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第159話 惚気

 景山に襲われそうになり、俺と話し合いをしてから柚希は変わった。

 前までは会話するにしても常に主導権を握っていたが、今は適度に話し、聞き役になっている。

 その他の生活態度や行動でも一歩引いている感じだ。


 それは良い事なのだが、あの話し合い以降、以前よりも柚希が俺にベッタリになってしまった。

 あの時は冗談と言っていたがまさか……な。



 そして今日は一年の集大成と言っても過言ではない大晦日!

 以前から計画していた忘年会&初詣の日だ。

 忘年会はバイト先でやるので少し早めに家を出た。

 店長の真弓さんからOKを貰ったとはいえ店を使わせて貰うので簡単な手土産を渡して牽制する。

 きっと田口あたりが大声で騒いで迷惑掛けるからな。



 従業員用入り口から入り事務所に入る。


「失礼しまーす」

「友也か。どうした? 確か忘年会は18時からじゃなかったか?」

「真弓さん、お疲れ様です。そうなんですけど家に居ても暇なので。それと今日お店使わせてくれるお店使わせてもらうお礼と言っては何ですが――」


 と言いながら持って来た手土産を渡す。

 真弓さんは笑顔で受け取りながら


「そんなに気を使わなくてもいいんだがな。まぁありがたく受け取っておくよ」

「受け取りましたね?」

「ん? なんだと?」

「受け取ったからには俺達が多少騒いでも目を瞑って下さいね」

「そんな事か。今日は例年通り客が殆ど来ないからな、問題ない」


 そう言って真弓さんは「はははっ」と笑っている。

 折角田口対策に手土産を買ったのに無駄になってしまった。

 あとで田口に手土産代を請求しよう。


「っていうかそんなにお客さん来ないんですか?」

「ああ、来ない。これを見てみろ、去年と今年の来客数と売り上げだ」


 そう言ってパソコンに客数分析の画面を見せてくる。

 その分析結果を見て驚いた。客数が平日の10分の1にまで減っていた。


「真弓さん、これって店大丈夫なんですか?」

「逆に聞くが、大丈夫だと思うか?」

「すみません」

「だからという訳じゃないがお前達の忘年会を許可したんだ。精々売り上げに貢献してくれ」

「はい、なるべく多く注文します」



 皆が集まるまで事務所で待たせて貰い、スマホを弄っていると沙月からLINEが来た。


〈今家を出たので時間までには着くと思います〉

〈了解、気を付けてな〉

〈はーい♡〉


 沙月とのLINEを終えると同時に興奮した真弓さんから声が掛かった。


「友也の友人が来たぞ、しかもかなりのイケメン!」


 おいおい、この人高校生に興奮してるぞ。

 変態……もとい真弓さんに言われて防犯カメラを確認すると、水樹が来ていた。

 水樹じゃ真弓さんが興奮しても仕方な……くない! 未成年ダメ! 絶対!


「それじゃ俺は友人と合流しますね」

「コホンッ! 私も挨拶しておくとしよう」

「ダメです」

「本当に?」

「ダメです」

「……わかった」

「それでは失礼しまーす」



 しょんぼりした真弓さんを残して事務所を後にする。

 前の彼氏と別れてから一層イケメンに食いつく様になったな。

 早く新しい彼氏を作って欲しいものだ。


 そんな事を考えながら水樹の座っている席まで行き


「おっす、随分早かったな」

「オッス友也! いや、沙月を迎えに行こうとしたんだけど柚希ちゃんと行くから来なくていいって言われたからそのままこっちに来たんだ。」

「あ~、さっき沙月からLINE来て、今さっき家出たみたいだぞ」

「ならいいんだけどさ」

「おいおい、また沙月が心配になったのか?」

「そういう訳じゃないけど、友也のお蔭で仲直りできたし俺に出来る事をしたいと思ったんだ」

「そっか。まぁ俺も居るし安心してくれよ『お義兄にいさん』」

「はは、将来が楽しみだな」

「「はははっ」」


 しかし、将来沙月と結婚したら本当に水樹がお義兄さんになるんだよな。

 その時水樹は祝福してくれるだろうか。

 いや、きっと祝福してくれるだろう。結婚しても俺と水樹は親友だ。


 そんな事を考えながら他愛もない雑談をしていると中居と田口がやって来た。


「……うっす」

「佐藤君、水樹君ヤッホー! いやー、今日もよろぴくねー」


 なんだか疲れた様子の中居といつも以上にウザくなっている田口が挨拶すると


「どうした中居、なんか疲れてね?」

「ああ、それ俺も思った」


 どうやら水樹も中居の異変に気付いたらしい。

 もしかしてまた及川と何かあったんじゃ? と思い聞いてみると


「どうもこうもねぇよ、田口のバカがウザ過ぎて頭いてー」

「確かにいつも以上にウザいな」

「でも中居がそこまで疲労する程とは思えないけどな」


 中居は元々体力はある方だし、田口の扱いも上手いからマジでこんな疲弊した姿は初めて見た。

 と、中居に事情を聞いていると田口が話に割り込んできた。


「ないなに~? も・し・か・し・て俺の話題かな~? まいっちゃうな~」


 ウッッッザ!! なんだこのウザい生き物は? 駆除した方がいいんじゃないだろうか。

 そんな内情を隠してどうしてそんなにテンションが高いか聞いてみる。


「どうしたんだ田口、何か良い事でもあったのか?」

「バッカ、佐藤!」

「いや~、それ聞いちゃう? どうしよっかな~、ねえねえ聞きたい? 聞きたい?」

「だから一体なにが……ってうぉ!」


 田口の煽りの様な言い回しを我慢して話を聞こうとしたら中居に無理やり引っ張られた。


「なにしてんだ佐藤! お前も俺みてぇになりたいのか!」

「え? もしかして中居が疲れてるのって」

「俺も興味本位で聞いちまったんだよ……そしたらこのザマだ」

「マジか! あっぶね~、助かったよ」

「べ、別に助けた訳じゃねぇよ。また聞かされたくなかっただけだ」


 なるほど、田口の事だから自慢げに何回も話されたって事か。

 しかし中居のツンデレっぷりは今日も健在だな。

 リアルに「べ別、に~~」を聞けるのは俺だけだろう。

 美少女じゃないのが残念だけど。


「悪いな田口、その話はまた今度きかせてくれ」

「なに言っちゃってんの佐藤君~。今話さないでいつ話すの? 今でしょ!」


 今話さなかったら、一生話さなくていいです。


「実はさ~、ついにシちゃったんだよね~」

「何を?」

「おいおい、まさか」

「またまた~、佐藤君とぼけちゃって~。水樹君は分かっちゃったかな~」

「いいから! 何をしたんだよ!」

「まぁ、俗に言う恭子ちゃんと結ばれたって感じかな~」


 なんだ、その事か。恭子ちゃんとの事は沙月から聞いたから余り驚きは無いな。


「へぇ~、田口も男になったのか」

「まぁね~。やっぱり経験すると世界が違く見えるよね~」

「はは、そんな大層な事じゃないだろ」

「いやいや、今の俺には世界が輝いて見えるよ~」


 スゲェな水樹。今の田口を軽くいなしながら顔は反対方向向いてるよ!

 でも少しはしゃぎ過ぎだな。

 女子達が来る前に少し大人しくさせておくか。


「でも田口、お前確か本番前に果てたんじゃなかったっけ?」

「ちょ! 佐藤君! どうしてそれを! ってか誰から聞いたの? じゃなくて、そんな事はないし! ちゃんと最後までしたから!」

「最後までって、一緒に眠るのが最後までじゃないぞ?」

「それも知ってるの! って、そうじゃなくて! 本当にちゃんと最後までしたんだって!」

「いつ? クリスマスはダメだったんだろ?」

「き、昨日だよ」

「え?」

「恭子ちゃんがさ『今年中に結ばれたいからリベンジしよ?』って」

「……」

「それで昨日リベンジしたら最後まで出来ちゃったんだよね~。やっぱり恭子ちゃんは運命の人だわ~」


 マジか。まさか本当に最後までしてたとは。

 っていうか恭子ちゃん結構積極的だな~。

 初めて会った時は田口には目もくれてなかったのに分からないもんだな。


 などと考えながら結局その後も、女子達が到着するまで田口の惚気を聞かされるハメになった。

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