「急げ友也!」
「わかってるよ!」
校舎三階から階段を降りていく。
来る時は誰もいなかったが、どこかに潜んでる可能性もある。
警戒をしつつも明かりの大元である体育倉庫へと急いだ。
体育倉庫の近くに身を潜め観察する。
今は教室から見た明かりは無いが、扉の前に二人の見張り役らしき男が立っている。
おまけにそれぞれ金属バットと鉄パイプを持っている状態だ。
「どうする? 二人はきっと体育倉庫の中だ」
「相手も獲物持ちか。だけど二人だけだ」
「なら、このまま正面突破か?」
「それしか無いだろうな。他に隠れられる場所もねぇし」
「ふぅー。分かった。突入する時は合図してくれ」
「了解」
気づかれない様に手短に話し合いを済ませる。
相手が武器を持っていようとも、此処まで来て引き返す事なんて出来ない。
激しく脈打つ心を落ち着かせる為に深く深呼吸をする。
そして相手を見据えながら水樹の合図を待つ。
「今だ!」
水樹の合図と同時に物影から飛び出す。
俺は見張り役の内の一人目掛けて走り出す。
俺達が突然出現した事に面食らった様だが、直ぐに迎撃態勢を取られた。
ガキィンッ!
上段から振り下ろした箒を金属バットで防がれた。
このまま相手の間合いに居ると危険だ!
咄嗟にバックステップで距離を取る。
チラッと横を見ると、水樹も俺と同じ状態になったいた。
追い打ちが来るかと警戒していたがその様子は無く、金属バットを持った男が叫ぶ。
「てめぇらドコのモンだ? んな事してタダで帰れると思うなよ!」
言いながら金属バットを地面に叩きつける。
俺は震えそうになる足を必死に抑えて叫び返す。
「柚希と沙月を攫ったのはお前らだろ! 警察も既に呼んである! 逃げるなら今の内だぞ!」
今更こんな言葉で怖気づく奴らではないだろう。
案の定、男達は笑っていた。
「何が可笑しいんだ!」
「ぎゃはは! 俺達は警察なんか怖くもなんともねぇんだよ!」
「強がるんじゃねぇ! こんな事して捕まったら人生終わりだぞ!」
「俺達には心強い後ろ盾があるから問題ありましぇ~ん」
くっ! その後ろ盾というのはきっと景山と景山の父親の事だろう。
捕まる心配が無いからこんな事してるのか。
だったら尚更許せない!
沸々と湧き上がる怒りで飛び掛かろうとした時
「とりゃーーーー!?」
「ぐぇっ」
金属バットの男が俺の後方へ吹き飛んだ。
「なな、何だてめぇ!?」
「うりゃーーーー!?」
「ぐぇっ」
振り向きざまに顔面パンチが突き刺さり、もう一人の男も吹き飛ぶ。
暗がりでの一瞬の出来事に、一体誰が? と思っていると
「ふいー。二人共大丈夫だった?」
と額の汗を手の甲で拭いながら問いかけてきたのは田口だった。
田口は此処まで来る足が無かった為にファミレスで待機してる筈だったので、田口の登場に驚く。
「田口、助かったよ。でもどうやって此処まで来たんだ?」
「一旦家に帰って自転車で飛ばしてきたんよ~。疲れたわ~」
「はは、すげー体力だな」
田口のケタ外れな体力に嘆息しつつ、助けて貰ったお礼を言う。
「それにしても不意打ちとはいえ一発でのしちゃうなんて」
「やっぱり田口は昔から喧嘩慣れしてんな」
「いやいや~、佐藤君と水樹君が注意を引いててくれたからだって~」
「いつもパンチングマシーンやってたのはこういう時の為なんじゃないか?」
「そうそう。男は腕力! とか言ってな」
シュッシュッとパンチの動作をして揶揄う水樹と、謙遜する田口。
こんな状況で朗らかにしている二人が妙に頼もしく感じてしまう。
「それこそ偶然だって! でもこの場所に恭子ちゃんが居たら惚れ直しちゃうだろうな~」
「そこはブレないんだな」
と見張りを倒して緊張の糸が切れかかった時、体育倉庫の扉が開いた。
そして中から体格のいい男が二人姿を現した。
「おいおい、なんだこりゃ? オメェらがやったのか?」
そう言って俺達を睨み付ける。
ただそれだけでさっきの見張り役達とは次元が違うと感じさせられた。
しかし田口はいつもと変わらない様子で
「あいつ等は弱すぎでしょ~、笑えてくるわ~」
「あぁ? てめぇガキの癖に調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
おいおい煽ることないだろう!
海外のコメディのようにわざとらしく肩をすくめる田口にヒヤヒヤする。
「はいはい、そういうのはいいから。で? 景山っつーバカは何処に居るのかな~?」
「なるほどねぇ、健気にも女を助けに来たって訳か。でも残念だったなぁ。景山さんは今お楽しみ中なんだよ」
「ふ~ん、あっそ」
突然、田口と会話をしていた男に向かって箒が飛んでくる。
咄嗟に反応して男の態勢が崩れた!
「いっけぇーーーー!?」
田口が掛け声と同時に男の股間を蹴りあげた。
見てるだけでぞわっとするな。
「こ、このやろうよくも!」
「おい田口後ろだ!」
気づいてないのか微動だにしない田口。
やばい! と思い走り出そうとしたその時
「うらぁ!」
「ぐぇっ」
水樹の助走をつけた飛び蹴りが相手の脇腹に突き刺さり、敵がくの字になって吹き飛ぶ。
打ち合わせもしていないのに凄いコンビネーションだ。
「何ぼーっとしてんだ友也! 沙月達を頼むぞ!」
「そうそう。一発KOってわけにもいかなそうだし、ねぇ」
そう言う田口の視線の先では、さっき吹き飛んだ男たちがフラフラと立ち上がっていた。
感心している場合じゃ無かった! 現状では俺がフリーで動けるんだからその役目を真っ当しないと!
「ああ、任せたし、任せろ!」
せっかく二人が作ってくれたチャンスだ。
早まる鼓動を抑えながら、俺は体育倉庫の扉に手をかけた。