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魔王×少女 ~幸せな愛の調教~
桜咲かな
異世界恋愛人外ラブ
2024年07月31日
公開日
148,922文字
完結
■ 商業・電子書籍化 ■

人間の少女『アヤメ』と、魔界の王『オラン』の恋愛物語。
全年齢対象の『幸せな愛の調教』甘々な恋愛・異世界ファンタジー。

16世紀の日本、自分への生贄として捧げられた人間の少女を、魔王は魔界へと連れ帰る。
純粋無垢な17歳の少女を溺愛し、妃にしたい魔王は、様々な事を教え込ませる。
『調教』により、やがて少女は魔王の思い通りの従順な女へと成長していく。

『少女』と『魔王』の契約から始まり、婚約、そして結婚生活。
魔界での幸せな日々の物語。


【商業・電子書籍化しました】
■ 商用タイトル『俺様魔王と生贄少女 ~愛の調教~』
■ 出版社:いるかネットブックス

第1話『魔王と少女』

この物語は、『魔界の王』が『人間の少女』を妃にする為に、日々奮闘する物語である。




時は16世紀、安土・桃山時代。

1573年、織田信長が足利義昭を追放し、室町幕府は滅亡する。


そんな時代の日本で、『魔界の王』と『人間の少女』は出会った。








「やべえな、早く人間を見つけねえと…」


その日、人間界に降り立った魔界の王『オラン』は、深い森の中を彷徨い歩いていた。

紫がかった銀色の髪に、褐色の肌、深紅の瞳。背中には、コウモリに似た大きな二対の羽根。

年齢は人間で言うと、見た目20代前半くらいだろう。

本来、人間界に来た時は、人間を装う為に羽根を隠すのだが、今はそんな余裕がない。

長時間、人間界に留まっていた為に生命力が尽きかけ、このままでは魔界に帰る事すら出来ない。


(誰でもいい。生命力を奪えそうな人間の女……)


だが、こんな森の奥深くに降り立ってしまった為に、人間の気配は感じられない。

時刻は夜に近い。しかし悪魔であるオランは、暗い森の中でも夜目が利く。

オランが焦っているのは夜の闇ではなく、『人間を見付ける』という目的であった。

諦めかけた、その時だった。


「きゃっ…誰ですか!?」


オランが落としかけた視線を前に向けると、目の前に人間の少女が立っていた。

驚いて口を開けたまま、微動だにしない少女とは裏腹に、オランはニヤリと笑った。

こんなにも都合よく、目の前に『人間の女』が現れるとは。

オランが少女に近付こうとすると、少女の顔は驚きから恐怖へと移り変わって行く。

それも、そのはず。オランは悪魔の羽根を隠し忘れている為だ。

震える少女の口から、ようやく出た一言。


「あ…あ…コウモリの妖怪……ですか……?」


それを聞いたオランは、嬉しさに加えて、さらに楽しくなった。


「ヒャハハ!!面白ぇ女だ。あんた、名前は?」

「あ…アヤメです……」

「歳は?」

「17……で…ございます……」


アヤメは、答えないとオランに喰われるとでも思ったのだろう。震えながらも懸命だ。

栗毛色の肩にかかる長さの髪に、同色の瞳。特徴的な所はない、普通の少女だ。


「オレ様は魔王オラン。魔界一の悪魔だぜ」

「あくま…ですか?それは妖怪の一種ですか?」


この時代、すでにキリスト教は伝来していたが、村娘であるアヤメには『悪魔』よりも『妖怪』の方が馴染み深かった。


「何でもいいが魔王サマと呼べ。サマも付けろよ」

「は、はい……魔王様」


すでに、アヤメはオランの言いなり状態であった。


「よし、アヤメ。オレ様と契約しろ」

「は……はい?」


突然の意味不明な要望に、アヤメは訳も分からず、返事が疑問形になってしまった。

だが、返事など関係なかった。オランは、無理矢理にでもアヤメと『契約』を結ぶつもりだった。

恐怖で動けないアヤメにオランは眼前まで近付くと、アヤメを見下ろした。

そっと、褐色の両手で、アヤメの両頬を固定するように包んだ。

これは……誰が見ても間違いなく、『口付け』直前の動作だろう。

だがアヤメは、それを分かっていない。

オランの深紅の瞳に見つめられ、体が動かず、心まで束縛されたような錯覚に陥る。

……彼は魔法でも使っているのだろうか。

だがアヤメの顔は紅というよりは、青ざめている。


「私を…食べるのですか?」


真面目な顔をして言ったアヤメに、オランは思わず含み笑いをした。


「クク……喰わねえよ」



そうして、静かに、人知れず、暗く深い森の中で………

『契約』という名の口付けは、行われた。



そう。悪魔との契約は、『口付け』によって成立するのだ。

突然の事に、アヤメは今、オランに何をされたのか理解できない。呆然として自分を見失っていた。


「これで契約成立だ。とりあえず応急処置させてもらうぜ」


オランはそう言うと、放心状態のアヤメに構わずに、今度は全身でアヤメの体を抱きしめた。

突然の抱擁に、アヤメは一転して狼狽える。


「魔王様、な、何を……?」


オランは何をする訳でもなく、ただアヤメの体温を全身で感じるように静かに包み込んでいた。

少しして、ようやくアヤメは解放された。

『応急処置』と称した抱擁で、オランはアヤメの生命力を吸収したのだ。

魔界へ帰る魔法が使えるくらいの力を補う為に。


「人間界では生命力を消費するんでな。人間と契約して、その人間の生命力を吸収させてもらう」


淡々と説明するオランに、アヤメの恐怖感はさらに増して行く。

何だか、さっきから接吻だの抱擁だの、色々されてしまった挙げ句、もしかして……


「私……死ぬのですか?」

「死なねぇ程度だから問題ねえよ。だが、オレ様が人間界にいる時は側にいろ」


悪魔は人間と『契約』し、『契約者』となった人間の生命力を吸収する。

近くに居るだけで、自動的に契約者の生命力を吸収できるのだ。

アヤメが側に居れば、オランは生命力を維持しながら、人間界を自由に動き回れる。


「その代わり、契約者の願いを叶えてやる規則なんでな。あんたの願いを言え」

「そんな……突然言われても……出ません」

「まぁ、そうだな」


純粋で、無欲な少女なのだろう。オランは、アヤメのそんな所も気に入った。

とりあえず今回は『契約者』を得る事が出来ただけでも良しとしよう、とオランは思った。




森の中なので気付かなかったが、近くにアヤメの住む村が存在していたらしい。

オランはアヤメの住み処を確認すると、その日は魔界に帰って行った。

本来なら、人間と契約している間は魔界に帰れない、という悪魔のルールもあるのだが。

それに関してだけは、自由奔放な魔王は全く従う気がなかった。





場所は変わって、ここは魔界。

オランは人間界から戻ると、自室の豪華な椅子に腰掛けた。

椅子だけではない。ベッドも、部屋の内装全てが光輝く金属や宝石で装飾されていた。

部屋の中には、もう一人、青年がいた。

見た目年齢は19歳ほどで、淡いブルーグリーンの髪、黄色の瞳、まるで女性のような綺麗な顔立ちをしている。

彼は、クールで大人しい性格の魔獣・ディアだ。

魔獣とは言っても普段は人間の姿をしていて、魔王の側近・男性秘書の役割をしている。


「魔王サマ、今日はどちらへお出かけでしたか?」


静かなディアの口調には、微かな怒りが込められている。


「まぁ聞けよ、ディア。人間界で女と契約を結んだぜ」

「人間界…そうですか、人間界で仕事をサボっておられたのですね」


ディアが怒るのも無理はない。

オランが魔界の仕事をサボってどこかへ遊びに出掛けると、その仕事は全てディアに任される。

ディアの日々の苦労は半端なモノじゃないだろう。

だがオランは悪びれた様子もなく、むしろ堂々として偉そうだ。


「人間と契約を結ぶのも悪魔の仕事じゃねえか?」

「屁理屈ですね」


ディアは魔王に従順で、立場も年齢も下ではあるが、臆せずに言いたい事はハッキリ言う。

人間と契約を結ぶという事は、今後も人間界に行っては自由に動き回る、という意味なのだ。

魔王の遊びと逃走の場が、人間界にまで広がった。







数日後、オランはやはり、魔界を抜け出して人間界へと遊びに出掛けた。

契約者となった、あの女……アヤメの事も少々気になる。

以前と同じ森の中に降り立つと背中の羽根を消して、歩き始めた。

契約者であるアヤメの気配を辿って歩けば、すぐに彼女の住む村に辿り着く。

だが、すぐに……その必要はなくなった。

まるで初めて出会ったあの時のように、目の前にアヤメがいたのだ。

まるで、オランが来るのを待っていたかのように。


「魔王様……ここに来れば、会えると思ってました」


以前とは違って、アヤメはオランを怖がりはせず、微笑みかけてきた。だが、どこか悲しそうだ。

オランは瞬時に、アヤメの表情から違和感を感じ取った。


「何か言いたそうだな。言えよ。前にも言ったが、オレ様はあんたの願いを何でも叶えてやる」


だが、その次にアヤメの口から出されたのは、衝撃の一言だった。


「私……生贄になりました」


さすがのオランも予測出来ずに一瞬、言葉が出なかった。


「あぁ?なんだそりゃ?何の生贄だぁ?」

「魔王様の、です」

「?」


オランにはアヤメの言う事が理解できない。

その後のアヤメの説明をまとめると、こうだ。


『オランが以前、人間界に降り立った時に、他の村人にも姿を見られていた』

『コウモリの妖怪が村を狙っているという噂が広まる』

『妖怪の気を鎮める為に、生贄を捧げようという結論に至る』


「それで?なんで、あんたが生贄なんだ?」

「それは多分…身寄りが無いので、都合が良いのでしょう。そうなりますよね」


アヤメはすでに両親を亡くしていて、村の誰かを頼って生きるしかなかった。


「魔王様…私の願い事です。どうか叶えて下さい」


アヤメは涙を浮かべながら、意を決して、オランを見上げた。


「私は、魔王様の生贄です。魔王様のお好きな様にして下さい」


願い事のはずが、全ての権利はオランに委ねられている。

これでは、願い事としてカウントできないだろう。

だが、オランがその時に感じたのは、驚きでも困惑でも無かった。


「ククッ……いいんじゃねえ?それ」


これ以上に都合が良い事があるだろうか、と。







アヤメがオランの生贄として捧げられたその日。

オランは、アヤメを魔界へと連れ帰った。

『アヤメは、コウモリの妖怪の手に渡った』と、村人の誰もが思うだろう。





ここから、『人間の少女』が『魔王の妃』となるべく奮闘する日々が始まっていく。

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