夏はできるだけ冷たい水を用意したいって貴方が戻る少し前にわざわざ水くみに来たり、花もそうだけど、カーテンが変わったのも気付いていないんじゃ?」

 ……これは詰んだな。

 いや、俺だって気付かないことはある。

 あるんだが、大概そういう時にはネスリーが「ねえねえ何か今日違わない?」と話を振ってくるんだ。

 そうなったら昨日と何処が違うのか、俺は間違い探しの様に目を皿の様にして探す。

 大概ネスリーのすることは大雑把で分かり易いから、俺も見つけて「ここ」と言えるからいいんだが。

「……まあ確かにエイムも黙って察して、というくせがあることはあるのよ。だけど、せめて毎日の食事の味がどうとか、好きなものは何とか、気付いたら言葉にしてくれないと、あのひとどうしていいか判らなくなっちゃうのよ」

「え…… あ…… そうか。言わなくとも、残さず食べてるから、美味いのは伝わってると……」

「「「「「「甘い!!!!」」」」」」」

 一斉に女性陣から声が飛ぶ。

「言わなくちゃ判る訳ないでしょ!」

 ネスリーもはっきりと言う。

「はあ…… この分じゃ、最近エイムが気分悪そうだったのも気付いていないわよね」

「え、気分悪そうって…… いや、確かに時々台所で咳き込んでいたけど……」

「それは咳き込んでたんじゃなくて」

「まさか」

「「「「「「遅い!!!!」」」」」」」

 再び一斉に声が飛んだ。

「え、え、え、それ、まさか」

「まあ、そういうことじゃね?」 

 俺は奴の背をぽん、と叩いた。

 すると椅子の上で奴はへなへな~と崩れ落ちた。

「おーい、大丈夫か?」

「だ、だいじょうぶだ…… え、まさか、だから実家に」

「まあそれもあるだろうが、色々お前に考えて欲しかったのも確かだろ」

「ああエイム!」

 そう言うと、いきなりしゃんと立ち上がり、奴は集会場から飛びだそうとする。

「おい何処に」

「休暇願い出してくる! エイムの実家に行かなくちゃ!」

「その書類ならここにありますよ」

 団長の奥様がすっ、と一枚の紙を差し出した。

「サインだけすればいい様になってますからね。一週間くらい行って、よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉく、話し合ってらっしゃいね」

 奥様のその時の笑みは、とっても怖かった。

 一週間後、一人で戻ってきた奴は、それまでと違っていきなり饒舌になっていた。

 医者の診断ではもしかしたら双子じゃないかとか、男だったらこういう名、女だったら……

 そういう想像だか妄想でどうやら頭の中がいっぱいらしい。

「うちもそろそろちゃんと作る?」

 俺は夜、ネスリーに尋ねる。

「そうね、本腰入れて作りましょうか」

 そう言うと、彼女は勢いよく抱きついてきた。

 この勢いあってこそ!

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