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⑥義兄の反論と報連相の大切さ、そして

 だが詰まったのは一瞬だった。

 それでもこんな小娘に一方的にあれこれ言われるのはさすがに彼のプライドに関わるのだろう。

「君の言うそれは前提が間違っている」

「そうですか?」

「そうだ。そもそも義父上無しの僕とトリールでは接点が無い。出会うはずが無い僕等の間に何が起こるかなんて分かる訳がない」

「まあそれはそうですわね」

 そこは私も頷いておいた。

 そう、何だかんだ言って大概の人はごくごく身近な周囲の者と結婚する――いや逆だ、結婚する場合には身近な者とするのだ。 

 私だってそうだ。

 今婿になることを了承してくれている私の親愛なる友は、あくまで学問関係で知り合ったのだから。

 そもそも私は結婚は恋愛から始まったらその調子でずっと続くとは思っていない。

 まあ無論、それで続く者もあるのだろう。

 だがまあ、お姉様から言わせると「情緒的な感情をお母様のお腹の中に三分の二くらいは置いてきた」私からすると、恋は大半思い込みと勘違いなんじゃないかと思うのだ。

「マルミュットはむしろそういう人達を観察して分析するのが好きだからね」

 お姉様はそうとも言った。

 だから私は義兄の態度をできるだけ多く観察したい。

 お姉様の真意を知るために。

「まあ、大概の結婚は同じくらいの家格の、両親の勧めた人とするのが一番長続きすると聞きますからね。生活習慣が違うっていうのは、ケンカのもとですし」

「そうだよ、なのにトリールはいつまでもお嬢さん気分だ」

「どういうところがですか? カイエ様と比べて? そもそもお義兄様は普段の生活にどんなものを求めていたんですか? 朝食だって、お姉様はできるだけ努力なさっていたのに。目先が変わったら食欲も進むんじゃないかって。だけどコーヒーが苦いって文句つけてらしたそうですが。まあ確かにお姉様の手際が良くないことは認めますけど」 

「何も僕は帝都の勤め人がよくやっている様な、コーヒーハウスで朝出す様な朝食が欲しいわけじゃない。朝なんてお茶と昔ながらの粥に昨晩の肉の余りを濃く煮た奴を付け合わせてくれる程度でいいんだ。そういうものをがっつり食うことで張り切れるんだ、北の男は」

「でもそういうことをお姉様に言ったんですか?」

「そういうことは、言わなくても察するものだろう? 家事を自分でしようとする妻というならば」「あらお義兄様、ちょっとそれは違いましてよ」

 私はあえてすっとんきょうな声を出してみせる。

「何が」

「お義兄様、職場で何か希望があったらちゃんと報告するでしょう? 問題があって急がなくてはならないと思ったら連絡するでしょう? そして困ったことがあったら問題に関して相応の方に相談するでしょう?」

「そりゃそうだ。そうしなくては職場は上手く回っていかない」

「じゃあ何で家庭でもそうしないんですか」

「は?」

 彼は何を言っているか解らない、という顔になった。

「だってそうでしょう。職場も家庭も一つの組織には違いないんです。お義兄様が今どんな役職に就いているか私は残念ながら知りませんが、それでも下からの連絡や報告は聞くし同僚の相談に乗るし上司に報告や相談はするでしょう?」

「当然だ」

「家庭では夫と妻はそれぞれ役割を持った一つの集団の同等な構成員じゃないですか。どうしてお姉様だけがお義兄様の考えていることを察しなくてはならないんです?」

「? 妻とはそういうものだろう?」

「お義兄様はそう思うんですね。それがお義兄様が育った北の地の風習ですか? そうかもしれませんね、だって帝都近郊育ちのカイエ様があれだけお義兄様のために色々察して下さったってことは、きっとグレヤード様がそう願ったってことですものね。ああ可哀想なカイエ様! 帝都や帝都近郊では伝統的にそんなこと要求されないというのに!」

「マルミュット、それは僕だけでなく、僕の養家ナザリス家に対しても失礼だぞ!」

「そうですか? ではちょっと私、調べに行ってきましょう」

 私はにっこりと笑い、義兄に向かって宣言した。

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